第19話 人気
名前を呼ばれて振り返った先にいた女の子は、
髪色が少し茶色で、
化粧も綺麗にしてある子だった。
しかし同じクラスでもなければ知り合いでもなかった。
「江口…
お前の知り合いか?」
「いやっ…
知らないけど…
由希は知ってる?」
「私もクラス違うと思うし、
あんな子知らないよ?」
3人で少し引いたような形で見ていると、
その女の子がこちらにゆっくりと近づいてきた。
「なん…すか…?」
思わず俺は言葉が少しいつもとは変わってしまった。
「連絡先教えてもらえませんか…?」
「へっ?」
「江口!!これは!!
俺の憧れの!!!」
浅井は息を全身に込めるように力を入れ、
真ん丸にした目をしながら言った。
「逆ナンではないか~!!!!」
すると声をかけてきた女の子は恥ずかしそうにしていた。
「やめろよ!
大きな声出すなよ!」
「だってだってだって!」
「うるさい!」
浅井は由希にげんこつをくらって昇降口の外へと連れて行かれた。
連れて行かれる様子を見ながら、
俺は女の子に話を聞いた。
「なんで俺の連絡先なんか知りたいの?」
「春にあった体育のバスケで見て…。
それで…」
「それで…?」
「知り合いになれないかなって…。
それで今回体育祭でせっかく一緒のグループになったから…」
うちの高校では今年の体育祭は7グループで行う。
基本的には縦割りでグループ分けをする。
例えば一年一組であれば二年一組と三年一組と同じグループとなる。
しかし高校で退学者が多い年もあり、
3年になる頃にはクラスが一つ分減っていることがある。
なので数調整の為に一年や二年は三年に合わせて合同でグループを作る場合があるのだ。
その為同じグループだったとしても分からなかったのだ。
「って事は8組の子?」
「うん…
今回は1組と8組が合同らしいから…
私も有志の説明の教室にいたよ?」
「ごめん…
他のクラスには由希しか知り合いいないから、
知らなかったわ」
少し残念そうな顔をしながらその子は携帯を出した。
「LINE教えて」
「いいけど…
俺名前もまだ聞いてないんだけど…」
「ごめんね!
私、秋川沙耶って言うの!」
「沙耶ちゃんね」
「ちゃんってなんか嫌だから沙耶って呼んで!」
「ほぼ初対面だからね…」
「いいじゃん!
同い年なんだし!
またLINEするね!」
「お…おう…」
すると沙耶はスキップしながらどこかへと行ってしまった。
その様子を遠くから見ていて浅井と由希はこちらへと近づいてきた。
「江口!連絡先交換したか!?」
「一応したけどあの子俺らと同じ体育祭のグループらしいよ?」
「なぬ!
それは俺としたことが!
リサーチ不足だった!」
「何がリサーチ不足よ!
あんたどうせ先輩に見惚れてただけでしょ?」
「うるさいな!
いいだろ!別に!」
二人が揉めている様子は日常の事なので、
特に何も言わず眺めていた。
すると沙耶から早速LINEが来た。
「さっきは急に声かけてごめんね!
これからよろしくね!」
「同じグループなのに気づけなくてごめん。
また体育祭の練習で会おう」
俺はメッセージに返信をして携帯をポケットにしまった。
翌日から体育祭の練習が始まった。
体育では各競技のルールややり方などがそれぞれの競技者に説明されることになった。
もちろんの事、
いつもは男子だけでやる体育とは別で女子も合同での授業となる。
そして同じグループの8組と合同となっていた。
説明を受けていない間は、
他の競技者は自由練習の時間。
当然だが真面目な学校ではない為、完全な自由時間となっていた。
あるものは勝手にボールを使ってサッカーやバスケをやっており、
あるものは座り込んで談笑していた。
俺は浅井とグラウンドの隅で、
座って話し込んでいた。
「体育祭の練習つまんないわ~」
「つまんないって言っても他の授業でも一緒だろ?」
「サッカーとかバスケとかは楽しいじゃん?」
「う~ん…。
あんま変わらんけどな…」
二人で愚痴をこぼしている所に沙耶が来た。
「江口君!
サボってるの?」
「みんなサボってるしね」
「じゃあ私も一緒にサボっていい?」
「一緒に…?」
「うん!」
浅井はその様子を羨ましそうに見ていた。
その様子に気づいた沙耶は浅井に話しかけた。
「浅井君でしょ?
江口君といつも一緒の」
「まあ仲良しだからな」
「江口君はカッコイイからね。
浅井君はおこぼれ狙いでしょ?」
「なんだと!
そんな…事…ない!!!」
沙耶は浅井の様子を見て笑っていた。
すると知らない女子達が3~4人集まってきた。
「沙耶?」
「ん?何?」
「なんで江口君と一緒にいるの?」
「だって連絡先交換したし、
ちょっと仲良しになったんだよ」
「ずるい!
ねぇねぇ江口君私にも連絡先教えてよ!」
「私も!」
「私も!」
いつの間にか5~6人の女子に囲まれる形になってしまった。
俺は浅井の方に目を向けると、
死んだ魚のような目でこちらを見ていた。
結局連絡先を全員に教える事になってしまった。
ほとんど素性も知らない女子の連絡先が追加されてしまい、
浅井と二人でサボっているはずが女子6~7人と談笑している、
イタいやつになってしまった。
体育の授業が終わり、
着替えていると浅井が後ろから首を掴んで引っ張った。
「約束覚えてるよな~」
「約束?」
「おこぼれだよ~!!!」
半べそ状態の浅井にとどめを刺してやろうと、
俺は口を開いた。
「おこぼれ狙いじゃないんだろ?」
「へっ??」
「違うんだろ?」
「そんな事言わないでよ~!」
ちょっとモテた事に優越感を覚えた俺は、
こんな高校生活も悪くないと思っていた。
後一週間で夏休みに入ろうとしていた頃だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます