第16話 解決

結局圭は学校を退学。

警察が来たことにより、身柄を確保された。


そして俺がぶちのめして気を失っていた連中も数人逮捕となった。


しかし圭は俺や浅井、そして由希の事は警察では話さなかったようで、

事情聴取に呼ばれる事もなかった。


圭の兄貴に関しては行方不明らしい。

高校生によるドラッグ所持事件としてテレビで大きな話題となっていた。



「江口!警察とか来たか?」


「来てないよ。

 圭は何も言わなかったんだろうな」


「なんでだろう?」


「由希の事を無理矢理とか、

 暴力事件の事も考えたら余罪が増える事にビビったんだろ?」


「刑務所に行くのかな?」


「行くケースもあるけど行かないケースがほとんどだよ」



未成年による犯罪はの処分は簡単に言うと罪の重さで決まる。


例えば殺人等の重い罪を犯した場合は状況に応じて刑事裁判にかけられる場合がある。


しかし、ほとんどのケースが家庭裁判所に送られるケースだ。

今回の圭の場合だと、怪我を負っている事もあって、

情状酌量の余地があっても違和感はない。


さらに薬物の所持で使用ではない為、

逮捕と言うよりかは観察にと言うケースが無難だろう。


簡単に言えば保護観察付きでカンヅメってところだ。


しかし、圭の場合難しいのは営利目的で所持していたかどうか。

営利目的の場合は罪が重い。


なので販売していた等の証拠や事実が出てこれば、

保護観察ではなくなる可能性も否めない。


まあ圭の家庭の場合は金持ちそうであることを考えれば弁護士もマシなものをつけてるから、それくらいの入れ知恵はされていると考えるのが普通。


まあ一つ気に食わないのが前科がつけられない事。


正直前科の一つくらいつけてやりたかったが、

犯罪を犯して刑務所に入って刑罰を受けない限りは前科はつかない。


よって少年法で守られている人はつかない場合が意外とあるのだ。



「圭の兄貴はなんか仕返しとかして来ないかな?」


「そこは間違いなくあるだろうね。

 でも、してくるなら俺だろうから浅井とかは大丈夫じゃない?」


「あいつの兄貴本気でヤバそうだから気をつけろよ…」



圭の取り巻きやクスリの件でビビッてしまったのか、

浅井はだいぶ逃げ腰だった。


授業が終わりいつものように俺と浅井が帰ろうとしていた。


しかし、駅の前に一台の黒塗りの車を見つけた。


明らかに周りの風景とは違うし、

乗っている人間も高校生たちの顔を見つめている。


もしかしたらと思い、

浅井を安全な場所に誘導する事を考えた。



「浅井?」


「ん?」


「今日は近くのファミレスに寄ってこうよ。

 腹減っちまったからさ」


「いいけど…」


「先に行っててくんない?

 ちょっと忘れ物取ってくるから」


「一緒に行くよ?」


「すぐ戻るから!」



俺は学校の方へと歩みを進め、

浅井は駅に向かう歩みを止め、

ファミレスの方へと歩き出した。


浅井が振り返ることなく携帯をいじりながら向かう背中を確認して、

俺は分かりやすいように車の目の前を通った。


案の定車のドアは開き、

こちらに大柄の男が近寄ってきた。



「何?」


「相田のクラスメイトの江口か?」


「そうだけど?」


「話がある」


「俺はないけど?」


「抵抗しなきゃ黙って返してやるから、

 車に乗れ」


「映画でもこういうシチュエーションで返してもらったところ見た事ないけど?」



口うるさい高校生だという顔をした男は、

懐から小さなナイフを出し、

俺の脇腹に押し付けた。



「乗れ」


「へいへい」



俺は抵抗することなく乗り込んだ。



車は1時間程走って、

まさにと言う名の事務所に着いた。


車を降りるように指示されて、

事務所へと入った。


そこには金髪の兄ちゃんが何人か血だらけで正座させられていた。



「てめぇ!!

 お前のせいで!!!」


「黙ってろぉ!!!」



俺の顔を見るなり叫んだヤンキーらしき若者をヤクザらしき男が殴り倒した。


すると座っていたボスらしき人物が俺の顔を睨んだ。



「おい坊主」


「何か用かよ」


「お前圭とかいうガキをぶちのめしたやつだろ?」


「さあね」



俺のふてくされたような調子に乗った態度に隣の男がキレて殴りかかってきた。


俺は瞬間的にそいつの腹めがけて回し蹴りをかました。

男のみぞおちに俺の足がめり込み、

男は声を上げる事も出来ず崩れ落ちた。



「なかなか腕は立つようだな」


「どこかの誰かよりかはね」


「威勢がいいのは嫌いじゃないが、

 ここがどこでお前が何をしたか分かってるか?」


「ただの高校生活だよ。

 あんたらに世話になるような事はしてねぇ」


「あのガキが持ってたもんのせいでよ。

 それをこいつが勝手に渡しやがってよ…」


「ふーん。

 それで?」


「それが世間に出まわっちまったんだ。

 警察もきなくせぇとこっちを警戒してやがる」


「だから?」



あまりの態度にボスは机に拳を叩きつけた。



「こちとらはらわた煮えくり返っとんじゃ!

 どう責任取ってくれるんだぁ!!!」



俺は目の前にあった机を蹴り上げて部屋の奥のロッカーまで吹き飛ばした。



「黙ってきいてりゃあ調子乗りやがって…。

 責任だ?

 てめぇで取れよ」


「なんだと?」


「ガキだと思って舐めた態度取ってくれやがって。

 お前のとこの若いのかなんなのか知らねぇけどヤクばらまいたのが先だろうが?」


「ガキどもの小遣い稼ぎで運ばせてただけだ!!」


「それがあめぇって話なんだろ?

 結局おたくらの管理不足を高校生に押し付けられましてもね?」


「お前があそこでうちのヤクを世間に出す様なマネしなけりゃあ良かったんだ!!」


「ざまあみろ」



俺は持っていたボイスレコーダーをボスに見せた。



「それは…」


「取引だ」


「うるせぇ!!よこせ!!!」



事務所にいた数人が俺にナイフを向けて走ってきた。


俺は全てのナイフを一瞬で蹴り落とし、

そのうちの一本を拾ってボスの懐へと飛び込んでももに向かって勢いよく刺した。


ボスは一瞬すぎる事ですぐに反応することが出来ず、

足に刺さったナイフを見て痛みの感覚が上がってきたかのように徐々に青ざめていった。



「取引だ」



そう言うとボスは黙ってこくこくと頷いた。



「二度とこのエリアでヤクはばらまくな。

 そして今後一切の取引をしない事を誓え」


「そんなことしたら…」


「死ぬのが先がいいか?

 どうせこの事が本家に公になったらおめぇら一人残らず死ぬんだろ?どうせ」



ボスはガタガタと震えていた。



「手を打ってやるって言ってんだよ」


「えっ…?」


「本家大元は高木組だろ?」


「なんでそれを…」


「黙って指示に従ってろ。

 二度とやらないと誓え。

 そしたらお前らと会う事は二度とねぇ」


「わかった…」



俺は突き刺していたナイフの柄から手を放し、

その場を離れた。



「それとどっちが圭の兄貴だ?」



倒れているヤンキー達に目を向けると、

中でも右腕全体に入れ墨の入ったやつと目があった。



「お前か?」


「なんだよ…」


「弟に言っとけ。

 二度と構うんじゃねぇってよ」


「…」


「相手だけは間違えんなって伝えとけ」



俺は事務所の扉を開けて外に出て行った。


そしてそのまま近くの公衆電話ボックスへと入った。

俺は電話をかけた。



「はい。

 リジョイス保育園ですが?」


「ああ…

 園長先生いますか?」


「いますけど…

 ちょっと変わってもらえます?」



少し待っていると電話が変わった。



「はい。

 園長の田中ですが?」


「江口雅だけど」


「あら、あなたね。

 外から電話って事はあなたも高校生になったのね」


「達也に伝えといてくれ。

 もうこれ以上出回る事はないってよ」


「わかったわ。

 無茶はしないようにね」


「はいはい」



俺はそうして電話を切った。



すると携帯に電話がかかってきた。



「江口!!!!

 いつまで待たせるんだ!!!

 忘れ物取りに行くのにどれだけ時間かかるんだよ!!」



俺は浅井を置いて来ていたのを忘れていた。



「わりぃ…

 すぐ行くわ…」


「今日はお前のおごりだからな!!」


「ああ…

 いいよ…」


「めちゃくちゃ食ってやるからな!!」


「はいはい…」



俺は急いで浅井の待つファミレスへと向かった。

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