どうにもならない時しかない。
いつ頃からだっただろうか。
多分、中学二年生になった頃だっただろうか。世間一般で多感な年と言われる十四歳の年、俺にも思春期というものが訪れた。かつては一緒に暮らしていることが当然だと思っていた両親のことを疎ましく思い、忌避するようになった時代の話だ。
あれ以前と以降で、俺の性格は少しだけ変わったように思えた。悪い方向にも良い方向にも。
今でも思春期は続いている。
当時の最盛期に比べれば幾分かマシになり、露骨な無視とか舌打ちとか、そういう低俗な行いをすることはなくなった。だけどまだ、心のどこかで気恥ずかしさに似た煙たい気持ちを両親に抱くこともしばしある。
それでも、高校生にもなるとわかることがある。
それは、自分という存在がまだまだ子供だと言う、情けない状況への理解だった。
十八歳は、子供が大人になるステップにおいて、重要な意味を成す年頃だと思っていた。
財力。知力。活力。
大人に近づき、知能も多少はマシになり、状況は客観視出来るようになってきていた。だからこそ俺は、まだまだ自分に足りないものがあることを理解し、大人となり成長していくことへの苦難さを知らしめさせられる日々に苦悩し始めていたところだったのだ。
子を成す。
それは、果たしてまだまだ半人前の俺が行って良かった行為だったのだろうか。
好いた人と成長し、愛の証を成す。
そんな将来の展望に、焦がれ望んだ日だってないわけではなかった。
特に最近は、目の前にいる少女のせいでそんな日を渇望させられていた。
だけど、だからと言っていきなり子供だなんて……。
「子供だなんて、まだ早すぎる」
まだまだ子供な俺に……いいや、俺達に、子供だなんて早すぎるではないか。せめて責任が取れるような年齢になってからでないと。そうじゃないといけないんじゃないのだろうか。
「……ケンちゃんの言いたいことは、わかってる」
瞳はそう言って、スマホをしばらく操作して、画面を俺に寄越してきた。
「……んなっ!」
画面に映されていた光景は、見覚えのある男女が裸体を晒し、男は惰眠に耽り、女はカメラにピースを向ける写真だった。その他、あまりにセクシャル故に表現は割愛するが、まあとにかくその写真には俺と瞳の一夜の行為が刻まれていたのだ。
「なんてもん撮ってんだ」
「最初は、これを出汁にして脅迫まがいに既成事実を知らしめるつもりだったの」
瞳の声は明らかに後悔の念が混じっていた。断罪されているのを恐れているのか、俺と目を合わせようとはしなかった。
それにしても、子を成すことは悪いと思っていても、脅迫まがいの行為は良いと思っていたんだな。
彼女に対して好意的な感情がある俺だったから良かったものの、一歩違えば犯罪だぞ。
「安全日だから……その、しなかったんだけど。それが間違いだったの、多分」
「……なんてこった」
それ以上の言葉を紡げる気がせず、俺は頭を抱えていた。
両者の両親も随分と甘い判断を下したものだと思ったんだ。まあ、素直じゃない俺の胸中を悟っていたから、強硬策に打って出ようと画策したのだろうが、多分子が出来たのは誤算だったのだろう。
だとすれば、一話時点の父も内心では相当取り乱していたのだろう。
瞳を煽り、既成事実を作らせたは良いものの、まさか妊娠するなんて、と。
……あまりにも遅すぎる理解だった。
彼女への気持ちを理解した時と同じように、もっと早く。彼女が独断専行する前に、邪な手段に出る前に、思いを伝えて結ばれることは出来なかったのだろうか。
再び俺は、どうにもならない現実に強い後悔を覚えていた。
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