第20話 練習
学校は夏休みに入った。
うっとうしい校長の話も終わり、
後は帰るだけとなった。
しかし帰ろうとしたとことで先輩達が教室にやってきた。
「体育祭の有志の人はST終わったら3年の教室に来てね!
練習するから!」
結局帰る事が出来なくなり、
俺は浅井と3年の教室へと向かった。
「後輩諸君久しぶりやね!」
教室から出迎えてきたのは3年生の副団長の林先輩だった。
「1組の子?」
「はい」
「もう8組の子来てるから!
入って入って!」
「はい…」
教室に入るとそこには沙耶を含む一年生が数名と二年生が数名。
そして三年生が数十名いた。
「江口君!
隣いいよ!」
「ありがと…」
「浅井君もそこ空いてるから!」
「俺は隣じゃないのね…」
俺らのクラスが席に着くと、
団長の山田先輩が前に出て話始めた。
「夏休みですが、
みんなには出来るだけ平日は毎日集まって欲しいです!
もちろん部活や予定のある方もいるので、
毎回は難しいかもしれませんが、
来れる方は時間を見てきて頂けると光栄です」
流石に毎日来るのはしんどいので、
自分は来たくはなかった。
浅井も少し嫌そうな顔をしていた。
しかし夏休みに毎日来て何をするのか…。
ダンスの振り付けの練習というが、
一ヶ月みっちり教えこまないといけない程のものなのだろうか。
「3年生と2年生は知ってると思うけど、
ダンスは男女のペアになります!
なのでペアの構成はこっちで決めますので、
夏休み中もし組みたい人がいたら希望出して下さいね~」
山田先輩はニヤニヤした顔で皆を見ていた。
浅井の顔も少し綻んでいた。
「ねぇねぇ江口君…
ペア組まない?」
「団長が勝手に決めるんだろ?
ここで話しても無駄じゃない?」
沙耶は少し寂しそうな顔をしていた。
3年生の先輩達が男子と女子に分けた。
男子はグラウンドの空いているスペースで、
女子は教室と廊下を使って練習することになった。
「なぁ江口…
お前沙耶ちゃんと組むのか?」
「いやっ…
俺が決めるわけじゃないからな…」
「由希が見たら哀しむぞ?」
「別に俺が好意があるわけじゃないだろ?」
「それは内側の意見だよ。
外から見たらどうなのかって話だろ?」
「う~ん…」
俺は悩んでいた。
正直沙耶にそういう気持ちが無いわけではない。
あそこまで積極的に来られたら揺らいでしまう気持ちがあるのも事実だ。
由希の事も正直気にはなっている。
しかし浅井と付き合って欲しいと思っているのも事実だった。
「何の話してるの?
一年生!」
「いやっ…別に…」
「組みたい子でもいるのかい?
いるなら団長に伝えてあげるけど?」
「別に組んだからってどうってことないですし、
俺らは誰でも良いですよ」
「知らないの応援マジック」
「応援マジック?」
「応援団で仲良くなる事でカップルになれるってマジックの事だよ。
上級生たちも後輩と関われる機会が少ないからね。
こういう所でカップルになるんだよ」
「へー…」
まあこういう機会がなければ先輩後輩で付き合う事は難しいだろう。
たまに校内でも学年をまたいで付き合っているカップルを見るが、
大体どちらかが異常な程にイケメンかカワイイという事でしか成り立っていない。
「応援マジックを知った今!
江口と浅井にはペアになりたい人はいるの?」
「俺は別にいないっすよ」
「俺は彩先輩とペアになりたいっす!」
「彩ちゃんはダメだなぁ。
団長と既に付き合ってるから」
「そんなぁ…」
浅井は落ち込んでいた。
副団長は浅井の方をポンポンと叩き言った。
「同じ学年とか先輩の子から
彼氏いない子ピックアップしといてやるよ」
「副団長は神様ですか!?」
「おう!
俺の事は神様と呼びたまえ浅井君!」
「はい!神様!」
ふざけたショートコントだと思い、
離れて見る事にした。
離れて見ている所に一人の男子が近づいてきた。
「お前が江口か?」
「そうだけど…」
「スポーツも勉強も万能でケンカも強いって有名だな」
「そんなことないよ。
たまたまだよ」
「なんでお前みたいなやつがこんな高校にいるんだよ」
「家が近かったからだけど?」
「お前みたいなやつが沙耶に近づくなよな」
「はっ?」
「沙耶は俺の事が好きだから手を出すなって言ってんだよ!」
するとその男子は俺の顔めがけて殴りかかってきた。
俺は咄嗟にバク転し、後ろへと避けた。
するとそいつは勢いを緩めることなくこちらへと突っ込んできた。
もしやり返してしまったらケガをしてしまうと思い、
手を出し返すことは出来なかった。
仕方がないので出される拳や蹴りは全て避け、
近くにあった大きな木の上に飛び乗った。
「なんだよいきなり…」
「お前沙耶と仲良さそうにしやがって!
沙耶は俺の事が好きなんだよ!」
「何の話だよ…」
「いちゃいちゃしやがって!
2度と近づくんじゃねぇ!!」
周りの先輩達や同級生はケンカだとはやし立て、
盛り上がって見ていた。
俺はどうしようかと迷っていると、
教室の窓から様子を見ていた女子達がグラウンドの方までやってきた。
「ちょっと何してんのよ!
あんたらも先輩なんだから止めなさいって!」
「っていうかあんたらも何でケンカなんか…」
俺が高い木の上にいる事に先輩の女性陣は少し引いていた。
「あいつ地面からバンッて飛んであそこまで行ったんだぜ!?」
「そんなわけないでしょ!」
「ホントだって!」
男子の先輩達や同級生たちは興奮が冷めず、
女子達はそれをなだめるのに必死だった。
俺は木から飛び降りた。
すると絡んできた男子はもう一度こちらへ向かって来た。
これ以上凄い感じで見られることを避けたかったので、
わざと顔に一撃もらう事にした。
バコッ!
鈍い音が響いた。
男子の拳は俺の顔にクリーンヒット。
しかし俺は微動だにせず、
睨みつけた。
「気が済んだかよ。
お前のレベルじゃケガもしないんだよ」
「な…なんだと…!!」
「何回やっても変わんねぇよ」
「ぶっ殺してやる!!」
そいつは近くにあった石を掴んで俺の頭めがけて振り下ろした。
もちろん避けるような事はせず、
しっかりと頭で受け止めた。
血が流れ、
グラウンドの土に滴り落ちた。
周りの生徒たちの時は止まっていた。
「だから言ったんだ。
何も変わらねぇって」
「なんで痛がらないんだよ!」
「くぐってきた修羅場が違うんだよ」
「くそっ!!」
「ここまでなったんだ。
一発だけやり返させてもらうぞ」
「えっ…?」
俺は1割にも満たない力で肩パンを食らわせた。
「うぐぅぅうううぅううぅ…」
そいつはうずくまって唸っていた。
するとそこに沙耶がやってきた。
「あんた何してんだよ!
気持ち悪いんだよ!中学の時から!
もう付きまとわないで!死んで!」
泣きながら沙耶はそいつの顔に向かって蹴りを入れた。
周りの生徒たちはポカンとしていた。
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