四人目 復讐は当事者のみならず その六

 ここが佐藤康介の家か。三階建ての一軒家。庭もそれなりの広さ、外観も立派ときたか。グレモリーの情報では、父親が政治家で裕福な家庭。家には家政婦もいるとか。


 本人は、プライドが高く表向きは明るく優しさを振りまき、本性は未成年でありながら煙草や酒に手を出し、万引きを何度も繰り返し、自分の思い通りにいかないければすぐに苛立ち暴力的になる。


 クズだな、こいつも。

 と、玄関が開き中から佐藤康介本人が姿を見せた。


「お前……!」


 僕の姿を捉えると怒りの形相になり喚き散らす。


「よくもやってくれたな! お前のせいで俺がどれだけ親父に怒鳴られ殴られたと思ってんだ! あんな動画のせいでよ!」


 出てくるなり僕を殴ろうとする佐藤をバアルがあっさり動きを封じる。


「なっ⁉ なんだよこれ! 身体が動かねぇぞ⁉」

「騒ぐな人間」


 バアルの魔法陣が佐藤の口元に浮かび上がり、強制的に声をかき消し何か訴えるが誰もその言葉を聞くことはない。


「それじゃあ、いきましょうか~。坊や」

「――っ。――――っ!」


 バアルが佐藤を担ぎ、アスモデウスが空間を捻じ曲げ異空間へと繋げる。グレモリーは僕の手を取り異空間の中へ。事前に僕らの姿も声さえも遮断する魔法陣を展開し全員が異空間の中へ入ると同時に消滅する。


 中は、牢獄に似た場所。錆と血の臭いが鼻をつく。僕が立つ場所は、牢獄の外でその中には数人の裸の男が血走った目を開き口から涎を垂らす。


 ……普通の男ではない。中にいる全員が精気を感じさせない白い肌、血走り大きく開かれた瞳には光が灯らない虚ろな目。


 この者たちはいったいなんだ……?


 僕の疑問を置いておいてバアルが担ぐ佐藤をその牢獄の中へ放り込む。鉄格子を閉め、


「お前は今から、性欲に飢えた男共の処理をしてもらうぜ」


 ニタァと笑みを浮かべそんなことを言う。

 ああ、それで彼らの股間がすごい盛り上がっていたのか。見るからに異常だった。


「ふ、ふざけるっ! なんで俺がそんなことしないといけないんだ! ここから出せ! 出せよ! おい⁉」


 鉄格子を掴み、こじ開けようと腕を振る。が、バアルの指鳴らしで待機していた男共が動き出す。佐藤を捉えると一斉に群がっていく。


 その光景を、グレモリーが用意してくれた肘掛け椅子に座り眺める。


「姉さんにしたことを話せば、全部終わったあとでそこから出してやる」

「ああっ⁉ 舐めたこと言ってんじゃねぇ! 今すぐ出しやがれ! 今度は、五体満足にいられると思うなよ!」


 僕の言葉に心底、腹が立ったのか暴言を吐く。そうか。貴様がそういう態度なら話したくなるまで男共の処理でもしてもらおうか。


 男共の髪を引っ張り顔を殴り、足で近寄る者を蹴り飛ばし引き剥がす佐藤。


「バアル、やれ」

「はいよ」


 また指を鳴らすバアル。すると、男共に変化が。殴られようが蹴られようが、掴む手は放そうとせず口をこれでもかというくらい開くと、衣服の上から噛みつき出す。目が佐藤を捉え続け視線を外さない。


「痛ってなあ! この野郎!」


 まるでゾンビみたいだな。


 佐藤も痛がりながら男共を殴り蹴りで応戦する。喧嘩も強いようで、引き剥がし体勢を整えると腹部や顔を重心的に狙い拳をのめり込ます。他にも足捌きで転がし、腕や手を踏みつけ投げ飛ばす。


「ひゅ~。人間にしてはやるな」


 バアルが珍しく口笛を吹き関心する。


 男共を倒し終わると鉄格子越しに、


「この程度で俺をどうにかできると思うなよ。次、こうなるのはお前だ!」


 指を突きつけ僕を脅しかける。


 僕になんの力もなく何もできないのなら、貴様の脅しも有効だろうな。だが、ここは僕が契約した悪魔の空間で僕の命令一つでなんでもできてしまう。そんな場所で、貴様に何ができるって言うのだろうな。


「そんなこと言っている場合か?」

「はあ?」


 僕は、佐藤の後ろを指す。

 佐藤は振り返り、その光景に言葉を失くした。倒したはずの男共が、


『ケラケラケラケラケラケラッ』

『ヘッヘッヘッヘッヘッヘッヘッ』

『カカカカカカカカカかカカッ』

『グッグッグッグッグッグッグッ』

『フフフフフフフフフフフフッ』


 と不気味な笑いを発しながら立ち上がる。その顔は、目を細め生理的に気持ち悪いと感じる笑みを作り舌を出し涎を垂らしている。


 また一斉に群がり、佐藤の衣服を力づくで破り捨て露出した腕や足にしがみつき身動きを封じられる。


「な、なんなんだよこいつら⁉ やめろ! 気持ち悪いんだよ! 放せ! くそが!」


 そろそろ、これの説明がほしいのだが。そう思い三人の悪魔に視線を送る。すると、アスモデウスが顎に人差し指を当て答えてくれた。


「彼ら、痛覚がないのよ~。むしろ、痛みさえ快楽に変わるの。何より、男女関係なく壊れるまで犯し続けるだけの元人間だったりするのよね~」

「……そうなのか」


 誰だこれを連れてきたのは? 色んな意味で危険な存在じゃないか……?


 僕の心を読んだグレモリーが耳打ちで教えてくれる。


「これを召喚したのはアスモデウスです。この空間を創り出したのはバアルですが」

「性欲云々と言うからもしや、と思ったがやはりアスモデウスか……」

「はい」


 まあ、僕がとやかく言う筋合いはないしいいか。

 その説明を受けた佐藤は、群がる男共を見て顔を青ざめる。


「な、なんだよそれ⁉ おい! 見てないで助けろ! おいってば!」


 悲鳴に似た叫びで僕らに懇願するが、僕も誰もその場から動こうとしない。話す気もない貴様に手を貸すはずがないだろ。


 佐藤は手足を一心不乱に振り抵抗するがついには押し倒され下着姿に。


「やめろ! 放せ! 来るな! やめろって! 頼むから助けてくれよ! くそっ! なあ⁉ やめろ! やめろって!」


 地面に腕を押しつけられ振り解けない佐藤。奴の視界には、気持ち悪い笑みを作り涎を垂らす男共で埋め尽くされていることだろうな。


 佐藤は、やめろ、と連呼する。


 そして、アスモデウスの説明通り次に何をされるか理解し顔は恐怖に染まる。


 まだ、復讐は始まったばかりだ。もっと、地獄を見てもらわないとな。

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