第8話 知識

「ようこそ。

 沖ノ鳥島へ」


俺が連れて来られたのはなんと沖ノ鳥島だった。


沖ノ鳥島は太平洋に浮かぶ小笠原諸島の一つであり、

日本最南端の領地としても有名だ。


しかし人が生活するスペースはほとんどなく、

ただのサンゴ礁の塊に過ぎない。



「ようこそって何も無いじゃないか!」


「そうね。

 ここにはね」


「えっ?」



すると楓と達也がやってきて、

一等三角点沖ノ鳥島と書かれている石に手を置いた。


すると三角点の部分である丸い蓋のような部分が開いた。


そして下から筒のようなエレベーターが上がってきた。



「ようこそ」


「なんだこれ…」


「知らなくて当然ね」



俺はエレベーターへと乗り、

地下へと向かった。



「ここは一体なんだよ…」


「ここは日本の最終拠点よ。

 簡単に言えば日本の中枢ね」


「教科書とかで見た時はただの岩だと思ってた…」


「まあ国家機密ですからね。

 ここが世界に領地として認められている理由はそこにあるのよ

 さあ、着いたわよ」



俺はエレベーターを降りた。

エレベーターに同乗していたのは楓と達也と園長。


降りるとそこはハイテク施設そのものだった。



「ここは周りの岩を掘って作られているの。

 だから海に潜って下を見ても何もないわ。

 まあ他国に機密がばれてもマズいしね」


「なるほど…」


「そしてあなたにはここで生活をしてもらうわ」


「ここで!?」


「ざっと14~5年と言ったところね」


「そんなに!?」


「だってあなたには義務教育は必要ないでしょ?

 必要なのは生きる知恵よ。

 それをここで叩き込んでもらうわ」


「マジかよ…」



俺は広い部屋に通された。



「あなたには”生まれ変わり”の知識、

 そして力をフルに発揮するための知恵、

 さらに国とあなたの関係についてこの部屋で学んでもらうわ。

 一応生活スペースは別に用意してあるから大丈夫よ」


「まだ知る事があるのか?」


「知りすぎる事に損はないわよ。

 頑張ってね!じゃ!」


「おい!園長!」



俺と楓と達也は部屋に残された。



「雅さん。

 今後座学について担当をします。

 改めまして達也です。

 そして実技を担当するのが楓となります」


「はあ…」


「早速ではありますが、

 戦闘能力について知りたいので、

 楓とタイマン張ってもらえますか?」


「はぁ?」


「早く来いチビ!」


「何だと!?」



楓は部屋の真ん中へと移動した。

俺もその後ろをついて行った。



「おいチビ!格闘技の経験は?」


「空手に柔道、ボクシング、

 格闘技に関しては一通りオリンピック代表経験ありだ」


「ふん!所詮お遊びね。

 本物を教えてあげるからかかってきなさい」


「ぶっ飛ばしてやるよ!!」



俺は楓に飛びかかった。

体が小さい事もあり、

スピードも速い。


ほぼ体当たりのような形で楓の顔面に飛び蹴りをかました。


しかし楓は俺の足を軽々と片手で受け止めた。



「何!?」


「所詮こんなもんよ」


「ちくしょう!」


「ふんっ!!!」



楓の足を掴んだまま地面へと叩きつけた。

後頭部を地面に打った事で一瞬気が遠のいた。


しかし楓は手を止める事無く、

逆の拳をみぞおちに突き刺した。


息が止まり、血を吐いた。

むせている俺の顔をサッカーボールのように蹴りぬいた。


吹き飛んで壁に叩きつけられ、

そのまま俺は気絶してしまった。



「大丈夫っすか?」


「えっ…?あいつ!!」


「楓は休憩中っすよ!

 それよりケガがひどいんで動かないといて下さい」


「は?」



全身包帯でグルグル巻きにされていた。


話によればそのまま気を失ってしまい、

3日間目を覚まさなかったという。


さらに全身骨折しており、

体中痣まるけという事だった。



「実技は当分難しいので、

 座学を中心にやっていきましょう」


「あ…ああ」


「このまま今日は生まれ変わりについて説明していきますね」


「分かった…」



俺は一台のタブレットを渡された。

そこには知らない事ばかりが書かれていた。



「まずは力の使い方についてです。

 100回分の人生の知識に関しては問題ありませんね」


「記憶があるから知識は問題ないな」


「しかし、力や動きに関しては別です」


「というと?」


「基本的にどうしても人間の頭の中で限界だと思われている事は出来ません。

 つまり頭の中の力以上の事は出来ないという事です。

 空を飛んだり壁を走ったりは出来ないという事です」


「今までの力×100ではないのか?

 それなら超人的なスピードやパワーがあって、

 空も飛べるんじゃないか?」


「確かに理論としては間違っていません。

 しかし今までの力×100の想像がつきますか?」


「つかないな…」


「力もあくまで知識の一環。

 つまりは筋肉の記憶でしかないので、

 引き出す為には出来るほどの想像力と力が必要です」


「不可能ではないって事か?」


「理論上は出来ます。

 しかし100回の方は存じ上げないので力の上限が計り知れません」



俺は自分はスーパーマンになれるものだと思っていたが、

どうやら少し違うようだ。



「出来る奴も存在するのか?」


「飛ぶのは難しいですが、

 何十メートルもジャンプは出来ますね。

 僕も7~8メートルはいけますから」


「お前も生まれ変わりなのか?」


「僕も楓も70回級ですよ。

 楓の方が運動能力は高いですけどね」


「リミットなのか?」


「まだはっきりとは分かっていません…」


「リミットの仕組みが分からないんだが…」



俺はフランス人の奴に聞いたリミットの話の続きが気になっていた。



「リミットは少し複雑ですからね…」


「仮に達也が死んだらまた達也の人格の人間に会えるって事か?」


「僕が急にこの組織に現れますね」


「時間軸が同じだからか?」


「そうですね。

 なので死んだらこの施設に来るんですよ。

 新しい身体で」


「でもそうしたら知識は増えないじゃないか」


「それにはちゃんと制度があるんですよ」


「制度?」


「考えてらっしゃるよりもしっかりしているって事です」



俺はこの時自分がどうなるかの想像がついていなかった。




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