第14話 尾行

俺と浅井は由希が教室を出て帰って行くところを後ろからついていった。


浅井と由希は幼馴染の為、

小学校から住んでいる地域は一緒だった。


帰る時は二人とも名鉄電車に乗って少し田舎の地域の方まで帰る事になる。

しかし、この日は違っていた。



「浅井の家ってこの電車乗って帰るんだっけ?」


「いやっ…。

 逆方面だよ」


「という事は由希は家に向かってないって事?」


「そういう事になるね。

 ますます男の匂いがしてきたぞ!」



浅井はまた目を光らせていた。


俺はそんな浅井の様子に呆れていた。


電車は金山で停まり、

由希は地下鉄へと乗り換えた。

俺と浅井もその後をついていった。


由希は迷うことなく大須観音駅で電車を降りた。

俺と浅井も後に続いた。

由希の表情は少し固いように見えた。



「由希って大須に一人で遊びに来るタイプか?」


「いやっ…。

 あいつは元々人混みとか好きじゃないし、

 わちゃわちゃしたタイプの人間とつるんでるの見た事ないしな…」



二人で首を捻りながら気づかれないようについて行った。


大須は愛知の中でも若者が集まるスポットとして人気だ。

遊ぶところもあってショッピングも出来て、

食べ歩きも出来る若者の街である。


由希は改札を出て商店街の方へと向かって行った。


商店街に入った由希はおもむろに携帯電話を取り出して誰かに電話をしていた。

しかし周りが騒がしい事もあって声を拾う事は出来ない。


由希の口元さえ見る事が出来れば読唇術で読み取る事が出来るが、

背中を向けてしまっていた為、会話の内容を読み取る事は出来なかった。


由希は電話を耳に当てたまま、

商店街の奥の方へと進んでいった。



「誰と電話してるんだろ?」


「男だよ!ここで待ち合わせしてるんだって!」


「待ち合わせしてたら電話するタイミングは場所に着いてからだろ普通」


「男が先に着いてるかもしれないじゃん」


「あれは由希から電話かけてる感じだったからそれはないよ」



二人で余計な事を詮索しながら後をつける。


すると由希は商店街の中にある、

錆びれたシャッターの閉まる建物の前で立ち止まった。


俺と浅井は慌てて物陰に隠れた。


由希はそのままシャッターの隣にある扉を開け、

中に入って行った。



「あそこお店か?」


「いやっ…

 シャッターも閉まってるし、

 店の名前らしいものも書いてないから店ではないんじゃない?」


「でも由希は入っていったよ?」


「う~ん…」



20分程店の前を眺めていたが、

由希が出てくる気配もなければ物音一つしなかった。


俺は浅井に電話を掛けてみるように伝えた。




プルルルルル…プルルルル…




俺はシャッターに耳を当てた。

しかし、シャッターの向こう側からは着信音も鳴らなければ、

人の足音一つ聞こえなかった。



「もしもし?」


「おっ!由希か!?」



由希が電話に出た。


しかし由希の声はシャッターの奥からは聞こえない。

さらに奥にいるのだろうか。



「何?」


「いやっ…

 今日も遊びに行くから由希もどうかなって…」



浅井は自分なりに会話を自然にしようと頑張っていた。



「私遊びに行くのはしないってこの前言ったじゃん。

 だからもう誘わなくていいから」


「いきなりどうしたんだよ。

 江口も可愛そうじゃんか…。

 嫌われたんじゃないかって心配してたぞ?」


「嫌いだなんてそんな…

 私はそんな事言ってないじゃん!」


「じゃあ好きなんだぁ~」


「もう用事ないなら切るから!」



由希は電話を切ってしまった。



「中にはいるかもしれないけど音は聴こえなかったな…」


「電話では特に小声ってわけじゃなかったけど…

 でもいつもと違った気はするな…」


「浅井…

 今日は帰っていいよ…」


「えっ?」


「後は俺が調べてみるからさ」


「嫌だよ!俺だって知りたいじゃん!」


「お前じゃ俺にはついてこれないから」


「ただ友達の後ろついていくのに、

 ついていけるとかないでしょ…」



確かに浅井の言っている事は正論だった。



「分かったよ…。

 今から直接入って確かめてみよう」


「入っちゃうの!?」


「多分ドア付近にはいないし、

 カギかかって無さそうだから、

 静かに入って中を見てみよう」


「お…おう…」



俺はドアをゆっくり開けた。

浅井もゆっくりと後に続く。


ドアを開けると左側のシャッターの裏には段ボールが山積みで置いてあるだけで、

人もおらず、他に目立ったものもなかった。


ドアの正面には階段が続いており、

その上がった奥には再びドアがあった。


しかしその奥から光が少し漏れ出していた。

多分あの扉の奥に由希がいるのだと思われる。



「江口!

 どうすんだよ!」



浅井はいてもたってもいられなくなっていた。


強行突破をしてしまうのか、

それともここで身を潜めるか周囲で待機してその後を探るか。


俺は考えていた。


すると上の扉が開いた。

俺と浅井は段ボールの影に身を潜めた。


降りてきたのは若い男が二人。

髪色は金髪で、

どう見ても高校生ではない。


すると男達の会話が聞こえてきた。



「あの子結構可愛いな」


「あいつの女ってのが気に食わないけどな」


「でもあれだろ?

 無理やり連れまわしてるって話だぜ?」


「いいんだよ無理やりでも」


「いいのか?」


「どうせぐちゃぐちゃにして捨てるんだからな!

 んで一発かましてやればむしろ寄ってくるようになるからよ!」



俺は話を聞いてドラッグ事件の事が頭に浮かんだ。


由希がドラッグの事件に絡んでるって事なのではないかと考えた。

話をもう少し聞いておきたいと思ったところで事件は起きた。



「てめぇ!!!!!!」



バコッ!ドカッ!!



さっきまで隣で息を潜めていた浅井が飛び出し、

二人に殴りかかった。


一人は顔を殴られてうずくまり、

もう一人は浅井が馬乗りになってボコボコにしていた。


すると物音に気付いて上の扉が開いた。


そこには圭と由希の姿があった。



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