第2話 園児
俺はまた赤ん坊としてこの一般家庭に生まれ落ちた。
見た所父親は一般的なサラリーマンで30代くらい。
母親は専業主婦で見た目は20代前半くらいに見えた。
家の内装ははっきり言って貧乏という他ない。
最低限必要な家具しか置かれておらず、
娯楽の要素も皆無だった。
俺も体の発達という面で喋る事や体を自由に動かすことは出来ない。
後3~4年の我慢が必要だ。
その為、今は乳を飲んで寝るだけの毎日。
気楽で良いもんだと思われるかもしれないが、
感情は一般男性のそれと変わらない。
100回程体験したが、
母親との入浴やオムツ替えは流石に恥ずかしくて未だになれない。
そして赤ん坊期間の最大の地獄は夜だ。
俺は正直腹が減ったら泣いて呼ぶだけだが、
やはり母や父というものは心配だから同じ部屋で寝かされる。
その為、
知らない男女の性行為をひどかった時は毎晩見せられる。
ある意味では得なのかもしれないが、
感情は一般男性の為、
悶々としすぎて爆発しそうになる。
この夫婦も毎晩ではないが定期的に行われる性行為によって、
俺の性欲は今にも爆発しそうな状況にある。
俺は後数年こんな状況がまた続くのかと思い、
嘆きたくなった。
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「今日から一人で幼稚園だよ!大丈夫?」
「うん!」
流石に親に俺は感情大人だし、
頭もいいから必要ないとは言えない。
過去には言ってみた事はあったが、
親から褒められるかと思いきや、
気持ち悪がられ、
孤児院に捨てられるという経験もした。
つまりこの時に正体を明かすことは、
俺にとってはだいぶ生きづらい世の中になってしまう為、
不必要な事は伝えず、
年相応のふるまいをすることを心がけていた。
しかし、あの生まれ変わる瞬間の最後という言葉は妙に引っかかる。
もしこの状況が最後だとするのならば、
俺はこの最後の人生を想ったとおりに謳歌したいと考えていた。
「幼稚園着いたよ!
後で迎えに来るからいい子にしてるんだよ!」
「分かった!」
俺は幼稚園という精神破壊施設へと放り込まれた。
自分と同じ考え方や、
思考をしているやつなどもちろん一人もいない。
積み木を作っては喜び、
歌を歌っては褒められ、
ピカソも驚きの絵を描いては頭撫でられる。
もちろん周りから浮くことを避ける為に出来るだけ浮かない事に勤めた。
そんなある日、事件が起こった。
真夏のある日、俺は外で空を眺めていた。
この時既に力は普通の大人とは比べ物にならなくなっており、
さらには100回分の人生を思い出す事も出来る。
つまりは小さな完全体となったわけ。
そんな俺はなんとなく幼稚園内の端にある庭の池に目をやった。
いつもは園児だけで立ち入る事は禁止されている。
しかし、そこに4人程の園児が入って行くところを目撃した。
まあ後で怒られるだろうと思い、
見ない事にしてまた空を眺めていた。
「先生!ゆきちゃんがいない!」
「えっ?」
「どっか行っちゃったの!」
園児が一人いないという事で、
担任が探し回ったが、
何処にも見つからなかった。
そこで担任は立ち入り禁止の池の方へと走っていった。
「ゆきちゃん!!!!」
担任の叫び声が響いた。
すぐさま園児達や他の先生たちが駆け付けていった。
もちろん何事かと思い、
俺も見に行く事にした。
見に行くとそこにはビショビショになって地面に寝ころぶ女の子がいた。
担任はその子を必死に揺すっているが反応はなかった。
周りの先生や園児はパニック状態になっていた。
そしてその隣でその様子を唖然とした表情で見つめる3人の男児がいた。
先生たちはゆきちゃんの周りでうろうろして携帯で電話するばかりで、
応急処置が出来ていなかった。
俺は咄嗟に動き出していた。
「先生!毛布とかタオル!
そしてゆきちゃんをまず仰向けに!」
「雅くん!やめなさい!」
「下がってろ!早く救急車呼んどけ!」
ゆきちゃんの体に触れる俺を先生達が離そうとするが、
人間離れした力に逆らえず、
見ている事しか出来ていなかった。
俺はすぐにゆきちゃんを仰向けにして心音と脈を測った。
反応はなく、息をしていない。
外傷もない事とずぶ濡れの服を見て溺れたものだと考えた。
俺はすぐさまゆきちゃんの胸に小さな両手を当てた。
幼児の場合の心臓マッサージは成人と同様に、
一分間で少なくとも100回のテンポを維持して行う。
この時胸の3分の1ほどへこむくらいの力加減が理想である。
さらに30回行う度に気道確保を行って人工呼吸をゆっくり2回行う。
2回以上行うと胸の中の圧力が高くなってしまい、
血流を阻害して蘇生率が下がってしまうのだ。
俺は医者時代に学んでいた知識を基に、
ゆきちゃんの蘇生を試みた。
「ああぁああぁぁあ…」
先生達は唖然とした表情でこちらを見ていた。
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