第7話 所属

俺は無気力なまま車に乗せられた。

車は愛知県庁へと入って行った。


俺はそのまま特別会議室へと連れて行かれた。



「大丈夫ですか?

 ここなら一応安全です」


「俺は…俺は…」



俺は精神的に立ち直れていなかった。



「いつまでそうしているつもり?」



俺の目の前に園長が現われた。



「あなたの親は奴らに殺されてしまった。

 ある意味あなたのせいでね。

 しかし、これであなたを自由に動かす事も出来るわね」


「何だって?」



親が死んでくれて好都合と言われているような気がして、

完全にキレてしまった。



「てめぇ!」



俺は園長に殴りかかった。

すると隣に立っていたスーツの男と、

小綺麗にしていた女性が前に立ちはだかった。



俺が出した右のストレートの拳を男が左足で払いのけ、

バランスを崩した俺の顔面に女が強烈なキックをかました。


俺はサッカーボールのように吹き飛び、

2~3回転回り壁に叩きつけられた。



「けっ!くそチビが!

 すっこんでろ!」



女は吐き捨てるように俺に暴言を浴びせた。



「お前何やってんだよ!

 この人はお客さんだぞ!手を出すなんて!

 大丈夫ですか?」



拳を払いのけた男は俺の体を気遣った。


俺は全身の痛みで立ち上がる事が出来なかった。

しかしそんな事をお構いなしに園長は話を続けた。



「彼らに何を言われたのかは分からないけど、

 あいつらはテロ組織よ。

 ある意味説明の手間は省けたから言うけど、

 あなたには彼らを捕らえるために日本でその身を捧げて欲しいの」


「身を捧げる?」


「奴らが作ろうとしている独立国家だけはなんとしても阻止しなければならないわ。

 日本としてではなく、

 全世界規模の問題なの」


「そんなもの核でも何でも打ち込んでやればいいだろ。

 全世界の総意だとしたら」


「それが出来ない理由があるのよ。

 それよりあなたあの男から何を聞いたの?」



一瞬空気が凍り付いたように静かになった。

俺は立ち上がり質問に堂々と答えた。



「お前が嘘つきだと言っていた」


「なるほどね…。

 嘘はついてないわ。

 説明してない事はあるけどね」


「だったらその説明をもらおうか」


「その為にはあなたに所属してもらうしかないわ。

 国家機密だから話すことは出来ないの」


「所属?」


「日本国特殊防衛隊とでも言っておきましょうか。

 表向きには存在しない機関だからね。

 まあ”生まれ変わり”の人間を管理している施設よ」


「そこで何をすればいい」


「日本を守りなさい。

 あなたの全てを使って」


「そうしていれば奴が捕まえられるか?」


「もし、世界規模で彼らを捕まえる作戦が展開された時は、

 あなたをメンバーに推薦はしてあげるわ」


「上等だ」



俺は親の復讐をすることを自分に誓った。

何もしてあげる事は出来ず、

巻き込んでしまった彼らの為に出来る事は奴を捕まえる事だけだと思ったのだ。



「ついてきなさい。

 ここから先質問は無しでいいわね」


「ああ」



俺は小さい身体を動かして彼らの後ろをついて行った。


俺はまた車に乗り込んだ。

車が目指した先は名古屋港。


港に着くと、

そこには一隻の船があった。


船には海上自衛隊と記されていた。

船に乗り込むと一つの部屋に案内された。



部屋には俺を蹴った女と気遣った男が椅子に腰かけていた。



「雅さん!先程は失礼しました!

 自己紹介が遅れました。

 エージェントの松永達也と申します。

 おケガはなかったですか?」


「大丈夫だよあれくらい」


「楓も謝れよ!」


「うるさいな!

 後から入って来たんだからコイツは後輩だろ?

 何であたしが…」


「この人は俺たちと違って100回っていう凄い人なんだぞ?」


「いいよ別に…。

 見た目もまだガキだしな」


「すいません。

 あいつ本当は良いやつなんですけどね。

 木村楓と言うのでお見知りおきを…」


「勝手に本名教えてんじゃねぇよ」



達也は温厚な人柄に見えた。

それとは対照的に楓は我が強い女性だと感じた。



「僕光栄ですよ!

 100回の人と一緒なんて!」


「そんなに珍しいのか?」


「昔は存在したとかしないとかですけど、

 現代の日本では雅さん以外には僕は知りません」


「そうなのか…」


「ちなみに言うと、

 ”生まれ変わり”って言うのは日本だけなんですよ」


「どういう事?」


「海外では”タイムリーパー”と呼ばれる事もあります。

 実際雅さんの場合ですと、

 生まれ変わりを100回繰り返してますよね?」


「そうだけど…」


「もし平均寿命を70年で計算すると、

 70年×100回で7000年生きる事になります」


「お…おう…」


「でも、生まれ変わった記憶は全て現代の物ですよね?」


「確かに…」


「普通に考えれば、

 僕達が死んで次の世代に生まれ変わってるとしたら時間は進んでいないとおかしい

 んです。

 でも、時間軸は止まったまま。

 つまり同じ時間軸を常にタイムリープして生まれ変わってるんですよ」


「なるほど…」


「リミットの方は少し別ですけどね」


「別とは…?」


「雅さんの場合、

 1回目の人生から99回目の人生までは同じ時間軸に存在していました。

 しかし、この100回目は1回目の人生が終わった後の時間軸に飛ばされるんです。

 つまり2000年に1回目の雅さんが亡くなっていたとしたら、

 今の雅さんが生まれたのは2000年中という事になります」


「今の話だと2回目以降の生まれ変わりの度に新しい俺が生まれていたという事

 か?」


「園長さんの言い方を真似ると正解で不正解ですね」



俺は頭の中が混乱していた。



「同じ人間は一つの世界では存在しないんですよ。

 つまり1回目の雅さんが2回目の雅さんの人生に登場することはないんです」


「でも同じ時間軸に存在するとすれば…」


「時間軸としては一緒です。

 しかし…なんて言ったらいいでしょうね…」



少し黙り込んで考えた後に達也は答えた。



「簡単な言い方をするとしたら、

 ”もし別人間に生まれていたら”という人生を99回繰り返したという事になります」


「それだと俺が作った家族はどうなるんだ!?」


「人としては存在します。

 例えば2~99の奥さんの場合は他人としての人生を現在は歩まれています。

 お子様については存在しません」



俺は話を聞いてより混乱してしまった。



「2回目以降の俺と言う存在はその時間軸にはいるのか?」


「同じ事を聞きますね…。

 人間としてはいますよ。

 生まれないとおかしい事もありますからね。

 しかし、前の人生の雅さんではなく、

 中身はまったくの他人なんです」


「他人の人生のすり替わりを99回繰り返してるって事か?」


「そうですね!

 その言い方が一番しっくりきます!」


「つまり子供に関して存在しないのは俺の子供だったからという事か?

 その中身が違う他人との子供ではないからという事か?」


「その通りです。

 万が一同じ女性に巡り合っていたとするのならばあり得ますが、

 まず難しいでしょうね…。

 あっ…着きましたよ」



部屋のドアが開いて園長が入ってきた。



「着いたわよ」


「ここは…」



俺が着いたのは見た事があるようなないような場所だった。



「歓迎するわ。

 ようこそ。

 沖ノ鳥島へ」




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