第17話 指令

俺はいつものように高校生活を楽しんでいた。


しかし放課後浅井や由希と遊び終わり家に帰ると孤独感に襲われる。

結局今いる友人や知り合いはうわべだけの関係で、

本当の自分と接している人間がいない事がすごく寂しいのだ。


初めて経験した学生時代の友人達と思い出話にふける事も、

生まれた子供の成長を楽しむことも、

仕事で成功して職場で打ち上げに行く事も俺にはない。


分かりきっているレールの上を歩いているような気分になる。


俺が住んでいるのはマンションの一室。


高校生の一人暮らしにしてはもったいない部屋だ。


まあしかし俺は金を湯水の如く使える。

何故なら俺の後ろ盾は日本国だからだ。


つまりはどれだけ贅沢しても何も問題ない。


しかしそんな決められた生活は俺にとっては退屈でしかなかった。




ピンポーン




家のチャイムが鳴った。


俺の自宅に人が来ることなどまずありえない。



「はい…」


「雅さんすか!?」


「誰?」


「達也ですよ!」



俺はドアを開けた。


達也は普段着だった。



「スーツじゃないのか?」


「スーツで夜中にチャイム押すのは怪しいでしょ」


「そうだけど…」


「まあ中に入れて下さいよ!」



達也がずかずかと中に入ってきた。



「女の子とか連れ込んでないんすね!」


「んな事するわけないだろ!」


「そうっすか?

 みんなやってますよ結構」


「お前らと一緒にすんじゃねぇよ!」


「なんか100回のリミットまで悪い事しなかった理由が分かる気がしますわ」



くすくすと達也は笑っていた。



「遊びに来たわけじゃないだろ?

 用がなきゃ来ないだろうが」


「もう少しくらいいいじゃないですか…」


「用件済ませて帰れよ…」



達也はスマホを取り出し、

その画面を俺に見せた。



「これってどういう事だ?」


「スクロールしていって下さい」



画像には何人かの死体の写真があった。



「これなんだよ…。

 気持ち悪いな…」



そう言うと、

達也はぐっと唇を噛んでから重そうな口を開いた。



「それは俺たちと同じ生まれ変わりであり、

 仲間です」


「えっ?」


「殺されたんです」


「はっ?」


「一番最後の画像を見て下さい」



俺は死体の写真が続く最後に男女が並んで歩く写真を見つけた。



「これが何だよ…」


「よく見て下さいよ」



俺は写真に目を凝らした。



「こいつは…」



その写真に写っていたのは楓と俺を勧誘したフランス人だった。



「何だよこれ!」


「楓が裏切ったんです…」


「はぁ!?」


「実はあいつには付き合ってるやつがいたんです。

 でも上からの指令で中国でスパイ活動をしていました。

 しかしそれが中国側にばれてしまい、

 追及を免れようとした日本国は楓の彼氏を見捨てたんです…」


「それで何だよ?」


「楓の彼氏の勇太は60回級の生まれ変わりでした。

 しかし以前犯罪を犯していた事もあり、

 リミットを迎える頃でした…。

 だから勇太は最後に愛した楓とだけは良い関係を築こうと必死だったんです…」


「なのになんで中国のスパイなんて危ない事してんだよ…」


「犯罪を犯した人間が生まれ変わっている事態を良いと思っている人間が上層部には 

 少ないのが現状です。

 つまりはリミット限界を迎えている元犯罪者はある意味捨て駒をやらされます」


「という事はつまり…」


「国の為に犠牲になったんです…」


「楓は知ってたのか?」


「楓には伏せておくように言われました。

 もし聞いたらあいつは止めるだろうからって…」



俺は返す言葉が見つからなかった。



「楓はそれでどうしたんだよ」


「楓は上層部に訴えましたが、

 その声はかき消され、

 逆にその声をうっとおしがった政府は楓を見捨てるようにしました」


「つまり楓も捨て駒にしたのか」


「はい…

 残念ながら…」


「それで裏切ったのか…」



達也は沈黙し、

また口を開いた。



「楓は日本国の生まれ変わりをした人間の写真や名簿のデータを盗みました。

 そしてその情報をフランス人のあいつに売りつけたようです」


「結果的に日本で動いている生まれ変わりの人間が死ぬ事態になったのか…」


「ただ殺しているだけではないんです…。

 リミットを狙っています…」


「つまり俺もって事か…」


「結局リミットの可能性が無いものを殺しても、

 生き返ってきますからね。

 しかも違う体で…」


「だから殺すことに意味がないと…」


「でもリミットの人間は殺したら次が来ませんから」


「実質生まれ変わりの組織の人間が減る事に繋がるわけか…」



俺は自分の身の危なさを痛感した。



「一個疑問に残ってることがあるんだけどいいか?」


「何でしょう?」


「リミットの仕組みがどうも引っかかるんだ」


「あれだけ座学したじゃないですか!

 こっちは雅さんの興味に付き合わされて毎日へとへとだったんですよ?」


「まあいいじゃんか。

 そんなにいつも会って聞けるわけじゃないんだし」



達也は少し不満そうな顔をしていたが続けた。



「生き返りは同じ時間軸で行われてるって話だったよな?」


「はい」


「もし今達也が死んで生き返った場合、

 達也は過去に戻る事になるんだろ?」


「はい」


「でも過去の達也がまだ今の達也がいる間に所属しに来ることはないのか?」


「基本的にはありません」


「何故?」


「まず生まれ変わりの人間が死ぬと死体は消えます。

 そして生き返りの人以外の記憶からはその情報が抹消されてしまいます。

 それはパソコンなどのデータなども同じです」


「そうなると俺らは新しい達也との出会いの記憶が作られるという事か?」


「作られません」


「言ってる事おかしいじゃんかよ!

 帰って来るんだったら会う事に絶対なるじゃんかよ!」


「僕たちは本当の僕達ではないんですよ」



言ってる意味がわからずぽかんとした。







「僕は雅さんにウソをつきました」


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