第3話 蘇生
蘇生を試みていると、
先生が救急隊員と電話をしているのが聞こえた。
「えっと…子供が…
場所は…」
あまりに動揺していて上手く喋る事が出来ていなかった。
「先生携帯をスピーカーにしてこっちに持ってきて!」
「えっ…でも…」
「早く!」
先生は俺の隣にしゃがみこみ、
携帯をスピーカーに切り替えた。
「もしもし!
現在子供の蘇生にあたっているものですが!」
「えっと…
容体は…」
「子供の年齢は4歳。
外傷が見当たらない事と水の中にいた事から溺れたものであると考えられます!
心臓と呼吸は反応がない為、
心臓マッサージと人工呼吸による蘇生を試みているところです!」
「わ…分かりました!
頑張ってください!」
「溺れてから時間がどれほど立っているか不明な為、
非常に危険な状態です!
早く来てください!」
「はい!」
電話が切れてすぐに救急車が到着した。
ゆきちゃんはストレッチャーに乗せられた。
「このまま心臓マッサージを続けますので、
救急車まで運んでください!」
「君…子供じゃ…」
「早く!」
俺はゆきちゃんの上に跨り、
心臓マッサージを続けた。
救急車に乗せられたところで交代し、
救急車はゆきちゃんを乗せて病院へと向かった。
俺は一段落して後ろを振り返った。
すると何か不思議な物を見るような目で先生や園児たちが俺を見ていた。
(やべぇ…。やっちまった…。)
俺がどうしようかと悩んでいると、
園長先生がやってきた。
「雅くん…
ちょっと来なさい」
「は…はい」
俺は園長に手を引かれて部屋の中へと連れていかれた。
連れて来られた部屋は園長室だった。
そして彼女はコーヒーを淹れ、
何事もないかのように椅子に座った。
「雅くん…
あれは何?」
「えっと…」
「あなた”生まれ変わり”でしょ?」
「えっ…?」
一瞬背筋が凍った。
「何回目?」
「100回目です…」
「リミットね…」
「どういう事ですか…」
「あなただけではないという事よ」
「俺だけじゃ…」
「これからどうなるか興味ある?」
俺は小さく頷いた。
「では3日後にここに迎えをよこすわね。
大丈夫。
ちゃんと帰って来れるから」
「どういう事だよ」
「あなたは国の最終兵器となるの」
「はっ?」
「100回のリミットは稀よ。
大体一度は犯罪に手を染めるものだから、
リミットの減数が出てしまうものだけどね」
「意味が分かんないって!」
「100回の人生を真っ当に生きてきた人間は少ないという事よ。
あなた極めて稀なタイプなの」
「俺の他にもやり直しをしているやつがいるのか?」
「多くはないけどね」
俺は少しわくわくした。
いきなりの話で戸惑ったが、
彼女は淡々と話を進め、俺はその話を食い入るような目で聞いた。
「私もやり直しを何度かしてる。
でも元々犯罪者だったから減数が多すぎてもうほぼ後が無さそうだけどね」
「悪い事したらダメって事か?」
「そうね。
神に与えられているのか、
誰によって行われているのかは分からないけど、
事実やり直しの回数が少ないのは証明されているわ」
そして彼女は続けた。
「やり直しをしている人間は1億人に一人いるかいないかという確率よ。
まあ実際にどれだけいるかは不明だけど見つかっている人数で考えるとそれくらい
ね」
「どうやって探してるんだよ」
「見た目では判断は不可能なの。
あなたみたいに99回あった人生で見つかる事はなかった。
こういった時に見つかる事しかないのよ」
「つまりはたまたま一億人に一人という確率の人間が、
一億人に一人の人間を見つけたって事か?」
「正解だけど不正解」
「正解だけど不正解?」
「大人になってからではやり直しをした人間が犯罪者である可能性や、
悪人である可能性が高いの。
力や知識があるから好き放題出来るしね。
つまりは善人でない限りやり直しをしている人間に声を掛ける事が出来ない。
だから幼少期の間にやり直しの人間を見つけ、
善人であるかの判断をする必要があるの」
「それで?」
「その善人かどうかの判断をする為に私達のような人間が配置されているのよ」
「という事は元々探す為に配属をされてる人間がいるって事か?」
「人格の形成はやり直しの人間は幼児の段階で終了している。
つまりは幼児の時既に人間離れしているという事。
しかしやり直しをしているとは言え、
世間から疑問を持たれるような生き方は最初はしないものよ」
「その為に幼児の段階で判断できる施設に人を配属しているわけか」
俺は妙に納得した。
「国にある幼児を預かる施設のほとんどは私達の監視下にあるわ」
「なるほどな…」
「幼稚園の教諭や保育士の待遇が良くならないのも私達がいるからなのよ」
「はっ?」
「待遇良すぎると余計な人間増えちゃうからね~
本当は子供は国の宝だから丁寧に扱ってくれる人は待遇よくするべきなんだけど
ね」
確かに100回の人生で保育士とかになろうと考えた事はなかった。
待遇も給料も良くなかったから…。
「じゃあ残りの幼稚園生活楽しんでね!
三日後よ!忘れないように!」
「結局何なのか分かってないんだけど…」
「行けば分かるわよ。
そうだ!
半端でもあなたの事を愛してくれてる親御さんよ。
きっちり子供演じなさい!」
「わかってるよ…」
俺はニコニコと笑う園長に別れを告げた。
その後園長の指示であった事を他の先生や園児たちに伝えた。
もちろん納得など出来るわけはないが、
無理矢理納得をさせる形で終わった。
さらに先生達には口止めをした。
その為、大人の口から今回の事件が漏れる事はなかった。
子供がもし大人にこの話をしてもまず信じられるわけがない。
さらにゆきちゃんが溺れた事件も親に説明がなされた。
親からは大きな怒号も飛んでいたが、
園長は怯むことなく対応していた。
「雅~今日は大変だったんだね。
ゆきちゃんの事怖かったね」
「大丈夫!」
「お母さんもお父さんもいるから怖かったり、
嫌な事あったら言うんだよ?」
「うん!分かった!」
「今日は雅の好きなハンバーグだよ!」
「やったぁ!」
俺はこの後に起こる人生をまだ理解していなかった。
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