第13話 違和感

名古屋駅に着くと浅井は急ぎ足でゲームセンターへと向かった。



「俺ゲームだけなら江口には負けないから!

 勝負じゃ!」


「なんのゲームやるんだよ…」


「ゲーセンで勝負と言えばホッケーしかないだろう…」


「なんだかんだお前って考え方が古いよな…」



浅井は100円を二枚機械に入れた。

するといきなり全力で打ち込んできた。


しかし常人の全力は俺からするとスローモーションに近い。

ここは浅井の気持ちを汲んで入れられてやろうかとも思ったが、

由希も見ているし、

負けず嫌いな気持ちも後押しし、

浅井のパックを上から抑えるように止めた。



「嘘だろ…

 なんでそれが止めれるんだよ!」


「お前とは出来が違うんだよ。

 ほら!」


「うわっ!!」



俺は二割ぐらいの力で打った。

しかし浅井は少しも反応する事が出来なかった。

こういうゲームになると力加減が分からなくて困る。



「そうだ!江口パンチマシーンやってよ!

 どれくらいか見てみたい!」


「私も見てみたい!」


「えっ…」



浅井は俺の腕を引っ張ってゲーム機の前に連れてきた。

そして手に丁寧にグローブをはめた。



「俺やるなんて言ってないけど…」



そう言って振り向くと、

浅井と由希がキラキラした目でこちらを見ていた。


俺はゆっくりとため息をついて諦めた。



「Ready!!Fight!!!」



ゲーム音が大きい音でなった。

俺は正直悩んだ。

まず力加減が分からない。

しかし弱すぎるのもなんだか嫌だ。

とは言え力を出し過ぎると間違いなく壊れてしまう。


悩んだ挙句、

俺は手首のスナップだけで叩く事を決めた。

昔のアニメでこんなシーンがあったなと思いながら、

構えた。



バチンッ!!!!



サンドバッグは叩きつけられ、

もの凄い音がした。


叩きつけられたと同時にゲーム画面が真っ暗になってしまった。


(これでもダメなのか…。やばい…。)


不安に駆られながら振り返ると唖然としている浅井と由希がいた。

すると店員が走ってきた。



「お客さん!なんかすごい音がしましたが!」


「いやっ…

 普通にパンチマシーン使っただけなんですけど…」


「普通に使ったらこうはなりませんよ!」


「でも…」



対応に困っている俺の元へ由希が駆け寄ってきた。



「この人はちゃんと普通に使ってました!

 でもいきなりエラーになったんです!」


「でもすごい音しましたよ?」


「この人格闘技経験があるので力が強いんです!」


「はぁ…」



店員は納得いかない表情だった。

しかし由希はそんなことは気にもせず、

俺の腕を引っ張ってゲームセンターの外へと出た。

浅井は圧倒されながら後ろを黙ってついてきた。



「もう!何よ!

 何も悪い事してないのにあの言い方!」


「流石にゲーセン側もびっくりしたんだよ。

 江口のパンチはヤバいって事さ」


「なんか…ごめん…

 力抜いたつもりだったんだけど…」



めちゃくちゃ手加減したつもりだったのに、

壊してしまった事を反省した。

そして二度とあのような機械は触らないようにしようと決めた。


少し不機嫌になってしまった由希だったが、

すぐに機嫌を取り戻し、楽しくその後は名古屋駅で買い物をしたり、

ご飯を食べたりすることが出来た。


俺はこの時間はやはり青春だなと100回目の青春でも楽しく思えた。




「今日も帰り遊んでいこうぜ!」


「お前テスト勉強大丈夫なのかよ…」


「大丈夫だって!

 そうだ!由希も誘うか!」



浅井はバッグを持って由希の元へと向かった。

俺はクラスで待っていた。



「何かテスト勉強があるから由希は止めておくってさ!」


「お前と違って真面目だねぇ~」


「お前だって一緒に遊んでるじゃんかよ!」


「俺は頭良いからいいんです」


「言い返す言葉もない…」



結局由希が来ることはなく、

俺と浅井は二人で遊びに行く事にした。


それからも授業が終わるたびに浅井は声をかけに行くが、

由希が来ることはなかった。


もちろんテスト勉強が忙しいのはわかるが、

元々ここの学校のレベルは低い。


勉強にそこまで打ち込まなくても問題ないのではないかと思っていた。


もちろんの事、

遊びに行く機会がなければ連絡先を知っているわけでもない由希と、

話す機会もなくなっていった。


しかし、ある時たまたま俺は由希と廊下ですれ違った。



「由希最近どうしたの?

 浅井とも喋ってないみたいだし…」


「いやっ…

 何でもないよ…

 ほら!私女子だし男子といつも一緒にいるのもね!」


「別に友達同士ならそんな事考えなくていいんじゃないの?」


「いいの!

 女の子には女の子の都合があるから!」


「お…おう…」


「あっ…ごめん…

 ちょっと急ぐから…」



由希は急いで行ってしまった。

俺と浅井のどちらかが由希に嫌われてしまったのではないかと、

少し不安と言うかやりきれない気持ちになった。



「最近由希のやつおかしいんだけど江口なんか知ってる?」


「おかしいって?」


「いつもならすぐノートとか貸してくれるし、

 LINEとか電話も返事が早いんだけど、

 丸二日連絡返してこなかったりするんだよね」


「忙しいだけじゃないの?」


「そんなわけあるかよ。

 別に習い事とかしてるわけでもないしさ~」


「他に何か用事があるとか?」



すると浅井がキラキラした目で俺を見た。



「なんだよ…」


「男じゃね!!???」


「はっ?」


「男できたんだよきっと!」


「男ね…」


「よし!尾行しよう!

 誰と付き合ってるのか見ものだぞ!」


「止めとけよ!

 もし男だったとしたら最悪じゃん」



しかし言ってやめるようなやつではなかったので、

結局その日の帰りに尾行する事になった。


俺はその時、

由希の事が気になっていて、

ドラッグの事件の事などすっかり忘れてしまっていた。

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