僕は君と親友になりたくない

赤青黄

親友にはなりたく無い

 僕は自分で言うのは恥ずかしいが絶世の美女だ、世界で一番美しく、何でも出来る完璧超人だ、だがそんな僕にも完璧ではないところがある。

 僕の友達に、悪友がいる頭も悪く大声で笑い笑顔で話しかけてくるうざったらしい悪友がいる。

 これが僕の欠点でもある。

 トントンと病室内にドアを叩く音が響く。

 どうやら今日も来たようだ。

 僕は読んでいた雑誌を布団の上に置く。

 そしてそれが合図のように返事も聞かずにドアが開けられる。

 「よお、元気か?」

 無駄にデカい声と共に 扉からビニール袋を携えた、だらしない高校生が入ってきた。

  僕は、そんなもやしの様な態度が気に入らなくなり。

 「君が来たから元気がなくなったよ」

 と能天気に笑顔を振りまく悪友に意地の悪い返事を返した。

 「そうか、それは残念だな」

 僕の意地の悪い返事を気にも留めず、 いつものように悪友は僕の隣に座ってくる。

 いつものニコニコ顔が隣にやって来たので

 「キモいよ、君は」

 僕は悪友の顔を触りどこか行かせようとする。

 しかし悪友は僕に触られたことを気にせずに話を進める。

 「聞いてくれよ今日はとっておきの話があるんだよ」

 悪友はビニール袋を床に置いていつもどおりの自分が面白いと思った出来事を話してきた。

 しかしその話がとてもつまらなく眠気を誘う。

 それに悪友のにへら顔にもムカついてきた。 僕は悪友の話をぶった切り。

「くだらない、君は本当につまらない人間だな」

 と毒を舌に絡ませて悪友に言った。

 しかし悪友はいつもの安心する笑顔で。

 「はははは、こりゃあ参ったよ」

 といつものように、にこやかに笑った。

 僕はそんな顔に呆れながら。

 「本当につまらないな」

 と背中を曲げて悪友の顔を静かに見た。


トントン

 いつも通りの扉を叩く音を合図に僕は雑誌を布団に置く。

 今日もいつもどおりに悪友が来たことがわかった。

 多分明日も明々後日もずっと聞く音だろう。

「よお、元気にしているか」

 いつもと変わらないセリフでいつもと変わらない笑顔で病室内に入ってくる。

 そしていつもどおりに僕の隣に座って話をする。

 悪友はいつも長時間、僕の所にやって来て笑顔と共に僕に雑誌をくれる。

 まるで明日の糧を与えるように花に水やりをするように毎日、毎日やって来る。

 安心する。

 突然浮かんだ忌々しい感情に僕は頭を振ってかき消す。

 「どうしたんだ?」

 僕の突然な行動にいつもの笑顔と共に首を傾げる。

 こんな奴にあんな感情を抱くなんて。

 僕はベットの上に硬い握りこぶしを作りにへら顔の悪友に。

 「うるさい!出て行け」

 僕は悪友の顔が見れなくなり近くにあるものを思いっきり投げる。

 「うあ、ちょ、え」

 悪友は僕の突然の行動に戸惑いながら軽やかに投げた物に当たりながら病室内を出て行った。

 「ハァ、ハァ、ハァ」

 僕は熱くなった顔を触りながらにへら顔の悪友を思い出す。

 ムカつく……そう!ムカつくんだ、僕があいつと居て安心するわけ無い。

 僕は心を落ち着かせながら床に置いてあるビニール袋を近くに持ってくる。

 そして中から新しい雑誌を取り出す。

 「じゃあ、元気でな」

 僕が雑誌を読もうとした瞬間扉からひょっこりと悪友が現れた。

 いつもどおりのにへら顔に僕は枕を投げ飛ばした。


 トントン

 今日も来たらしい、僕はいつもどおりに雑誌を布団の上に置く。

 これで何ヶ月目だ……。

 僕は背伸びをして体を動かすボキボキと骨が鳴り何ヶ月も体を動かしていないことがわかる。

 「よお、元気か?」

 いつもどおりのセリフに僕はため息を吐く。

 「相変わらず、俺のことを邪険にするなあ、俺はお前の親友だぞ」

 突然の親友発言に僕は困惑顔を作りながら。

 「何を言う、君とは友達だと思ったことは無い」

 と寝言は寝て言え発言をする。

 「……」

 突然の沈黙に僕は黙ってしまった。

 いつもならこの程度の罵倒は流してくれるのに何故だ。

 僕はゆっくりと悪友の顔を見る

 いつもどおりの笑顔しかし何処か悲しそうな顔だった。

 「……そ、その」

 「ワハハハハ、酷いな出会って二年の俺に親友ではないとかひどすぎるぜ」

 一瞬の静けさはまるで嘘だったかのように消え去り悪友の笑い声に僕が言おうとした言葉は宙に舞ってしまった。

 

 トントン

 今日も悪友はやって来たらしいまるでホコリのように毎日現れるな。

 …ホコリはひどかったか。

 そんな僕の事情を無視して悪友は元気よく病室内に入ってくる。

 だが今日はいつもとは違うらしい。

 「メリークリスマス~、お菓子をくれない悪い子はいねがぁー」

 色々と混ざっているがそういえば今日はクリスマスだった。

 僕はカーテン開け窓の外を見る。

 どうやら雪が降ったらしい。窓の外は白銀の世界に染め上げられていた。

 ここ半年ぐらいこの病室に閉じ込められていたから季節の感覚を忘れていた。

 「おいおい、何見惚れてるんだよ、俺を忘れるな」

 僕が白銀の世界に見惚れていると肩を触られた感触がした。

 「うぁーー」

 僕は肩に置かれた手を払い除けて大きな声を上げる。

 「ご、ごめん」

 そんな僕の態度に悪友は罪悪感を覚えたのか悲しそうに謝る。

 僕は悲しそうな悪友の顔を見て何故か心が締め付けられる。

 もう二度と悲しい顔を見たくなかったのに

 僕の一連の態度によってそこからはお通夜の様に静かになった。

 「じゃあ、帰るから」

 悪友はいつもより大人しくビニール袋を僕に渡す。

 僕は悪友から素直にビニール袋を受け取った。

 そして謝ろうと覚悟を決めた時にはもう居なくなっていた。

 夜の病室はとても静かで冷たく暗く寂しい。

 しかし月の明かりが夜の闇をすこし照らしてくれる。

 僕は寂しさを紛らわす為に窓の外を見ると白い雪が舞っていた。

 雪が悲しそうに舞っているのを見ているとまた寂しい気持ちが湧いてくる。

 なんで僕には謝る勇気がないのだろうか。

 僕は自分が殺したくなるぐらいの自己嫌悪を生み出す。

 しかし考えてもしょうがない。

僕は布団をかけて目を閉じだ、目を閉じるときすこし頬に何かが流れる感覚がしたが、しかしそんなことよりも明日はちゃんと謝ろうと思った。

 

 「早くパン買ってこいよ」

 ふわふわした感覚と共にいつも聞いている声が喉を揺らす。

 …何だ懐かしい。

 「何モタモタしているんだ」

 …思い出した。

 嫌だ、辞めてくれ……辞めてくれ!その先は。

 「君のこと友達と思ったことなんて一度もないから」

 トントン

 「うわぁ!」

 僕は扉の叩く音ともに飛び起きる。

 体中が汗まみれで気持ち悪いしかしそれよりも夢で見た過去の出来事が。

 「気持ち悪い……」

 「何が気持ち悪いんだ」

 キョトンとした態度でいつもの様に悪友が入ってくる。

 僕は入ってくる悪友の顔を見てすぐさま視線を外した。

 僕は先程の夢でまともに悪友の顔が見れなくなっていた。

 「どうしたんだよ」

 しかし悪友はそんな僕の気持ちを知らないで無神経に話しかけてくる。

 悪友の声に僕は蓋をしていた自己嫌悪がまた溢れ出してきた。

 「なあ、どうしたんだよ」

 話しかけるのをやめてくれ。

 「おい、元気が無いな、腹でも減っているのか」

 もう…もう話しかけないでくれ…。

 「何だ、まさか生理か?」

 やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ。

 「もう話しかけるのはやめてくれ!」

 僕の突然の大きな声に病室は静まり返る。

 まるでもう夜が来てしまったかのように静かに冷たく病室は静まり返る。

 悪友は僕の顔を見て申し訳無さそうに。

 「流石に、生理は無神経だったか済まない」

 と謝ってくる僕が越えることが出来ない壁をすんなりと越えてくる。

 「そんなのどうでもいいよ!」

 僕は布団がしわくちゃになるまで握り自己嫌悪と共に今まで心の奥に閉まっていた言葉を取り出した。

 「何故、何故君は毎日見舞いに来るんだ」

 聞きたくない聞きたくない聞きたくない。

 「どうせ、僕の落ちぶれた所を見たかったんだろ君をいじめてたからな、ざまぁ、だと思ってたんだろ」

 自己嫌悪が止まらない、止めなければ最初の頃に戻ってしまう。

 「それに恐ろしくないのかこの僕の姿が」

 僕は巻いてあった包帯を緩める。

 包帯の隙間からには皮膚が剥がれ落ち醜く変形していた。

 それはとても気持ち悪く僕の心を表しているようだった。

 僕は一通り溢れてしまった言葉を悪友に投げかけたあとに包帯を巻き直す。

 顔が見れない。

 僕はただしわくちゃに握られた布団をただ一点に見つめていた。

 「……俺は」

 悪友は少しの沈黙のあとに口を開く。

 だが僕は聞きたくなかった体を丸めて耳を塞いだ。

 ただ怖かった悪友の本当の気持ちを知るのが怖かった。

 僕が恐怖によって震えていると悪友は僕の頭を撫でる。

 そして静かに病室から出ていった。

 僕が顔を上げると頭に優しい感覚が残り涙が頬を伝ってくる。

 誰も居なくなった病室で僕は体を縮こまりながら僕は今日のことを忘れるように眠りについた。

 

 トントン

 「■■元気にしてる?」

 「早く治せよ」

 僕の友達逹もどきの人達がお見前にやって来た。

 みんな表面上ではニコニコ話している、とても気持ち悪い。

 僕は知っている、昨日トイレに行く道中に僕の悪口を言い合っているのを聞いているんだ。

 気持ち悪い。

 一通り対応したあとに友達が帰っていった。

 あいつらは僕と仲良くしたいんじゃなくて僕のお金持ちの親と仲良くしたい連中だ。

 僕は無性に腹が立ってきて布団を頭から被

る。

 昔からあんな奴らしか友達になってくれなかった。

 僕が布団の中で湧き上がる怒りを灯しながら強く思う。

 あいつらは元から僕と仲良くする気持ちがないんだ、だから僕は、…僕は平気だ。

 空虚な思いが心を染めあげるしかしやっぱり。

 「寂しい」

 僕はベットの中でうずくまっていると。

 トントン

 扉を叩く音が聞こえた。

 まだ僕に取り入れようとする奴がいたのか

 僕は上半身を持ち上げ身なりを整える。

 そして一抹の願いを込めて僕は扉の方に目を向けた。

 「よ、よお、元気、ですか?」

 僕は露骨にがっかりする。

 お父様がやっとお見舞い来たと思ったのに僕はため息を吐きながら病室に入ってきた男を見る。

 こいつは誰だったか思い出しそうで思い出せない記憶に霧が掛かっている。

 僕は男を観察してみると右手にビニール袋を携えていた。

 ビニール袋…あ、思い出したパシリだ。

 完全には思い出せないが来たのは恐らくパシリだ。

 僕はため息を吐き出しながらベットに倒れ込む。

 こんな奴は相手しなくてもいい。

 そう思いながらまぶたを閉じようとするとパシリが僕の近くで座ってきた。

 「こ、これを■■」

 パシリはおどおどと怯えながら僕の名前を言う。

 気持ち悪い。

 「言ったはずだ僕の名前を口にするなって、気持ち悪い」

 身震いしながら僕は上半身を持ち上げる。

 パシリは僕の暴言に少し怯えながらビニール袋を渡してくる。

 何なんだこのパシリは。

 僕は怪訝そうな顔を作りながらビニール袋を受け取る。

 中には何かの雑誌が入っていた。

 「なにこれ?」

 僕が手に持っている雑誌を尋ねると。

 パシリは不器用な笑顔で話しかけてきた。

 「お、俺の好きな雑誌で色々な噂話が乗っているんだ」

 パシリは嬉しそうに雑誌を指さしながら僕に不器用な笑顔を向ける。

 「オ、オススメは21ページの都市伝説系で……」

 そこからは趣味の世界の話だった。

 僕のパシリは楽しそうに語る。

 この世のすべての幸せが詰まった宝箱を見せるように。

 今まで僕は沢山の話を聞いてきた。

 しかしこんなに退屈なのは初めてだ。

 「つまらない」

 僕はパシリに聞こえるように耳元でつぶやく。

 僕の言葉に嫌気を指したのか雑誌を閉じた

 いいさ、こんな奴に嫌われたところで実害はないさ。

 しかしパシリは僕の態度に嫌悪感をにじみ出せるどころか、優しく笑いつまらない趣味が詰まった雑誌を渡す。

 「これ、置いとくね」

 上っ面の優しさだどうせこいつも僕の情けない姿を見に来た類だろう。

 パシリが病室から出ていった後に僕は雑誌をゴミ箱に投げ捨てた。

 トントン

 誰かやってきたらしい。

 お父様だったら嬉しいけど。

 病室の扉が開くするとそこにはどこかで見たことがある男が立っていた。

 誰だったか。

 男は片手にビニール袋を持っている。

 あ、パシリか。

 僕は先程まで忘れていたパシリを思い出す。

 朝に会っていないから忘れかけていた。

 「お、おはよう」

 相変わらずおどおどと鬱陶しい。

 僕は布団を被りパシリの存在を無視する。

 いつかパシリも飽きるだろう。

 僕は隣で話しかけるパシリの声と共に眠りに着いた。

 トントン

 「お、おはよう」

 誰だまた誰かがビニール袋を携えて入ってきた。

 確かパシリだったはずだ。

 僕はいつもどおりに対応をしながら明日を待つ。

 トントン

 「お、おはよう」

 またパシリが来たのかこれで何回目だ。

 もう顔を覚えてしまった。

 脳に無駄なメモリーを与えてしまった。

 僕は自分の不甲斐なしに体を震わせながらいつもどおり布団を被る。

 …パシリの話声と共に。

 トントン

 「お、おはよう」

 またやってきたかれこれ二ヶ月はやってきているぞ。

 しかも毎回くだらない話をしてくるから内容も覚えてしまった。

 何なんだこいつは…。

 それに最近パシリの顔が明るくなってきている。

 とても不愉快だ…それに…。

 あああ、もうこれ以上パシリのために脳を使いたくない。

 寝よう。

 トントン

 またやってきたらしい。

 もうパシリの顔も慣れてしまったよ。

 最初は嫌悪感で震えていたのに今ではその嫌悪感も無くなった。

 「お、おはよう」

 そしていつもどおりの笑顔……もう何もかもどうでも良くなった。

 「君は何回来たら気が済むんだ」

 呆れた声で僕はパシリに話しかけた…話かけた!。

 僕は咄嗟に口を塞ぐ。

 話しかけてしまったあのパシリに話しかけてしまった。

 恐る恐るパシリの顔を見る。

 とても嬉しそうに、そうまるで自分の好きなことを語るときのような笑顔を作っていた。

 そんなに話しかけられたことが嬉しいのか。

 …変なやつだな。

 トントン

 パシリがやってきたいつもどおりのぎこちない……いや最初よりはマシな笑顔で入ってくる。

 「お、おはよう」

 いつもどおりのパシリの挨拶だが。

 僕は序盤からパシリにある疑問を持っていた。

 しかし当初の僕はパシリに話しかけるのを不愉快だと思っていた。

 だがここまで来ているんだ。

 「おはようと毎回言っているが君が来ている時は大体いつも夕方だろ」

 僕の疑問にパシリは今までと違う笑顔になる。

 しかし嫌悪感は無い。

 パシリは口元を抑えながら僕の近くに座り。

 「苦節十年やっとツッコんでんでくれた」

 と額を叩きながらとてもムカつく顔で笑う。

 「いや、十年も立っていないだろう」

 その言葉に僕はまたしてもツッコんでしまった。

 このままだと僕の品性が疑われてしまう。

 …だが何だか……いやこの僕がパシリの存在で安心するわけない。

 僕が腕を組み納得する。

 「アハハハハ」

 しかし悪い顔で笑うなこのパシリは…。

 膝を叩いて笑うパシリにムカつくはするがだが嫌悪感はない。

 パシリの汚名は返上してやるか。

 僕は笑うパシリ……いやどうしよう名前で呼ぶのも気が引けるし友達とは何かが違う気がする。

 「アヒャヒャヒャヒャ」

 僕の隣にいる男は先程よりも歪んだ笑い声を上げている悪い顔で笑うな。

 僕は不気味な笑い声を聞きながら今まで出てきな単語を思い浮かべる。

 …悪い…友達…悪…悪友…。

 悪友!、これだとそんなに仲がいい呼び名ではないだろう。

 「アハハハハ」

 しかし本当によく笑うまあ、さっきよりはいい顔で笑うな。

 僕は嬉しそうにする悪友を眺めながら少し笑顔を作った。

 

 「ん……ふぁあ」

 暖かくて懐かしい夢を見ていた気分だ。

 窓から照らされる光を浴びながら僕はベットから上半身を起こす。

 「あ、すみません起こしてしまいましたか」

 すると隣からいつも聞き慣れている看護師の声が聞こえた。

 看護師は申し訳無さそうにしながら点滴を変えている。

 「おはようございます」

 僕はまぶたをパチパチさせながら看護師に挨拶する。

 看護師は僕の挨拶をすると優しい笑顔を向けながら。

 「やっぱり変わりましたね」

 と話しかけてきた。

 まあ、確かに最初の時は病気のせいで余裕がないくて看護師には全然話しかけれなかったけど。

 看護師は僕の顔を見て何を思ったのか耳元で

 「やっぱりあの彼氏くんが来てから段々と柔らかくなりましたよね」

 と耳元で囁く。

 はぁん、誰が彼氏だってこの看護師は勘違いしている。

 あんな悪友は彼氏なんかじゃない。

 「な、な、な、何を言っているだ、…あんな奴は僕の…か、か、彼氏…なんかじゃ…ないし…」

 何だが言葉が突っかかるやっぱり朝だとうまく喋れないな。

 そんな様子に看護師は何を思ったのか僕のほっぺを突きながら。

 「顔、真っ赤ですよ」

 と意地悪な顔で笑う。

 顔が赤いだと…熱でも出たのかな。

 しかしこの看護師がいると調子が狂う。

 僕はプイッと景色を眺めるために窓に顔を向ける。

 僕が景色を眺めていると看護師は少しの笑い声と共に病室から出ていった。

 全くとんだ不快な勘違いを受けたよ。

 「やっぱりあの彼氏くんが来てから段々と柔らかくなりましたよね」

 ナースの言葉が脳内に反芻する。

 悪友は僕の彼氏なんかじゃない…。

 そう言い聞かせながら頭の中に残る言葉を振り払り冷静さを取り戻す。

 そして窓の外を見つめると桜が舞っていた。

 「そういえばもう、春だったなつい先程まで冬だったのに時間の流れは早いな」

 僕は桜に黄昏れていると。

 「おはよう」

 と、いつもとは違うしわくちゃの声が耳に入ってきた。

 僕は扉方向に顔を向けると皮膚が垂れ下がり所々に黒い斑点を持つ医者が立っていた。

 「最近明るくなったね、やっぱりあの例の彼氏のおかげかな」

 だから彼氏じゃないって!、しかし訂正するのももう疲れた。

 医者は少し曲がった腰を擦りながら僕の近くにやって来る。

 そして一通り診察をして一旦呼吸を置く。

 この時間は僕は嫌いだまるでテスト返却の様な緊張感で心臓に悪い。

 僕はドキマギと結果報告を待っていると医者は笑顔になりながら。

 「よく頑張ったね、後は二、三週間入院したら退院だよ」

 ……退院、突然のことで思考が追いつかない、前の話では後一年ぐらい入院すると聞いていたから尚更驚いた。

 僕は出て行く医者の後ろ姿を呆然と眺めながら自分の体を見る。

 「…やっと退院出来るんだ」

 寂しいようで嬉しい今日はこんなに良い日になるなって思ってもなかった。

 僕はガラス越しの桜を見る僕の気持ちは桜のように晴れやかだった。

 ……何だか落ち着かないし、それに悪友が来ない。

 ムカつく。

 僕はムカムカする感情を落ち着かせるために久しぶりにベットから立ち上がる。

 おぼつかない足を一生懸命動かし病室を出ていく。

 「ハァハァ、久しぶりに歩くから疲れるな」

 僕は疲弊し壁に体を預けながら病院内を移動する。

 「もうすぐ退院だから体力つけないと」

 頬から流れる汗を拭き取りながら歩いていると。

 目の前から慌ただしく医者たちが担架を運んでいる。

 何だ急患か?

 邪魔にならないように僕は端に避けながら通り過ぎるのを待つ。

 そして慌ただしくする医者たちの顔といつも見ている、見たことない頭から血を流している悪友が運ばれていた。

 「え……?」

 何だ見間違いか…いいや、あれは悪友だった見間違うはずがない。

 でも何で担架に運ばれているんだ。

 それに頭から血が流れていて。

 ヘナヘナと床に倒れ込み考えを巡らす。

 あれは悪友……いいや違うでもあの顔は……でもでも、そうだこれは夢だ。

 僕はリアル感がある夢だと思いながらほっぺをちにくる。

 「痛い……」

 認めたくない、認めたくない、認めたくない。

 僕は腰が抜けた体を持ち上げながら悪友が運ばれた方向に歩きだす。

 ……さっきまで窓の外は桜が舞っていたしかし今では風に飛ばされ寂しい景色に成り果ていた。

 僕は窓の外を眺めながら考える。

 看護師の人から聞いた話だと、どうやら悪友は居眠り運転の車に轢かれたらしい。

 ……悪友が轢かれた時、彼はビニール袋を持っていたらしい。

 「何で……何でだ…」

 晴れやかな気持ちは天気の様に気まぐれだ。

 太陽が輝く晴天から曇天が立ち込む雨に変わった。

 ……悪友は轢かれたあとに集中治療室で治療を向けて何とか一命を取り留めた。

 しかし意識が戻らないらしい。

 僕は暗い病室からゆっくりと出るそして鉛がついている足を持ち上げながら。

 悪友の病室に向かっていく。

 病室前は暗くおどろおどろしい。

 壁には悪友の名前が入ったプラカードがある。

 本当にここに居るんだな。

 僕は鉄の様な扉を開ける。

 重く重く辛い扉を開ける。

 扉を開けた先には薄暗い病室に眠るように横たわっている悪友が居た。

 ……夢だと良かったしかしこの目で確認してしまった。

 本当に悪友は……。

 僕は悪友の側に近づく何もかもが正反対しかし一つだけ違うところがある。

 話しかけても悪友には僕の言葉が伝わらないことだ。

 悪友は眠る、本当に眠っていればいいのに眠っているだけなら明日には、必ず起きるのに。

 僕は悪友の頬を撫でながら病室から逃げるように飛び出す。

 そして気晴らしの為に病院の屋上にやって来た。

 ポツポツとコンクリートの地面にシミが浮き上がる。

 体が少しずつ濡れていくだけどそれよりも僕の顔には大量の雨粒が溢れ出していた。

 「うぁあああん、うぁあああん」

 雨よもっと降ってくれ、もと、もと僕の涙が隠れるぐらい。

 曇天渦巻く雨雲は涙を浮き出すようにポツポツと小さく降った。

 その後、僕は退院した。

 家に久しぶりに帰ったしかし僕の心にはポッカリと穴が空いていた。

 久しぶりの親との再開に学校の登校。

 みんな心配した、良かったとワンパターンの様に労いの言葉を投げかける。

 僕は表面上では笑ったが、だけど心の底では黒い感情が渦巻いていた。

 僕はビニール袋を片手に病院に向かう。

 心配だ、大丈夫かな。

 不安の気持ちが溢れてきてとても辛い。

 重い足取りで病院前に着く。

 重い気分を紛らわせるために僕は空を見上げる。

 心の色とは真逆の晴天何だが憎らしいと感じる。

 大きく閉ざされた扉の前にやって来た。

 扉の奥からは禍々しい雰囲気が漂っている

 ……そう感じるだけだが。

 僕は重い気持ちと共に悪友が眠る部屋に入った。

 ……まるで眠り姫の様に眠っている普通なら配役が逆だろう。

 悪友は静かに眠っている。

 とても静かだいつもは騒がしいはずなのにとても静かだ。

 僕は悪友の隣に座り雑誌を取り出した。

 何の返事もない…まあ、当たり前か。

 僕は悪友の手を握る。

 少し暖かい…まだ生きている事が分かる

 涙が溢れそうになるが堪えて病室を後にした。

 次の日も僕は悪友の病室に入った。

 すると、どうやら先客がいたらしい、母親と思われる女性が居た。

 女性は白い絹のように美しかった。

 僕は礼儀正しく挨拶をしたあとに病室から出ようとする。

 今はとても合わせる気持ちがない。

 扉に手をかけようとした瞬間、女性の優しい声が響いた。

「ちょっと、まって」

 女性はゆったりと立ち上がり僕の近くにやって来た。

 僕はドギマギしながら心臓が激しく鼓動する。

 「貴方があの子の言っていた友達ね」

 そんな緊張感をほぐすように女性は優しく微笑みかけた。

 …ああ、やっぱり親子なんだな。

 涙が溢れそうになるが人前で弱みを見せてはいけない、その教えが僕の涙を引っ込める。

 「よく貴方の話を聞いていたの、初めての友達が出来たって凄く喜んでいたわ、これからも友達で居てあげてね」

 女性は僕の手をそっと握り僕を見つめる。

 僕は彼をいじめていたんだ本当は友達なんかじゃ無いんだ。

 「………」

 女性は優しく微笑む、そして僕の瞳から一粒の水滴を拭い去ったあとに病室から出ていった。

 そして病室には汚いシミが残る。

 何が絶世の美女だ、何が一番美しいだ。

 僕は取り残された病室を汚さないように飛び出した。

 とてもブサイクで醜い僕をこれ以上悪友に見せたくなかった。

 次の日僕は病室には行かなかった。

 僕は悪友と本当の友達なのか不安になったからだ。

 彼にはこんな僕より優しくきれいな友達を見つけたほうがいいと思った。

 しかし誰かと楽しそうに笑う彼に嫉妬して自分が醜いと自己嫌悪した。

 次の日は雨だった。

 小雨でポツポツとアスファルトにシミを作る。

 雨雲は太陽を隠し地表を薄暗くする

 心にカビが生えそうだ。

 僕はジンジンする頭と共に下にスマホを開く。

 とてもつまらない毎日がとてもつまらない。

 こんなにつまらなかったのはいつぶりだろう。

 いつもは悪友がいてくれたから……いや悪友がいてくれたとかそんな訳…わけ。

 虚しくなる自分の見栄っ張りがこんなにもうざいとは思わなかった。

 素直に楽しかったと伝えたかった。

 ありがとうって伝えたかった。

 スマホの液晶にポツポツと涙が落ちる。

 「伝えたかったな、ありがとうって」

 もう後悔しても遅いことだ、本当に嫌いになる自分のことが嫌いに、本当に世界で一番嫌いになる。

 液晶の画面の水滴を拭き取っ取ろうとすると電話が書かれたアプリを誤ってタップした。

 するとそこには沢山の同じ番号からの留守電があった。

 「何だこれは」

 僕は画面をスクロールして一番古い留守電までスクロールする。

 一番古い留守電までたどり着いた。

 僕は少し気になりその留守電を聞くことにした。

 僕は留守電を押しスマホを耳元まで持ってくる。

 すると、

 「あーあー、聞こえてるかな、まあいいや、これを聞いている頃にはお前は俺のことを気持ち悪がって悪口を言っているかもしれないが、俺だ」

 懐かしく寂しい声が聞こえた。

 この声は悪友の声だ、久しく聞いていなかったので少し戸惑ったがこの声は悪友の声だ。

 「俺はこれから毎日留守電からお前を励ます、これはドッキリだ喜べ、多分お前は俺の留守電には気づかないだろ、何故なら病院ではスマホの電源を切らなきゃいけないからな、だがらこれを見つけたときにはお前は退院して俺と楽しく登校しているだろう」

 憶測が馬鹿みたいだ、僕と悪友が登校……それもいいかもな。

 「それか途中でバレてボコボコに言われているかもしれないが、まあ時の運だ、バレるまでやる」

 なんの決意しているんだ。

 「まずは記念の最初の励ましの言葉を言おう、俺は毎日できる限り見舞いにやって来る、だから安心しろ」

 何が安心しろだ、君の存在が僕の心を支えてると思っているのか……実際には支えているが。

 「俺はお前に何をとやかく言われようが俺はお前の親友だ」

 そこで留守電は切れた。

 あのバカはこんなくだらないことを毎日やってたのか、本当に馬鹿だな。

 僕は少し笑い次の留守電を聞いた。

 「これで二日目の留守電だ心してよく聞け……」

 留守電の一つ一つには毎回違う励ましの言葉が入っていた。

 くだらないボケも入っていたがだけどとても嬉しかった。

 外の小雨は晴れてくる、太陽は顔を出してアスファルトを照らす。

 僕は一日中留守電を聞いて気づいたことがあった。

 悪友は僕のことを本当に友達だと思ってくれていること、そして僕は悪友とは親友になりたくないことだった。

 留守電を聞いた次の日、僕は病室にやって来た

 まだ心が重いが最初の時よりはマシだ。

 僕はビニール袋を片手に元気よく眠り姫が眠っている部屋に「おはよう」と挨拶した。

 来る日も来る日も悪友が僕にやって来たことを返すように毎日ビニール袋を片手に見舞いにやって来た。

 桜が舞、新しい風が吹いてくる。

 花びらが悪友の鼻に乗っかる。

 「ぷぷぷ、何でいつもこんな奇跡が」

 今日は卒業式だ、悪友の留守電には卒業式一緒に写真を取ろうなと残っていた。

 「結局今日まで全然起きなかったな」

 始まりはいつも不安で恐怖するしかし始まりには終わりが必ずやって来くる。

 終わりは寂しいが嬉しい時もある。

 「君も早く卒業してくれないかな」

 僕は寂しく呟き悪友の手をいつもどおり握った。

 「何だが暖かい感覚、何だろう」

 「…え」

 病室内に突如として僕以外の声が響いた。

 誰もこの病室内には入っていない。

 僕以外、声が聞こえないはずなんだ。 

 一人を除いては、

 「何だ、めっちゃ頭が痛いし体が怠い」

 僕の手に握られる感覚がする。

 「ん、何だ……」

 「う、うわぁーーー」

 僕は恥ずかしくなり手を素早く離す。

 「わぁ、何だ何だ…ゴホゴホ」

 悪友は僕の叫び声に驚き咳き込む。

 「ど、どうしたんですか」

 すると僕の叫び声につられて看護師も入ってきた。

 そこからはてんやわんやで怒涛に時間が流れた。

 嬉しい感情と驚いた感情などが複雑にブレンドされて何を思っていいのか、何を言っていいのか、わからなくなった。

 僕は桜の下のベンチに座る。

 桜の花びらはさっきまで沢山舞っていたのに今は一枚も舞っていない。

 「よ、よお」

 呆然と座っていたらコツコツと杖の音を響かせながら僕に手を降った。

 悪友は僕の隣に座る。

 「………」

 まあ、ほぼ一年くらい喋っていないから気まずいのはわかる、だけど喋ろよ、と悪友を見つめる。

 桜の花びらが頭に沢山乗っかていた。

 「ぷ、ワハハハハハハハ」

 僕はこらえきれずに笑う。

 僕の笑い声に惹かれて悪友も一緒に。

 「アハハハハハ」

 と笑った。懐かし笑い声だ。

 「アハハハハハ、はぁ、腹が痛い、久しぶりに笑ったから痛い痛い」

 悪友は腹を抱えながらニッコリと僕に笑いかけた。

 「いやー、聞いたよ、一年も俺の見舞いに来てくれたんだってな、ありがとう」

 先に言われた。僕は少しムカつき悪友の足を蹴る。

 「痛い、痛い、何だよ」

 「何かムカついたから」

 昔とは少し違うやり取りだが懐かしく、嬉しかった。

 「ふぅ~、痛かった。」

 悪友は足をさすったあとに何か真剣に考えたあと。

  「……本当にありがとな」

 悪友の顔から笑みが無くなり真剣な顔持ちで僕の顔を見つめる。

 「……俺はお前のおかげで救われた」

 悪友は僕に深々とお礼を言う。

 「大げさだ」

 僕は少し戸惑っていると悪友はゆっくりと口を開ける。

 「……底なし沼に使っている気分だった」

 悪友の姿が僕の瞳で反射する。

 「ゆっくりとジワジワと感覚が無くなっていくんだ、ただ呆然にその感覚だけしか感じられなかった。俺は、この感覚は死ぬ感覚だと悟ったんだ」

 季節外れの冷たい風が吹く。

 悪友と僕の髪を揺らしながら通過していく。

 「でも右手に俺を引っ張る感覚が現れて誰かに呼ばれているように感じた、それが毎日だ」

 悪友は右手を開いたり閉じたりしながら少し笑いながら。

 「看護師の話を聞いて納得いったよ。ありがとな」

 心臓が鼓動する頬に熱が籠もる、初めてだった、初めてあったときの優しい笑顔が向けられていたんだ。

 「ワハハハハ、湿っぽい話になっちゃたな、けど流石は俺の親友だ、毎日来てくれるなんて」

 心臓の鼓動を感じながら僕は立ち上がり悪友に背を向ける。

 そして温かい風が吹くと同時に、

 「僕は君と親友にはなりたくない」

 風が僕の髪を揺らす、悪友の顔は見たくない。

 悪友は申し訳無さそうな唸り声を出しながら。

 「……そ、そうか、ごめ、」

 と謝ろうとした。だが誤ってほしくない。

 「君とは親友にはなりたく無い」

 親友の言葉を遮りながら涙目で後ろを向く。

 「僕は君のことが好きだ。大好きだ。僕は君と恋人になりたいんだ」

 桜が吹き荒れる花びらが風を彩る。

 僕は涙目をこすり涙を拭く、僕の目の前には桜色の悪友、いや。

 「壮亮、君には酷いことをした。君を沢山傷つけた。僕は最初は君のことが大嫌いだった。こんな僕でも…付き合ってくれますか」

 壮亮は戸惑っているそりゃそうだ、親友だと思っていたんだから当たり前だ。

 告白の成功率は極めて低い。

 でも、言わずにはいられなかった。

 もしここで言わなかったら後悔すると思ったから、悔いはない。

 「……いいぞ」

 「…え」

 僕は呆けた声を出す、だって成功するとは思わなかったから壮亮が僕のことを好きだと思わなかったから。

 「…いいの」

 自分で告白しておいて恥ずかしい壮亮の顔がよく見えない。

 僕が下を向いていると顔が突然上に上がる

 「恥ずかしがるな、俺も恥ずかしくなるだろう」

 上を見上げるとそこには今まで見たこともない壮亮の顔があった。

 桜が舞って僕らを包む。

 吹き荒れた桜は僕らを祝福しているように舞う。

 今なら、今なら絶対に言える。

 僕は、笑顔で、

「ありがとう壮亮」

 壮亮に感謝を伝えると、少し驚いた顔を作った後に照れくさそうに

 「どういたしまして陽毬」 

 と、お互いに向き合って笑いあった。

 








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僕は君と親友になりたくない 赤青黄 @kakikuke098

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