第10話 高校
この高校に通って分かった事がある。
ここは勉強のレベルが異常に低い。
まず、英語の授業はアルファベットがちゃんと書けるかというもの。
数学に関してはプラスマイナスの計算の復習から始まった。
確かに地元で両親の墓が近いところを望んだが、
このレベルはないだろうと思った。
電車だってあるし、
本気出せば走って車くらいの速度は出せる。
少し距離があってもマシな場所に通わせてほしかった。
しかし入ってしまった以上は文句を言うわけにはいかなかった。
「それでは体育の授業始めます!」
結局長すぎる校長の話はウザいし、
もう何百回やったかわからない授業も地獄みたいで、
これが3年も続くのかと呆れていた。
「今日の授業はバスケだ!
まあとりあえずみんなで交流も含めてゲームでもやるか!」
一番困るのは体育の授業だった。
生まれ変わりをしている最中の時は、
自分の力の理解力が低かった事もあり、
人よりもだいぶ速く、力強く動くことが出来る程度だった。
しかし、10年以上のトレーニングによってそれはなくなり、
超人的な動きが出来るようになってしまっていた為、
どれくらい手を抜いてプレーすれば一般的なのかが分からなくなっていた。
バコンッ!!!
「いよっしゃあぁぁぁあああ!
見たか!ダンクだぜ!」
「圭君凄い!
カッコイイ!!」
「まあね!
バスケ部なら当たり前じゃん!」
学校の体育となると何故各運動部は自分達のテリトリーだと調子に乗るのか…。
そしてこの圭ってやつは特にそれだった。
隣で女子達も体育をしているが、
こいつは顔も中々のイケメン。
身長高くてバスケも確かに上手い。
さらには中学の頃からモテまくっていたようで、
その取り巻きも女子に混ざっている事から、
プレーするたびに黄色い声援が沸き立っていた。
「江口!
パス!」
「ほい。
いらね」
「すぐ返すなよ!
スポーツ全般得意なんだろ!?
点取ってくれよ!」
「まあまあ出来るってくらいだよ」
「これじゃあのイケメン調子乗り野郎に負けちゃうって!
昼飯奢るからさ!」
「しゃーないな…」
俺はセンターライン付近でボールを受け取った。
しかしここで本気でドリブルなんてしてしまったら確実に目立つ。
俺は平和に暮らしたい。
だから一人さっと躱して3ポイントシュートを決めた。
「やっぱ出来るんじゃん!」
「あんなもん投げれば入るんだよ」
さっきからしつこく絡んでくるのは同じクラスの浅井。
隣の席だった事もあって仲良くなった。
面倒な事を嫌うタイプで、
のんびり過ごす事を生きがいにしている。
こういうタイプと一緒にいるのが一番楽だ。
「次も頼むぜ!
後で笑ってやりたいんだあいつ」
「はいはい…」
俺はまた一人躱した。
すると俺の前にあの圭君が来た。
「お前バスケ部だったのかよ」
「無所属だけど」
「嘘つけ!
そんな動き素人に出来るわけないだろ!」
まあ元NBA選手経験ありますからね。
”アジアの独裁政権”って異名がつくくらい、
ブイブイ言わせてましたから。
「趣味でやってたくらいだよ」
「止めてやるわ!」
「圭君頑張って~!」
黄色い声援が圭を調子づかせていた。
俺はちらっと浅井の目を見た。
浅井は満面の笑みでこちらを見ていた。
あの笑顔はやって来いって事を意味している。
仕方なく俺はドリブルで仕掛けた。
まず、右足にボールをくぐらせる。
そして左に体を流す。
それに反応して圭が進行方向へと体を入れる。
その瞬間に逆へと切り返した。
「ちょっ!
まっ!」
いきなりの動きに圭はついてこれずに尻もちをついた。
これがいわゆるアンクルブレイク。
速い動きに対応できず、
足がもつれて倒れてしまうようにドリブルをすることだ。
そして俺はゴール下へと侵入した。
するとそれを察したサッカー部が前に出てきた。
俺はそれをロールで躱し、
ボースハンドダンクでゴールへと叩き込んだ。
ボースハンドダンクとは両手を使ってダンクを決める事だ。
圭がした片手のダンクとは違い、
両手である分伸びがない。
つまり片手でするよりも高く飛ぶ必要がある。
さらに体を一回転させてロールで抜いてる分、
真上に飛ぶのは一般の人間には難しい。
体が流れてしまうからだ。
しかし常人でない俺はそれを軽々とこなした。
「江口すげぇええぇぇぇ!!!!
お前既にプロになれるよ!!!」
「んなことないよ。
たまたまだよ」
正直あの調子に乗り方は少し勘に触っていたので少し本気を出してしまった。
黄色い声援はなく、
ただ茫然と女子達はその様子を見ていた。
その後は少し大人しくしていようと思ったが、
周りのクラスメイトは俺にボールを集めてきた。
仕方ないので、
体育の成績も取りたいという気持ちから、
ゴールを量産した。
「江口君…
君…バスケ部に入らないのかい…?」
「ああ…。
部活とかそういうの嫌いなんで…」
「君ならきっとすぐにプロになれると思うよ…」
「そんなにプロの世界は甘くないですよ」
流石に調子に乗りすぎてしまったようで、
20分のゲームで一人で40点近く取ってしまっていた。
昼休みになり、
約束通り浅井に昼飯を奢ってもらい、
二人で教室で昼食を食べていた。
「江口…
お前はやはり天才だったんだな…」
「はっ?」
「お前は一味違うやつだと思ってたんだ。
俺の目に狂いはなかった。
そこで一つお願いがある…」
「なんだよ急に…
気持ち悪いな…」
「女の子が寄ってきたら俺に紹介してくれ」
「はい?」
「お前はきっとこの高校3年間でモテモテになる。
だからそのおこぼれを俺にくれ!」
「何だよそれ!」
俺らがワイワイと喋っているとそこに一人の女の子がやってきた。
「浅井君!
これ!」
「ん?ああ…。
由希か…」
女の子は浅井にノートを渡していた。
「由希かって何よ!
あんたが寝てたから課題見してくれって言ったんでしょ!」
「他の女の子なら嬉しかったのにな~」
「じゃあ貸してあげない!」
仲が良さそうな二人を見て、
俺は自然と笑っていた。
「何笑ってんだよ江口!」
「いや…
彼女かなって」
「違うわ!
こいつは中学同じだっただけだよ!
さらにこいつは心に決めた人がいるらしいから対象外だし!」
「ちょっと!
何勝手な事言ってんのよ!」
「幼稚園の時にあった事もない人好きなってそれ以来なんだろ?」
「好きじゃないって!
お礼が言いたいってだけよ!
でも名前しか知らないの!引っ越しちゃってよく分からないし…」
俺はなんとなく由希に尋ねた。
「何て名前の人だったの?」
「みやびくんって子だけど…」
「えっ?」
俺は運命の出会いをした。
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