ショッピングモール
うわあ、と思わず感嘆の声が漏れた。そんな俺の声は、すぐにたくさんの人のざわめく音にかき消された。
その様子に、俺は口をへの字にしていた。さっき、澪ちゃんに言われて覚悟は決めていたのに、やはりたくさんの人が込み入るこのショッピングモールに入ったことを早速後悔していたのだ。
「アハハ」
そんな俺の顔を見て、澪ちゃんは可笑しそうに笑っていた。思っていた通りの反応を俺が見せた、とでも言いたげだった。
「の、乗ってあげただけだから」
彼女の笑った意味を悟って、珍しく俺は反抗的な態度を澪ちゃんに見せた。そう言って、大股で人波の方へ進もうとした。
「ちょっと」
「何故止めるんだい、澪ちゃん。この群衆と相打たずして、この先にある勝利は望めるのかい」
「何訳のわからないことを言ってるの。そっちじゃないから止めてるの。二階に行きましょう。エスカレーターはあっちみたい」
「……命拾いしたな」
恥ずかしさを隠したくて誰かにそう言ったのだが、しばらくして余計に恥を掻いた気がしてきて、俺は頬を染めた。この場からさっさと離れたい。
「思った通りの反応をしてくれるわね」
「でも、今の行動までは予測出来なかっただろ」
「そうね。君は本当に面白い」
クスクスと笑われた。どうやら論破は出来なかったらしい。
「で、澪ちゃんはどこのお店に行くの? ちなみに、荷物持ちなら任せてくれ。瞳は結構買い物が好きでね。その癖、考えなしに買おうとするから、すぐに自分で持ちきれなくなって、最終的に大半を俺が持つことになるんだ。
だから、荷物持ちなら任せてくれ!」
「胸を張っているところ悪いけど、それすごい恰好悪いエピソードね」
「アハハハハ。そうだろう?」
少しはまともな姿を見せられて、俺は少しだけ気分が良くなり、彼女の前に躍り出て、
「ん?」
本当にまともな姿を見せられていたのか疑問に思っていた。
「まずは、本屋に行きましょう」
首を傾げていると、楽しそうに澪ちゃんが言った。
「本屋か」
「嫌?」
「いいや、そういうわけじゃない。瞳はそんなに本屋に行きたがらなかったから、なんだか新鮮だと思ったんだ」
「……そう」
澪ちゃんは一旦俯いて、続けた。
「志村君は本は好き?」
「ぼちぼちかな。ミステリーとかはたまに読む」
「そうなんだ。あたしは好きだよ」
「へえ、どうして?」
「あたし、結構人に嫌われているでしょ? 本当の人はあたしに辛く当たるけど、本の中の人はあたしのことに気もくれず、あたしを楽しませてくれるじゃない」
「そっか。重い話しないでくれる?」
そういうの、瞳でお腹いっぱいだ。
「アハハ。志村君は何か買いたい本とかあるの?」
「買いたい本、か」
俺は腕を組んで考えた。
買いたい本。
ミステリー小説とかは、正直最近は読みたい気分ではないしなあ。
なんなら、そうだな。
「自己啓発本」
「え、なんだかお堅いね」
「……色々あってね」
自分の駄目なところを理解して、どうすれば現状を回避出来るのか。
そういうの教えてくれそうな本と言えば、意識高そう系な人が読んでいそうで、『え、お前この本読んでないの? 人生半分損しているわー』とお前の人生、本二冊分なのかよと突っ込みたくなるような自己啓発本が真っ先に思い浮かんだ。
あまりにも偏見が強い自己啓発本への風評被害に謝罪。
「まあとりあえず、お互いに欲しい本でもないか探してみましょうよ」
「わかった」
彼女の誘いに同意して、俺達は二階にある本屋へ赴いた。
本屋は結構広くて、それなりに利用客や立ち読み客も多かったのだが、スムーズに自分の欲しそうな本を物色することが出来た。
そこで俺達は、本を一冊ずつ買って、満足げにお店を後にした。
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