アスモデウスの日常 その一

 夏目ちゃんに召喚される何百年前のお話――。


 お姉さんこと、アスモデウスは単身で人間界へ遊びに行っていた。


 召喚に応じ契約と対価を、っていうのがちょっと面倒だったのよね~。


「この時代の人間界は、奴隷制度とか娼婦なんかあって楽しそうね~」


 今しか味わえない欲を心ゆくまで楽しむのもありかしら。うふふ、娼婦になって坊やたちで遊んでみたいわね。


 そうなると、見た目で惹かれる女になる必要があるかしら?


「本来の姿でもいいのでしょうけど……。それじゃあ、面白くないわ~。人間に化けるのも一興」


 魔力で見た目を若く、絶世の美女に化ける。

 これでいいかしら?


 鏡に映る自分の姿を確認する。胸は男好みに大きく張りがあり、形も綺麗に。腰回りは細く華奢に。顔は小顔、目元は大きく。艶やかなの長髪の黒。


「あとは娼館に入って遊ぶだけ」


 娼館に入るのは簡単。見た目で騙された娼館の主は、あっさり受け入れさっそく男を呼び込む。


 最初の坊やは、筋肉質で平均男性より二回りほど身体が大きい。

 これなら、あれも大きそうよね~。


 強引に抱くのが好きなのか、腕を押さえられお姉さんの脚を開き前戯なしで突き挿れる。人間なら痛みを感じるのでしょうけど、お姉さんからしてみればちょっと物足りないわ。


 ただ、獣のように腰を振るだけじゃあ三流ね。


 行為が終わり、坊やは満足した様子で帰っていく。ダメね、彼は。もっとそういう行為の技術を磨いてお姉さんの欲を満たしてくれないと。


「身体つきが良いから楽しめるかと思ったけど、案外そうでもないわね~。もっと、脳が蕩けるような意識が飛びそうな経験ができないかしら」


 二人目は、脂肪の塊とでも言うのかしら。お腹は出てるし、腕も脚も脂肪で柔らかそうね。あれは、どうなのかしらね。この坊やは。

 声は、声変わりしていないのか、男性にしては高くそしてお姉さんを気遣う。


 ――痛かったり、嫌だったら言ってほしい。


 人間に心配されるなんてね。


 行為は、予想より少しは楽しめたかしら。ベッドにうつ伏せに、坊やは覆い被さり挿れると何度も角度を変えて突く。

 他にも、お姉さんの片足を担ぎ押し込むように突き上げる。お腹の脂肪が下腹に当たって子宮に響いて気持ちよかったけど。


 二人目も、満足して部屋を出ていく。一人目よりは良かったわ~。


「あの脂肪の坊やはそれなりの技術があったみたいだけど。お姉さんを満足させるには足りないわね~」


 三人目は、見た目は小さな子供。

 しかし、ちゃんと成人していると。


 まあ、お姉さんとしてはそんなことどうでもいいのだけど。この坊やはどうなのかしらね~。


 一発目は正常位なのだけど、まさか首を絞めてくるなんて思いもしなかったわ。この坊や、嗜虐心が強いのかお姉さんを苦しめて楽しみたいのね。

 二発目も、四つん這いにさせられるのだけど頭をベッドと枕で挟み呼吸困難に追い詰める。


 そうすると膣が締まって気持ちいいらしい。

 そんな行為を五回、繰り返し終わる。


 ふふっ。これは中々、面白かったわ~。


「息ができない状態でイカされる。初めての体験だったけど楽しかったわ~。見た目は小さいのに意外と力もあるし、あれも最初に来た坊やよりも、二人目よりも大きくて」


 うふふっ。人間は見た目で判断してはダメね。


 娼婦体験を二十年程、楽しんだあとは別の刺激を求め娼婦をやめる。

 娼婦になって稼いだお金には興味は微塵もなく、悪魔なのに気分次第で教会や貧しいところ、目についたどこぞに寄付する。


「次は何をしようかしら?」


 何をするか迷っていると、視界に入ったある光景。

 首、手足に鎖で繋がれ布一枚を着せられた女の一行。


「あれって、もしかして……」


 奴隷というものかしら。そうね、娼婦の次は奴隷になってみるのも一興だわ。

 興味本位で奴隷に。


 これまた、魔力で男好みの肉体へ変える。すぐ、奴隷売買の競りにかけられお金持ちの男に買われた。


 何をしてくれるのか、内心で沸き立つ心を静めつつ身体の奥は疼く。お姉さんを買った坊やは、鞭を持ち罵倒と共に打つ。乾いた音が地下室に響き、お姉さんの身体に赤い筋を残す。


 言葉では汚く罵倒、でも身体は性欲処理がしたく反応する。鞭打ちのあとは決まって犯す。鎖に繋がれ、冷たい地面に押しつけられ何度も膣に出される。妊娠の心配はないから、何をされても人間の娘のように演じるだけ。


 けばくほど、坊やは興奮して体位を変えて一日中、お姉さんの肉体で性欲を満たす。その分、お姉さんも欲を満たし続けるの。


「奴隷というのも悪くないわ~。毎日、お姉さんで性欲を満たそうとしてくれるから、お姉さんも人間の女を演じることを忘れて素になっちゃう」


 拷問器具で遊んでくれる時もあるし。


 でも、買われて三十年。そろそろ、人間の歳で限界が近いわね。肉体が衰えて、犯す頻度も少なくなってきたし、最初の頃のような勢いも感じられなくなってきたわね~。


「もう潮時かしらね」


 そう考えていた矢先、あっさりと死んでしまった。どうやら、病気を患い長くなかったよう。


 これから、どうしようかしら。また娼婦や奴隷をする? いいえ、それはもう経験済みで飽きてきたわ。


「契約を取る、ね……」


 契約を取り対価を貰っていた頃はある。でも、あれをしろこれをしろ、と命令ばかりでつまらない。契約以外の命令をされるのは、お姉さん嫌いなのよね~。


 だから、召喚に応じることをやめ単身で人間界へ訪れてはお姉さんの欲を満たす遊びを探して人間の社会へ溶け込む。


 でも、それだけじゃあ、代わり映えしなくて退屈になってきちゃう。


「一度、冥界へ帰りましょうか」


 冥界へ戻ると、仲が良い悪魔に出くわす。


「あら~。グレモリーちゃんじゃない」

「アスモデウス。貴方を見るのは百年ぶりですね」

「あら、そんなに経つの?」

「ええ。どうせ、貴方のことですから人間の男を使ってあれやこれやと楽しんでいたのでしょう?」


 グレモリーちゃんに言われて人差し指を唇に当て笑う。


「そうよ~。中々、楽しめたわ」

「そのようですね」

「グレモリーちゃんは契約?」

「ええ。召喚に応じたので、これから人間界へ向かうところです」


 グレモリーちゃん、悪魔の中では珍しいというか普通ならしないことを率先してやりたがる性格だものね~。世話焼きって、そんなに面白いのかしら?


 お姉さんとは違う思考回路をしているわ。


「まあ、グレモリーちゃんがしたくてしているし、楽しいのならいいんじゃないかしら~」

「ええ、やりたいことですし私にとってこれが一番、楽しいことですから」

「頑張ってね~」

「アスモデウスも、契約を取ってみてはどうですか? 違った楽しみが見つかるかもしれませんよ」


 グレモリーちゃんが、そんなことを言い残して去る。


 違った楽しみ……。グレモリーちゃんがそう言うなんてね。


 契約、取ってみようかしら。でも、もう少しだけ人間界で遊んでから。


 契約を取るなら日本にしてみるのもいいわね。なにせ、彼の国には一度も訪れていないし行ってみたいと思っていたの。


 どんな人間に会えるのか、どんな楽しみが待っているのか。焦ることはないわ。ゆっくりいきましょう。


 悪魔は永い生を持つのだから。

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