第25話 威厳

膝をついたヤンキー達は地面を頭につけた。



「本当にすいません!

 こいつの事はあとできちっと教育しておきますんで!」


「別にそこまでしなくてもいいけど、

 これから鳴高のやつに会っても絡むんじゃねぇぞ」


「はい!

 気をつけます!」



ヤンキー達は一礼して踏まれていたやつを回収してバイクに乗って去って行った。



「江口…

 お前相田さんとどういう関係なんだよ…」


「いやっ…

 まあ色々ありまして…」



副団長はびっくりした顔のまま固まっていた。


俺らはコンビニで昼食を買って学校へと戻った。

教室で皆で昼食を食べていた。



「江口君ってなんかすごいねぇ~

 ケンカも強いらしいし、

 頭も良くてスポーツ万能なんでしょ?」


「そうなんだよ!

 雅くんはすごいんだから!

 私と一緒にいて絡まれた時なんかカッコよかったんだから」



俺は沙耶の顔を見て言うなという目で訴えた。

沙耶はヤバいという顔をしてごまかしていた。


午後は男女混合で練習をすることになった。


もちろん沙耶が申告をしたせいもあり、

ペアは沙耶である。


周りの先輩や同級生は俺たちの事をにやにやした目線で見ていた。



「お前のせいで変な目で見られるじゃないか」


「恥ずかしがってるの?

 雅~」


「そういうの止めてくれよ」


「いいじゃん!

 一応カップルなんでしょ?」


「そうだけどさぁ…」



練習の休憩中、

俺は浅井と沙耶を含む同じ学年で集まっていた。


すると団長や副団長を含む、

2~3年の先輩達が集まってきた。



「江口君さぁ…」


「はい」


「相田君のところの暴走族の人なの?」



団長がいきなり尋ねてきた。


皆でがやがやしていた一年生達の顔がこわばり、

周りはシーンとした静寂に包まれた。


2~3年の先輩達は心配そうな顔でこちらを見ていた。


静寂を破るかのように俺は口を開いた。



「違いますよ」


「だったらなんであいつ等は江口君に頭を下げてたんだい?」


「副団長にも言いましたけど、

 前に少し知り合っただけですよ」


「普通顔見ただけで頭下げるかなぁ…。

 おかしくない?」


「何が言いたいんですか?」



俺は思わず少し威圧してしまった。


少し不安げな顔をしながら団長はもう少し突っ込んできた。



「あいつらは今まで誰が何言ってもいう事も聞かなかったのに、

 江口君が言っただけですんなり引き下がるっておかしいって事」


「それで俺があいつらの偉いさんだと思われているって事ですか?」


「そうだね…」



俺は少し考えてまた話始めた。



「前に相田君とやりあった事があるんす」


「えっ…?」



周りの顔はよりこわばった。



「それで一応話し合いを一度して、

 お互いに手を出し合わないって事で話ついたんですよ」


「それで?」


「この前絡んできた中にその状況を知ってるやつがいたんで、

 そういう話になったんです」


「という事は江口君は相田さんの所とは関係ないの?」


「ありません」



団長は緊張感がほどけたのか、

少し顔がほころんだ。



「俺らが一緒にいても絡まれる事はないって事でいい?」


「逆に俺がいれば絡んで来ないっすよ」



周りの生徒たちも胸を撫でおろしていた。


結局俺は相田のグループに属していないという判断になり、

今後も練習に参加しても良い事になった。


しかし周りからの対応は変わり、

今まで呼び捨てにしていた先輩達も、

”くん”づけで俺を呼び始めた。



「江口やっぱり先輩からビビられてるよ」


「やっぱりそうだよね…」


「まあ仕方ないよね。

 今まで誰も逆らえなかった相田の所のグループ鎮めちゃうんだから」


「そんなつもりはこれっぽっちもなかったんだけど…」


「ってか相田といつやり合ったの?」


「由希の事件があってすぐだよ」


「そうなんだ…。

 知らなかった…」


「知ってたらお前みんな言う気がしてさ」



俺と浅井は練習を少しサボって自販機の前で話し込んでいた。




「きゃぁぁぁあああぁぁあ!!!」


「誰かぁあああぁあ!!」




教室の方から大きな悲鳴が上がった。


俺と浅井は急いで昇降口に向かい、

階段を駆け上がった。



「近づくな!!

 殺すぞ!!!」



そこには包丁を持った男子生徒の姿があった。


周りの生徒達はうろたえており、

そいつの腕の中には沙耶の姿があった。



「痛い!

 やめてよ!!」


「うるさい!

 お前が悪いんだ!」



包丁を持つ男子は谷口だった。


谷口は俺の顔を見るなり、

顔が真っ赤になっていた。


そして包丁を沙耶に突き立て、

気持ちの悪い笑みを浮かべた。



「おい!

 沙耶は俺のもんだ!!

 向こう行ってろ!!!」


「落ち着けって…。

 好きな女なら泣かすなよ」



あまりの騒ぎに隣のクラス等から色んな生徒が見に来た。



「見せもんじゃねぇんだ!!

 あっち行けよ!」



包丁を振り回して谷口は周りを威嚇していた。


俺はなだめようと声をかけた。



「おい。

 何しに来たんだよ」


「お前が俺の沙耶に手を出すから!

 沙耶は俺が守るんだ!」


「とりあえず落ち着けって…。

 沙耶も怖がってるだろ?」


「うるさい!

 お前のせいなんだ!!!」



沙耶は涙を流しながら怯えていた。



「沙耶?」


「ん…?」


「大丈夫。

 少し痛いかもしれないけど我慢出来るな?」



沙耶は谷口の腕の中で静かに頷いた。



「お前何勝手に沙耶に話しかけてんだよ!」


「いい加減にしろ!!!!」



谷口は後ろに下がった。



「これ以上沙耶を泣かせるな」


「なんだとぉ!!!」


「お前はここで再起不能してやるよ」


「手を出したら沙耶を刺すぞ!!」


「やってみろ」



俺は全力で地面を蹴って谷口の顔面に飛び蹴りをかました。

あまりの速さに周りは目が追い付いてはいなかった。


谷口は吹き飛んで教室の壁に叩きつけられた。


沙耶はその衝撃で宙に舞った。

俺は地面に着地して沙耶を受け止めた。


周りの生徒たちは未知の生物を見るかのように目を丸くしていた。


俺は沙耶を浅井に任せ、

地面に倒れている谷口の髪を左手で引っ張り上げて立たせた。



「痛いよ~

 やめて…」


「はぁ?」


「悪かったから…

 やめるから…」


「おせぇよ」



俺はみぞおちに右こぶしを突き刺した。


谷口は体がくの字に曲がって嘔吐した。

それでも俺は手を止めず、

掴んでいた髪を離し、

下を向いている顎に膝を入れた。


顔が跳ね上がり、

体が宙を浮いた。

その時谷口は気を失っていた。


それでもお構いなしに空中で頭を掴んで地面へと叩きつけた。


谷口は衝撃で目を覚まして唸り始めた。


唸っているだけでピクリとも動かない谷口と、

地面や教室の壁にヒビが入っている光景に教室の生徒たちは、

動くことも音をたてることも出来なかった。



「団長」


「え…あ…は…はい…」


「警察でしょ?

 この場合は」


「でも…せ…先生…よばな…きゃね…」


「どっちでもいいっすよ。

 早くしないと起きますよ?」


「う…うん…」



団長は勢いよく教室を飛び出して職員室へと向かった。


俺は沙耶の元へと駆け寄った。

沙耶は涙を流しながらこちらを見つめていた。



「大丈夫だったか?

 ちっとはスッキリしたか?」


「もう少しやってやっても良かったけどね!」



沙耶は涙を流しながら俺の胸へと飛び込んできた。


周りの生徒たちは少しずつ活気を取り戻して、

ヒューヒューとおだてていた。






しかし、奥の方で見ていた由希は静かにその場を去って行った。







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