第15話 決意

扉の先にいた圭と由希に俺と浅井は目を奪われた。

その隙にうずくまっていた一人が浅井を突き飛ばし、

殴られていたもう一人を救った。


すると階段から由希の腕を引っ張って圭が降りてきた。



「ちょっと!痛い!

 やめてよ!」


「うるせぇな!

 黙って来い!」



嫌がりながら、

由希は俺らの前に引っ張り出された。



「おい由希!

 こいつらに言ってやれよ!」



由希は苦い顔をしながら圭を睨みつけていた。



「なんだその顔は!

 いいんだぞ俺は!」



すると由希は覚悟を決めたようにこちらを振り返った。



「私、相田君と付き合ってるの!

 だから邪魔しないで!

 私の事はほっといて!」


「えっ…?」


「私は好きで付き合ってるの!

 だから…だから…」



由希は泣き崩れてしまった。


浅井はその様子を見て我慢が出来なくなり、

圭に向かって突進していった。


圭は後ろに一歩下がった。

そして圭の後ろについて降りてきた取り巻きによって取り押さえられた。



「由希は俺の女になったんだよ!

 いちいち口出しにきてんじゃねぇよ!」


「どう見たって望んでてめぇの女になんかなってねぇだろ!」



浅井は血走った目で圭を睨みつけた。

しかし圭は余裕そうな表情で続けた。



「お前らに手を出してほしくないって自分から言いに来たんだよ!

 その代わりに体売ってんだよ!

 女に守られるとはクズだな!!」



そう言って圭は唾を浅井に吐いた。


それと同時に浅井を取り押さえてた奴らが動き、

浅井に暴力をふるい出した。



「やめてよ!!

 手を出さないでって言ったじゃんか!!!」


「うるせぇ!!

 こいつらが悪いんだろうが!

 お前も俺の虜にしてやるから来い!」


「嫌だ!離して!」


「そのうちお前も俺と一緒にいたいって言いだすんだよ!

 早く来いよ!」



浅井は涙目になりながら抵抗し、

男を突き飛ばした。


しかし人数が10人を超えている為、

一人突き飛ばしたことで状況は何も変わらなかった。



「おい!」



俺は思わず大声を出していた。



「はあ!?

 お前誰に口聞いてんだ?」


「てめぇだよクズ。

 お前今から由希に何してくれようとしてんだ」


「お前らには関係ないだろ!

 女に守ってもらうしかないんだからな!」


「誰が誰に守ってもらうって?」



すると手下である男が一人殴りかかってきた。


怒りに我を忘れていた俺は、

ほぼフルパワーでみぞおちに蹴りをかました。


蹴りを食らった男は吹き飛び壁に突き刺さった。

そしてそのまま気を失っていた。



「調子に乗りすぎだ。

 ケンカ売る相手間違えたな」


「コイツ等はこの辺でも有名な暴走族の連中だぞ!

 手を出したらどうなるか分からんからな!」


「だから?」


「だから???

 頭悪いのかお前!

 おい!こいつら殺してやれ!!」



その声と共に一斉に他の9人が飛びかかってきた。


しかしそんなものは俺には小さい虫となんら変わりはない。


まず右ストレートを出してきた拳を掴んで自分側に引く、

そのまま頭を掴んで顎に右膝をかます。


顎の砕けた音が部屋に響き渡った。


それに少し怖気着いたヤンキー達の懐に瞬時に飛び込んだ。


振り降ろすように出された拳を右手で払い、

心臓めがけて左拳を入れる。


太くしっかりした胸骨が折れる鈍い音がした。



次は3人がかりで襲い掛かってきた。


頭蓋骨を砕いてやるかのように一人ずつ左右一撃パンチをかましてやった。


5人のヤンキーが地面でうずくまっていた。


他の5人は怯えてしまって近寄ってもこなかった。

そして一人がドアを開けて逃げ出した。


それについていくかのように他の5人も仲間を置いて逃げ出した。



しかし俺はそれには目もくれず、

階段の上で必死の形相で由希の腕を引っ張る圭を睨んだ。


圭は由希を引っ張り上げると、

バタフライナイフを取り出し、

由希の顔に押し付けた。



「近づくんじゃねぇ!!!

 こいつ殺すぞ!!!」


「んな事したらお前無事じゃ済まんぞ?」


「うるせぇ!!!

 来るな!!!」


「質問に答えたら逃がしてやるよ」



圭は少し息を整えた。



「お前クスリ知ってんだろ?」


「…。

 お前には関係ないだろ…」


「今関係ないって言えるのかどうか考えろ」


「…。」


「どうやって手に入れた?」


「兄貴からだよ…。

 あいつが外国人のディーラーから買ったって…」


「んでばらまいて小遣い稼ぎしてるって事か?」


「悪いかよ…」


「どこで誰に売った?」


「高校のやつとか…。

 ヤンキーのやつらとか…」


「女に使った事は?」



圭はちらっとこちらを見た。



「こいつに少し…」



俺ははらわたが煮えくり返っていた。



「どれだけの量を使ったんだ」


「一錠だけだよ!!

 それ以上は使ってない!!」


「いつだ!!!」


「昨日だよ!!

 それ以上は使ってない!!」


「クスリを見せろ!!」



俺は圭が指を指した方に駆け寄って、

小さな袋を開けた。


そこにはカラフルな錠剤が入っていた。

錠剤には様々な絵が描かれていた。



「MDMAか?」


「分かんねぇよ!

 クスリって事しか聞いてねぇんだからよ!」


「他のクスリは何処だ?」


「知らねぇよ!

 俺はこれだけしかもらってないから…」


「兄貴は何処にいる?」


「わからねぇ…」



俺は足に力を込めた。


油断している圭の足元に一歩で間合いを詰めた。

圭が驚いてのけ反った瞬間にナイフの先を指でつまんだ。


圭はそれに気づき刃を俺に突き立てようと力を込めた。


しかしこいつの力など指二本で十分。


そのままナイフを奪い、

太ももに突き刺してやった。



「うぎゃぁぁああああぁぁああああ!!!!」



圭は足を抑えて叫んで気を失った。


俺は由希を抱きかかえ、

椅子に座らせて落ち着かせた。



「大丈夫?」


「ごめんね…私…

 浅井君と江口君が心配で…」


「そうか…」


「浅井君は能天気だから危ない事にちゃんと気づけないから…

 江口君にも昔助けてもらったから…」


「うん…」


「私が何とかしなきゃって…」


「そうか…ありがとう…」



すると後ろから静かに浅井が出てきた。



「お二人さん良いムードの所申し訳ありませんが…」


「えっ?」


「僕もケガしてるんですけど…」



浅井の少しとぼけた様子を見て、

俺と由希は笑ってしまった。



俺は警察に電話をかけて、

場所を伝えた。


そして現場には俺と圭が話した会話の内容を録音した、

ボイスレコーダーを置いておいた。


とりあえずこれで兄貴は止められるだろうと考えた。


俺は浅井と二人で由希を家まで送っていく事にした。



「由希~

 俺と江口は大丈夫だよ!

 無敵だからさ!」


「江口君は大丈夫かもしれないけど、

 浅井君はボコボコにされてたでしょ?」


「江口がいたじゃんか」


「いなかったらどうしてたのよ…」


「江口は大丈夫だよ!

 なんだかんだ由希の事めっちゃ心配してて、

 最初は一人で行くとか言ってたんだぜ?」


「えっ…」



一瞬由希の顔が赤くなった。



「おっ?

 由希もまんざらではないのか?」


「うるさいなぁ!!!

 いいじゃん別に!!!!」



俺はそんな二人の姿を微笑んでいた。



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