第21話 発覚

顔を蹴られた男子は顔を抑えて再び唸っていた。

沙耶は泣きそうな顔でそいつを睨みつけていた。


沙耶はすぐに俺の側に来て、

持っていたハンカチで血を拭いた。



「江口君大丈夫!?

 ケガしてる!」


「大丈夫だよ。

 すぐこれくらいなら止まるから」


「ダメだよ!!

 保健室行こ!!」


「いいって…」



沙耶は俺の腕を掴んで離さなかった。

周りの先輩達も行って来いという顔をしていた。


仕方なく俺は沙耶に連れられて保健室に行った。



「あら…

 初めてのお客さんね。

 どうしたのかしら?」


「頭を石でいかれまして」


「頭を石?

 ちょっと見せてね…」


「すぐ血は止まると思うんで、

 冷やすものだけ適当に下さい」


「あなたもう塞ぎかかってるわよ?」


「当たり所が良かっただけですよ」



保健室の先生は不思議そうな顔をしていた。



「そこにベッドあるから座って待ってて」


「はい…」



先生は部屋を出て行った。



「あいつなんだよ?

 いきなり殴りかかってきて…。

 なんか沙耶俺の事が好きなんだぁぁ!

 って叫んでたけど」



沙耶は少し下を向いて話始めた。



「あいつ谷口って言うんだけど、

 中学の頃からああいう感じなの」


「幼馴染なの?」


「なんか私の事が好きって前から言ってるんだけど、

 ずっと断り続けてるの」


「それでも食い下がってくると…」


「さっきみたいに私に近づく男の子に片っ端から因縁ふっかけて、

 問題を起こしてすごい迷惑してるの」


「ふ~ん」


「止めてって言っても私の為だからとか言ってやめてくれないし、

 最近は家までストーカーしてくるし最悪なの…。

 さっき死んでとか言ったから押しかけて来るかもしれない…。

 どうしよう…」


「家に親とかいるだろ?」


「私の親は今海外に二人で旅行に行ってるから留守番してるの。

 だから誰もいなくて…」


「友達の家にでも言ったら?

 夏休みだから行けるでしょ?」


「女の子の家までついてきたら迷惑かかっちゃうよ…」



沙耶は少し不安そうな顔をしていた。



「ごめんごめん…。

 これで冷やして」


「ありがとうございます…」



先生がちょうど帰って来て、

ビニール袋に入れた氷を渡された。


俺は氷を受け取って保健室を出た。

沙耶も続いて保健室を出た。


グラウンドに戻るとそこにあの男子の姿はなかった。


戻ってきた俺の姿を見た浅井はこちらへと駆け寄ってきた。



「大丈夫か?

 お前が殴られるところ初めて見たよ」


「わざとだよ。

 殴らせたら気が収まるかと思ったら逆効果になっちまった」


「ケガはいいのか?」


「ちょっと切れてるだけだから大丈夫だよ」



浅井はほっと胸をなでおろしていた。



「あの谷口ってやつはどうしたんだ?」


「なんかお前と沙耶ちゃんが一緒に保健室に行ってすぐに、

 泣きながら走り去っていったけど…」


「泣きながらね…。

 何か言ってたか?」


「なんか絶対許さないとかなんとか言ってたよ」


「めんどくせぇ事になりそうだな…」



沙耶はその話を聞いて心配そうな表情をしていた。


結局男子と女子が合流した為、

合同でグラウンドで練習することになった。


浅井は副団長から彼氏がいない女子の情報を教えてもらって、

嬉しそうにしていた。


俺はすぐに振り付けを覚えてしまったので、

他の一年生に教えるように頼まれた。



練習は終わり、

皆が散り散りに帰る事になった。


俺と浅井は駅まで二人で帰ろうとした。

沙耶は友達の女の子と一緒に俺たちの隣を歩いていた。



「江口そんなケガして帰ってなんも言われないの?」


「俺一人暮らしだから」


「親いないの?」


「昔、事故でね…。

 親が残した金とかがあるから問題なく生活出来てるんだ」


「ごめん…。

 俺知らなかったわ…」


「いいよ。

 昔の事だから」


「じゃあ家に誰が来ても問題ないんだな!」


「まあ…」



駅に着き、

改札を抜けて電車へと乗った。


浅井は降りる駅が違う為、

そのまま電車に乗って帰っていった。


電車を降りて改札に向かっていると、

後ろから勢いよく腕を掴まれた。


誰かと振り返るとそれは沙耶だった。



「江口君もこの方面なんだね」


「家はすぐそこだから…」


「じゃあ私と中学の学区一つ違うだけだね」



俺は面倒なやつに捕まってしまったと思い、神様を恨んだ。


俺はコンビニ寄って飯を買って家に向かった。

すると沙耶も同じようにコンビニで食料を買っていた。



「なんでついてくるんだよ」


「だって江口君一人暮らしなんでしょ?

 私も家に誰もいないし、

 せっかくならお家入れてよ!」


「なんで!?」


「興味あるじゃん男子高校生の一人暮らしの部屋って!」


「大丈夫!

 何があっても誰にも言わないから!」


「何もねぇよ!」


「じゃあ入ってもいいでしょ?」


「自分の家に帰れよ!」



すると沙耶は足を止めてしゃがみこんだ。

そしてこちらをちらちら見ながら言った。



「もしこのまま谷口に襲われても知らないから!

 江口君が見捨てたって言いふらしてやる!」


「見捨てるって…」


「か弱い女の子を一人にしたって言いふらしてやる!」



俺は沙耶に近づいた。


沙耶の腕は小刻みに震えていた。


きっとあそこまでの凶行にでた谷口の事が怖いのだろう。

さらに家に誰もいない事もあって恐怖をあおっているのではないかと考えた。



「分かったからうちに来たこと誰にも言うなよ」


「ホントに!?

 やったぁ!!」



俺はマンションの前に着いた。

階段を上って部屋まで上がる。


その後ろを満面の笑みで沙耶がついてきた。


階段を上がりきって部屋の前に目をやると、

そこには一人の女性が立っていた。



「良いご身分だな。

 狙われてんのに女連れとは!」


「お前!!」







そこに立っていたのは楓だった。







 

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