グレモリーの日常 その二
そして、月日が流れある人間の召喚に応じた。
契約内容は、復讐だった。己の代わりに五人へ復讐して欲しいと。対価は、全て。
そう、この契約主こそが主こと大磨夏目だった。
主は杖をつき、片腕もあまり動かせない。その理由を、主の過去を見て理解した。なるほど、復讐を望むのは姉君のこと、その身体は復讐相手によるものですか。
主の望み通り、復讐の一人目を終えた後。
私の朝は早い。眠る必要性はないのですが、主は眠るため夜は与えられた部屋で就寝。時に、主には内緒で部屋に忍び込み主を深い眠りへと誘うことも。
朝、五時に起床。部屋の空気の入れ替え、テーブルを綺麗に拭く。主の健康のため殺菌消毒は必須。それが終われば、朝食の準備。
キッチンに立ち献立を考える。
この時間が私にとっては楽しい瞬間です。
「主の好みに合わせつつ偏らないよう……」
などと、一人で呟く。
主に召喚されてからというもの、炊事洗濯と家事を熟すのが私のこの家での役目。主の世話も私が好きでやっていること。
「ふふっ」
主の喜ぶ姿を想像するとつい笑みがこぼれてしまいますね。
当初は、主も別に家事をしなくてもいい、と言っていましたがいざ私がすると「いつも家事をしてくれて助かる。ありがとう」と感謝とお礼を言う。
まさか、そんな一言で悪魔である私が喜ぶとは思いもしませんでしたが。
こんな気持ちは悪くありませんね。
主と一緒に洗濯物を干すのも、買い物へ出かけるのも楽しいですし。
「おっと。いけませんね。早く朝食を作らないと。主を起こしにいけません」
朝食が出来上がれば、主を起こしに部屋へ。
「主、起きてください。朝ですよ」
「んっ……。うん?」
「起きてください」
「あ? グレモリー……」
「はい、そうです。起き上がれますか?」
「…………」
布団の中で右手を伸ばす。左腕にはほとんど力が入らないため、起き上がれそうにない時は私の手を借りて起き上がる。
「起こしますね」
上体を起こし、まだ夢うつつな主の髪に触れ寝癖を整える。これも私の役目。
そうして脳が完全に覚めたのなら、着替えである。
「グレモリー」
「はい」
「一人で着替えられるぞ?」
「いえ、主の身に何か遭ってからでは遅いので私もお手伝いいたします」
「…………そこまで子供じゃない」
ふふっ。恥ずかしがっていますね、主。しかし、これも譲れないのです。世話焼きの性格なので諦めてください。
恥ずかしがる主を内心で楽しみつつ、着替え終わると朝食へ。
同じく召喚に応じたバアルがテーブルについていた。アスモデウスは、まだ帰っていないようですね。まったく、また外で遊んでいるのでしょう。
朝食が終わるとお茶休憩。
「グレモリー」
「どうかしましたか? 主」
「いや、大した用じゃないが。朝食、美味しかった。特に出汁巻き卵が。それにいつも僕の代わりにここまでしてくれて助かる」
「いいのです。私がしたくてやっていることですら」
「それでも、助かっているのは事実だよ」
時より、一瞬ですが主は笑うことがある。その笑みを見られることが嬉しいのです私は。
だからなのでしょうか。主の世話はやり甲斐があると思うのは。
本来なのなら、契約以外のことをそこまでする必要はないのに。主のそばは私が思う以上に居心地が良いからでしょう、何でもしたくなってしまうのは。
休憩が終われば食器の片づけ。その後、部屋の掃除からお風呂掃除と洗濯。今度は昼食の用意。夕方になると、主と共に夕飯の買い出し。
本日の夕飯メニューは主の好物、オムライスです。明日も好物のメニューであるカレーにしましょう。
夕食を済ませると、主と一緒にお風呂へ。
「いや、グレモリー。風呂にまでついてこなくてもいい」
「ダメです。一人でするには時間がかかります。のぼせますよ?」
「そ、それはそうかもだが。僕は一人で大丈夫だ」
「いえ、なりません。私がしますので、主は座っているだけで構いません」
「えっ、いや、でもな……」
「さあ、主」
服を魔力で脱がせ裸に。
叫ぶことはしない主ですが、顔は耳まで真っ赤に。そういう反応も可愛いと思いつつ楽しんでしまう私がいたりもしますけどね。
「こ、ここまでしなくてもいいって言ってるのに……! 本当に僕の世話になると言うことを聞かないなグレモリーは」
「それが私ですから。はい、目を瞑ってくださいね。流しますよ」
「本当にメイドみたいだ」
服もメイド服に着替えていますからね。
主の頭、身体を洗い湯船へ浸かる。腰にタオルを巻いたまま。
さすがの主もタオルだけは死守するので諦めましたけど。
こうして、一日が終わる。
主も文句を言いつつも、私がしたいことを全てやらせてくれますね。私自身、主の世話が楽しいので毎日が充実していますよ。
どこへ行くにしてもそばにいることを許してくれる。ふと、思い出すと世話のことも家事のこともお礼を口にしてくれる。
悪魔である私らしかぬ、このままこんな時間がいつまでも続けばいい、と本気で思ってしまいますね――――。
―終わり―
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