四人目 復讐は当事者のみならず その五

 例の動画は三日で再生回数は万を超え、動画のコメント欄には暴行を振るい脅迫をする佐藤と一ノ瀬、そして学校側、保護者、警察に対して批判や中傷のコメントで埋め尽くされていた。


 僕の復讐は、当事者だけじゃない。僕ら家族をバラバラにした関係者の全員を、僕が味わった痛みも地獄も絶望も全て受けてもらう。


 そのための動画なのだから。


 例の動画の二つだけだと思うな。これで終わりじゃない。


 僕が次にアップしたのは、今まで溜めておいた虐めの事実を告白してきた当事者の動画だ。むろん、名前から年齢、過去にしてきた犯罪も金遣いや男遊びと関係するもの全て概要欄に。


 僕の声は編集でなくして、字幕に置き換え問いかける様子が映し出される。姉さんの名前も『――――ピー』の機械音に変えてある。


 チェックしていたSNSでは、アップしたばかりの動画の三つがすでに拡散されており、彼らを叩く呟きと『虐め告白動画』という単語がトレンド入り。


 それから二日後、報道ニュースやネットニュースにまで取り上げられることとなる。


「夏目ちゃんがアップした動画、すごい勢いで拡散されていくわね~」

「今の今まで隠されていた虐めが明るみになったのですから、当然といえば当然のことなのでしょう」


 スマホを片手にSNSを覗くアスモデウスは呑気にそう言い、グレモリーは紅茶を淹れながらアスモデウスに答える。


 グレモリーが淹れてくれた紅茶を飲みつつ四人目の復讐を考える。四人目は、佐藤康介だ。僕にした暴力、そして姉さんにしたことその身で受けてもらうぞ。


 日記に綴られていた内容。貴様が最初に姉さんを強姦し、一度では飽き足らず下着姿の写真を撮りその行為の動画を録って脅し、橋本と一緒になって何度も犯したこと! 抵抗しようとしようとすれば僕にした時のように、暴力で有無を言わさず傷続けたこと!


「貴様も、犯され殴られ蹴られ続ける痛みを味わうといい……!」


 日記を読み返せば返すほど、色んな感情が抑えきれず口からもれた言葉。


 考えが纏まり、佐藤に会いに行くため三人の悪魔を連れて家を出る。その矢先、橋本刑事とその後輩の市来刑事に出くわす。


「あの動画は君が録りアップしたのかい?」


 今までは笑みを浮かべ訊いてきたのが、険しい表情に声のトーンも低い。まるで、刑事として人としてあんあ動画をアップして貶める行為が許せないとでも言いたげだな。


 自分の息子も関与しているから、多方面から色々と問い詰められたか? 顔色があまり優れないようだし目の下には隈もできているようだな。


「いや、知らないですけど」

「お前……!」


 素知らぬ顔で答えると、市来刑事が声を荒げ詰め寄る。


「おい、人間。それ以上、近寄ると怪我だけじゃ済まなくなるぞ?」


 すぐさま、僕の前にバアルが立ち塞がり言い放つ。市来刑事は、バアルの圧で怯むが構わず僕に怒りを向け言う。


「君がやったのだろう⁉ 彼らは、君のお姉さんの自殺に関与していると踏んで、あんな動画を録った! そうだろ⁉ 音声データも、君でなければ用意できるはずがない! どうして、あんなことができるんだ! 先輩はあの動画のせいで、批判が飛び署でも後ろ指を指される羽目になったんだぞ! 君の行動で、先輩だけでなく保護者の方や学校関係者に多大な迷惑がかかると分からないのか⁉」


 その思いの丈を聞く中でも、橋本刑事は何も言わずただ僕を見つめる。


 なに? 僕に、迷惑けてすみませんでした、あの動画は事実無根なんです、とでも頭を下げて謝罪してほしいのか?


 ……ほんと無能な警察だよな。


 見つめる橋本刑事を、僕は蔑む。


「何も知ろうとしない貴方が主に意見できるとでも? 批判を受けるのも、後ろ指を指されるのも当然のことでしょう。事実なのですから。本当に無能な警察方ですね」

「なんだと……!」


「真実を暴くのが仕事だと言うなら何故、加害者の言葉ばかりを鵜呑みにして被害者の言葉を訴えに耳を傾けなかったのですか? 今更になって主の前に現れて、正義気取りを見ていて虫唾が走ります。主と家族の無念を晴らすことができる立場でありながら、何もしてこなかったのは貴方たち警察ではないですか」

「…………っ!」


 市来刑事を黙らせるグレモリー。僕が言いたかったこと全部、言ってくれて少し気が晴れたよ。僕は、橋本刑事に問いかける。


「橋本刑事、息子が親に隠れて虐めから犯罪行為を繰り返していたことどう思う? 警察に彼が犯した罪で傷つき被害を訴えてきている女性がいたりしないのか?」

「そ、それは……」


 ようやく口を開いたかと思えば言い淀む。その反応から、被害を訴える女性が何人もきているのだろう。


「息子の犯罪行為するら止められず、姉さんのことをただの自殺として処理しておきながら嗅ぎ回るな。何も見ようとも知ろうとも助けることもしなかったくせに、正義面するなよ」


 僕の言葉に何も言い返せず押し黙る橋本刑事。そばにいた市来刑事も、拳を握りしめ歯を食いしばり僕らを睨むだけ。


「親としても、警察としても、人としても、無能な己を一生責め続けて、社会から冷たい目と蔑み中傷を受けながら生きていけばいい」


 そう言い放って、二人の横を通り過ぎる。もう僕を止めることもなく、俯き肩を震わせるだけの橋本刑事。


 振り返ることもなく、佐藤の下へ向かうためその場を去る僕らだった。

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