第23話 恋人

俺は体を起こした。

体は包帯でぐるぐる巻きの状態だった。


骨折した箇所も痛むが、

動けない事はなかった。


体の感じ撃たれたところも当たり所が良かったようで、

臓器を傷つけてはいなさそうだった。


俺の体が動いた事に気が付いたのか、

沙耶が静かに目を開けた。



「あっ!!

 起きてる!!!」


「よぉ…」


「死んだかと思ったぁ…」


「泣くなよ。

 少し寝てただけだって」



沙耶は涙を拭って笑顔になった。



「元気なの?」


「少しケガしたところが痛いくらいのもんだよ」


「応援団の練習行けないね」


「すぐ戻れるから大丈夫だよ」



沙耶は少しうつむきながら言った。



「江口君って何者なの?」


「何者か…。

 普通の人ではないかもな」


「スーパーマン的な?」


「ちょっと違うけど似た感じかな」


「本当に高校生なの?」


「ちゃんと高校生である事に変わりはないよ」



沙耶は首をかしげていた。



「実は人とは少し違う体なんだ。

 それで秘密にしないといけない事も多くて…。

 高校生だけど軍や警察と一緒に仕事もしてる。

 信じてもらえないかもしれないけど」


「私は信じるよ」


「信じるの?」


「あんなの目の前でみたらね」


「そうだな」


「うん…」



俺は間を置いて話しかけた。



「みんなには秘密にしてほしいんだ。

 俺はあの高校を辞めたくない。

 もしばれたら辞めなきゃいけないんだ」


「分かった。

 内緒にしてあげる。

 その代わり…」


「何だよ」


「分かってるくせに~」


「はぁ…。

 言う事聞いてやるよ」



一息ついて沙耶は言った。



「付き合って」



俺は黙っていた。



「一つだけ条件をつけたいの」


「条件?」


「嫌だなとか無理だなって思ったらすぐ言って。

 別れてあげるから」


「いいのか?」


「明日にでも別れたいと思ったら言ってくれていいよ」


「でも別れたら秘密ばらされるかもしれないじゃんか」


「そんな事しないよ。

 守ってもらった恩もあるんだから」


「そうか…」



少し間を置いて沙耶は言った。



「でも別れたいなんて思わないと思うけどね」


「なんで?」




沙耶は目を見て真剣な表情で言った。






「私は好きだから」







その真っすぐな目に俺は何も言い返す事が出来なかった。

病室は静寂に包まれていた。



3日が経ち、

体も無事に回復した。


医者はあまりの回復力に度肝を抜かれていた。

もちろん毎日病室に通ってくれている沙耶も驚いていた。


回復の知らせを受けて達也が再び病室へと訪れた。



「体調は万全ですか?」


「問題ない」


「ちょっと沙耶ちゃんは席外してもらっていいっすか?」


「分かりました」



沙耶はまた後でと言って部屋を出て行った。



「良い子捕まえましたね雅さん」


「やかましい。

 要件だけ言えよ」


「またつまんない事言うんだから」


「早く」


「はいはい」



達也はバッグの中から資料を取り出した。



「結局楓とあのフランス人には逃げられました。

 こっちの部隊も2名が死にました」


「あんなに行って捕まえられなかったのか?」


「仕方ないですよ。

 みんな雅さんみたいに強くないですからね

 まあリミットではないのでまた生まれ変われますよ」


「簡単に言うんだな」


「俺たちはある意味捨て駒ですからね」



俺は渡された資料に目を通した。



「楓が持っていたのはベレッタか」


「そうですね。

 逃走の際に弾切れになって落としていったのを回収しました」


「入手元は割り出せたのか」


「何とも言えませんね。

 実際うちの部隊にも重火器はありますし、

 それを盗んでいった可能性も今調べています。

 さらにベレッタは多くの国で使われているハンドガンですから、

 入手先を調べ上げるのは困難だと…」


「でもこれベレッタの92じゃないか?」


「えっ?」


「お前ちゃんと銃について勉強してないのかよ」


「すいません…」



ベレッタはイタリアの企業で作られたアメリカ軍でも使用している人気モデルだ。

作られた当初はベレッタ92と言う名前であったが、

使いにくいことなどで改良され、92S、92Fとモデルチェンジをしている。


今回使われているベレッタ92は作成当初のもので、

モデルチェンジをする前に量産されたベレッタの初期モデルだった。



「安全装置の位置がおかしいだろ?

 マガジンの底も薄いし」


「言われてみればそうですね…」


「こんな使いにくい銃今では軍や警察では使用されて無いだろ…」


「民間でも見かけづらいモデルですね…」


「こんな銃扱ってるやつなら探せば絞れると思うけどな」


「すぐに調べさせます」



達也はすぐに携帯で連絡を取っていた。



「それで何が聞きたいんだ?」


「楓はどうやって接触してきたんですか?」


「どうやっても何も家の前に張り込まれてたんだよ」


「その時に何か言われませんでしたか?」


「何も言われてねぇよ。

 いきなりフランス人も現れて襲って来たんだから」



達也は胸をなでおろすように椅子に座った。



「どうしたんだよ」


「一応勧誘されていたのかどうかは知る必要がありますからね。

 もし情報について話していた場合は消せとの命令だったので」


「試したのか?」


「すいません…」


「他に聞く事あんのかよ」


「逆に気づいた事とかありますか?」



俺は資料のフランス人の男を指さして言った。



「こいつは出身は何とも言えないけど、

 パリに在住の期間が長いと思う」


「何でですか?」


「フランス語の喋り方が少し乾いた感じの音が多いのと、

 全体的に短く発音する節がある」


「なるほど…」



フランスは南下するにつれて音節を発声していく傾向にある。

それに比べてパリでは少し乾いた音で発声し、

音節を出来るだけ短くしているような音になるのだ。


日本語と同じように海外の言語にも訛りがあるのだ。



「貴重な情報ありがとうございます。

 今日中に退院出来ますので、

 手続きしておきます」


「わかった」


「帰るタイミングはお好きなタイミングでいいですよ」


「了解」


「また連絡しますね」


「おう」



達也は部屋を出て行った。


達也と入れ替わるかのように沙耶が部屋に入ってきた。



「この後どうするの?

 退院出来るって聞いたけど」


「一回応援団の練習でも見に行くか?」


「大丈夫なの?」


「普通の人間じゃないって言っただろ?

 心配すんな」



俺は沙耶の頭をポンポンと叩いた。


沙耶は嬉しそうに俺の腕を掴み、

荷物を持って病室を後にした。





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