第18話 事実

「嘘ってどういう事だよ?」


「僕は以前死んで生き返ったらまた新しい僕に会えるとお伝えしました」


「うん」


「本当は会えないんです」


「なんで?」


「僕たちは死ぬと他の世界に飛ばされてしまうんです。

 つまり同じ時間軸には帰ってこれません

 1回目と最後の人生だけは続きの人生が歩めますが、

 その他の人生についてはリセットボタンを押したような感じになるんです」


「記憶と能力だけ引き継いでか?」


「そうなります」


「つまり達也が死ぬともう達也に会う事はないのか?」


「はい」


「つまり本物の世界に存在するのはリミットの人間のみという事か?」


「だからあのフランス人はリミットを探して勧誘してダメなら殺してるんですよ」


「じゃあ楓は…」


「リミットです…」



二人の間には沈黙が続いた。


リミットの人間でない限り本物の世界を生きる事は出来ないのだとしたら、

リミットでない間に様々な情報を引き出してしまい、

本物の世界で悪い事に使う事は可能だ。


ある意味本物の世界を生き残る為の準備期間とも考えられた。



「という事はこの世界を本当に守る為にはリミットの人間にしか出来ないって事

 か?」


「はい」


「でもここがリミットの世界だとしたら、

 達也は何故ここにいるんだ?」


「良い事を聞きますね。

 僕はもうすぐ死ぬんですよ。

 どう死ぬかは分かりませんけどね…。

 なのでまた僕は死んだら新しい世界の過去の世界に飛ばされます」


「同じ人生を何度も歩むという事か?」


「この仕事に就いた人は皆そうですよ。

 生まれ変わって帰って来るわけですから…

 でも例外もあります」


「例外?」


「生まれ変わりが起こした事件です。

 それに限ってはこちらでも歴史が分からないので想像できません。

 なのでそれを対処するのも我々の役目なのです」


「じゃあドラッグの事件に関しては生まれ変わりが絡んでたって事か?」


「そうです」


「なるほどな。

 話が脱線しちゃったな…。

 楓はそれでどうなるんだ?」


「国際指名手配です…」



落胆した表情の達也に投げかける言葉が思いつかなかった。



「まあたまにこういうことは出てきます。

 そして今回楓の殺しを僕がします。

 なので雅さんがもし楓と接触する事があれば教えて下さい」


「わかった…」


「電話番号教えておきますね…」



俺と達也は連絡先を交換した。



「そしてリミットが狙われているので、

 雅さんも気を付けて下さい」


「おう…」



そう言うと達也は立ち上がって部屋を出て行った。




翌朝、なんだか考え事をしてしまったせいか上手く寝れず、

遅刻ぎりぎりで学校へと向かった。


学校ではいつものように浅井と由希と昼飯食べたりして楽しく過ごしていた。


6時間目のホームルームの時間にクラスの室長が皆の前に立った。



「今日は夏休み明けにある体育祭の有志と、

 競技決めをしていきます!」


「私何もやりたくな~い」


「俺も~」


「リレーなら出てもいいよ」



様々な声が上がっていた。



「なあ江口は有志やるの?」


「有志って何やるんだ?」


「応援合戦のダンスとかだよ」


「めんどくさいって…」


「先輩達と一緒にやれるし、

 女子とも仲良くなるチャンスなんだ!

 一緒にやろうよ!!!」


「嫌だって…」



すると教室のドアが開いた。



「失礼します!

 3年の山田と言います!

 体育祭の有志の勧誘に来ました!」



学校の先生の紹介もあり、

山田先輩は教室へと入ってきた。



「体育祭では毎年応援合戦をしてるので、

 その応援合戦のメンバーに入ってくれるという人がいましたら、

 是非お願いしたいです!

 ダンスしたことないとかでもみんなで夏休みに練習しますので自信がなくても、

 大丈夫です」



するとクラスの何人かの女子と男子が手を挙げた。



「江口!お前も手を上げろよ!」



俺は半ば無理やり浅井に腕を持たれて手を挙げさせられた。


結局参加という事になってしまい、

先輩は教室を出て行った。



「じゃあ競技を決めていきます!」



室長によって挙手制でどんどんと決まっていく、

しかし最後の学年代表リレーだけが決まらなかった。



「誰か出てくれる人いませんか?」


「誰もやりたがらないって~

 唯一陸上部とかいないクラスで走って遅かったら笑い物じゃん」


「足速かった相田もいなくなったし、

 他の運動部のやつは別の競技でるしさ~」



文句を言う生徒が多く、

まったく決まる気配がなかった。


すると浅井が大きな声で俺に聞いてきた。



「江口ってむちゃくちゃ足速かったことない?」


「はっ?」



すると周りのクラスメイトがこちらを見だした。



「変な事言うんじゃないよ!

 やだよ代表のリレーなんか!」


「でも最初の体育でもバスケはやばかったし、

 運動神経は抜群じゃん?」



するとクラスがざわざわとなってしまい、

しまいには先生から直接お願いされることになってしまった。


そして6時間目は終わり、

帰りのSTで先生から有志は残るように言われた。


他の皆が帰る中待っていると、

2年と3年の先輩達が教室にぞろぞろと入ってきた。


そしてそれぞれが自己紹介をして有志についての説明が始まった。



「えっと応援のダンスは毎回それぞれのブロックで考えます。

 なので、ダンス経験がある方は意見を出してもらいながらだとありがたいです。

 一年生の中にダンス経験者はいますか?」



俺はとりあえず大体のジャンルは昔趣味程度にやったことはある。

しかし詳しいという程ではなかった。



「それで運動部の方は申し訳ないですが、

 部活をお休みしてもらう形になります」



先輩から毎年の決まりや、

練習の日程を伝えられ、

連絡先を交換して解散となった。


教室を出ると由希が待っており、

俺と浅井と由希はいつものように昇降口へと向かった。



「江口君も有志やるんだね?」


「浅井が無理やりだよ」


「だって江口がいれば隣の俺もモテモテになれる可能性があるからな!

 これで二人とも彼女ゲットだぜ!」



すると由希は少し目を逸らしながら尋ねてきた。



「江口君も…

 彼女とか欲しいの…?」


「いや…

 俺は別にどっちでも…」


「そうなんだ…」



浅井はにまにましながら見ていた。



そして靴を履き、

外に出ようとしたところで声をかけられた。



「江口くん!!」



3人が振り向くとそこには少しやんちゃな見た目の女の子が立っていた。





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