第22話 守る

楓はこちらに戦闘ポーズをとった。


俺は沙耶を自分の背中に隠すように立たせた。



「ねぇ…

 江口君…あれ誰…?

 元カノ?」


「ちょっと黙っててもらえるかな」


「う…うん…」



楓はこちらを睨んでいた。

するとマンションの4階の建物なのにも関わらず、

下から人が飛んできた。


それを見た沙耶は固まっていた。



「よう…。

 久しぶりだな」



下から飛び上がってきた男はフランス語を話していた。



「何の用だ」


「分かってるだろ?

 注意喚起くらいはされたはずだと思うが?」


「いいのかい?

 今やりあったらすぐに応援がくるぞ?」


「すぐに終わらせれば問題ないんだよ!

 行くぞ!楓!」



楓とフランス人は勢いよくこちらへと突っ込んできた。


俺は正面から迎え撃つことも可能だったが、

沙耶がいるのでそれは危険だと判断し、

沙耶を抱えてマンションの4階から飛び降りた。


沙耶は悲鳴を上げながらしがみついていた。


着地と同時に地面を蹴り上げて人気が無い山の方へと向かった。

人を一人抱えている事でスピードが遅いのか、

楓とフランス人は簡単に追い付き、

俺を地面へと叩きつけた。


商店街のど真ん中で戦闘が始まってしまった。


楓の追撃である振り下ろされた拳を俺は避け、

地面にめり込んだ瞬間に顎に蹴りをくれてやった。


楓の体はのけ反り、

頭から地面へと倒れ込んだ。


それを見たフランス人は隠し持っていたのであろうナイフを沙耶に向かって突き立てた。

沙耶を守らなければいけない為、ナイフを素手で掴んだ。



「いいのか?

 血が出てるぞ?」


「やかましい!」



俺はフランス人の腕に手刀をくらわした。

一瞬怯んだ所に蹴りをかまそうとした瞬間、

後ろから楓が背中に蹴りを入れた。


俺は吹き飛び、

近くのコンビニの壁に叩きつけられた。


沙耶は何が起こっているのか理解が出来ず、

茫然と見ている事しか出来ていなかった。


近くにいた人はパニックで逃げ惑い、

多くの傍観者が距離を置いて取り囲んでいた。



「何でこんなことすんだよ!

 他の連中は関係ないだろ!」



楓は何も言葉を返さなかった。



「ここにきて時間稼ぎかい雅くん?

 あそこで俺の誘いを断らなければ良かったんだよ!」


「くそっ!」



フランス人の男は勢いよくこちらに向かって走ってきた。


俺は叩きつけられた事により、

あばらが何本か折れている。

すぐに立つことは出来なかった。


ナイフがこちらに向かって振り下ろされる瞬間、

俺は動けない体ではあったが、

叩きつけられた事により砕けた壁の石材で防いだ。



「ここにきてまだ悪あがきするのかい!」


「ここで死ぬわけにはいかねぇんだよ!」



痛みを堪え、

男の脇腹に倒れたまま蹴りを入れた。


男は吹き飛び、

電信柱へと叩きつけられた。


電信柱は音をたてて折れ、

轟音と共に地面で砕け散る。


同時に空中に火花が散り、

周りの電気が一斉に暗くなった。



「沙耶!」


「江口君どこ!?」


「立て!飛ぶぞ!」


「えっ!?」



俺は気絶しそうな痛みを必死に我慢して沙耶の腕を掴んだ。

そのまま全力で地面を蹴り上げて5~6mほど空中へと浮かび上がった。



「雅!!!!!」





バンッ!!!!!!




楓の手には銃が握られていた。


俺は空中で身動きが取れず、

銃弾は俺の脇腹へ打ち込まれた。


意識が遠のく中、

沙耶を引きよせ抱きしめた。


俺は空中で体を入れ替え、

背中から地面へと叩きつけられた。



「江口君!!!」


「逃げろ…」


「ダメ!ケガしてる!!」


「いいから…」



沙耶は俺から離れようとはしなかった。


向こうからゆっくりと足音が聞こえてきた。

楓が銃を俺に向けていた。



「お前何でこんなことするんだよ…」


「私だってこんなことはしたくなかった…」



銃を向けている楓の腕は震えていた。



「ごめん」



楓の腕の震えが一瞬止まり、

俺は目を閉じた。




「やめて!!!!」




俺が目を開けると、

沙耶が俺に覆いかぶさり、

楓を睨みつけていた。



「なんでこんな事するの!?

 何もしてないじゃない!!!」


「どきなよ。

 あんたも死にたいの?

 できれば関係ない人は殺したくないの」


「だったらやめてよ!!

 こんなに江口君ケガしてるじゃない!!」



楓は沙耶を掴んだ。

沙耶は泣きながら俺の服を掴んでいた。




「よく頑張ったわね」




ガシャーン!!!



そう言葉が聞こえてきたと思ったら、

目の前の楓が吹き飛んでいた。


俺と沙耶の前には一人の背の低い女性が立っていた。

しかし帽子を深くかぶっており、

顔は見えなかった。



「あんた…は…」


「あんたは上司の声も忘れてしまったの?」


「来るのが…おせぇよ…」


「ちょっと預かってる子がだだをこねててね」



すると後ろから5~6人のスーツの男女が現われた。



「あのフランス人の男と楓を捕まえなさい!」



現われた人たちは一斉に飛び出していった。

楓とフランス人は逃げていった。



「雅さん大丈夫っすか?

 今回ボコボコにやられましたね」


「うるせぇ…」



俺は後から来た達也に担がれた。

すると沙耶が達也の腕を掴んだ。



「どこに連れて行くんですか!?

 救急車まだですよ!!」



達也はぽかんとした表情で俺に言った。



「この子どうしますか?」


「一緒に連れてってやってくんない?」


「ん~。

 いいんすか?全部バレますよ?」


「ここまで来たら仕方ないだろ」


「じゃあお嬢ちゃんも乗って!」



俺と沙耶はハイエースの荷台に乗せられ、

達也は運転席に乗り込んで走り出した。



「こんなにケガしてるのにすぐに治療しなくていいんですか!?」


「大丈夫大丈夫。

 雅さんは意外と丈夫だから」


「黙って運転してろよ」



俺は車の中でそのまま寝てしまった。



目が覚めるとそこは病室だった。



「おっ!目が覚めましたね」


「ここどこだよ」


「藤田医科大学病院ですよ」


「そのまま病院に運ばれたわけね」


「救急車で行くと大事になってしまうんで、

 こうやって静かに搬送されたんです」



俺は左手にぬくもりを感じた。


目を向けるとそこにはもたれかかって手を握り寝る、

沙耶の姿があった。



「何回も帰るように言ったんですけどね。

 目を覚ますまで絶対帰らないって意地はって帰らなくて」


「俺はどれだけ寝てたんだ?」


「丸二日って所ですかね」


「楓たちはどうなった?」



達也は黙って首を振った。



「とりあえず回復したら色々と聞きたい事もありますんで…」


「ああ」


「後その子には何て説明するか知りませんけど、

 秘密が漏れるような事態があれば処分の対象になりますので忘れずに」


「この子は今すぐ処分じゃないのか?」


「そんなカワイイ寝顔見せられたら僕には出来ませんよ」


「いいのか?」


「雅さんを信じます」


「わかった」


「外に警備班配備させてあるんで、

 なんかあったら叫んでください」




達也は黙って病室を出て行った。




沙耶は寝ながら少し微笑んでいるように見えた。





 








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