第4話
翌日、息を整えることなく、ガラッと大きな音を立て教室に入る。
教室の後ろで固まっている彼女らを一瞥して自分の席に着く。
ゆっくりと一限の用意をした後、廊下側の一番後ろの席に向かう。
「おはよ。」
メカが胡乱な目をしながらこちらを見上げる。
そりゃ昨日はきまづい空気のまま別れたからそうなるか。
メカの態度も背中に刺さる彼女らの視線も何一つ気にしないまま私は喋り続けた。
「昨日は悪口言ってごめん。さすがに死ねとは思ってないから、だから死なないでよ。」
「いや、そんなので死なないけど。」
「後、昨日いっつもヘラヘラ笑うの馬鹿にしてたけどさ、ガガーリンって知ってる?人類初の宇宙飛行士の。」
「もちろん。」
「ガガーリンには自分より優秀なゲルマンっていうライバルがいたんだって。それで初の宇宙飛行士にはガガーリンより3キロ軽いゲルマンの方がいいってみんな言ったんだけど、博士だけは『だったら荷物を下ろせ、ガガーリンは笑顔がいい。あいつが初の宇宙飛行士だ』って言って彼を選んだんだって。だからあんたも宇宙飛行士になりたいんならたまには笑ったほうがいいよ。」
「え、何それ昨日わざわざそんなこと調べてきたの?」
「だって昨日ヘラヘラ笑うの馬鹿にされたのがうざかったんだもん。」
「暇な人だね。」
そういって多少嘲るような感じがしたけれども、それでも、芽衣加は笑った。
それからというもの、私は自分の嫌いな人に媚びる時間を自分の好きな人に媚びる時間に変えることにした。
数年前から身に着いた金魚の糞根性のおかげか人に媚びるっていうスタンスに変わりはない。
ただ媚びる人が彼女らから芽衣加になったというだけだ。
あれだけ芽衣加のことを嫌っていた癖に芽衣加の横にいるとすごく息がしやすいということに気付いてしまった。
芽衣加に笑えと言っておきながら、私の笑う時間は前より少なくなった。
一日中ニコニコすることはやめたからだ。
その分、心から笑うことが増えた。
中学の時の体操服が一張羅だと聞いた時には腹を抱えて笑った。
彼女らとはあれから一度も口を聞いていない。
芽衣加も時々私の話を聞いて笑うようになった。
今まで自分は聞き上手な方かと思ったが、話すのが好きだということにも気づいた。
というよりかは私の話で芽衣加が笑うのを見るのが好きになった。
芽衣加は笑うときだけ、そのメカみたいな不愛想な面が崩れる。
芽衣加は化粧っけもないし、前髪も重くて正直顔はかわいくない。
加えてだいたい棘のある言葉を吐いてくるから性格もかわいくない。
だけど、笑っている時だけは、かわいいと思う。
本人には言わないけれど。
メカ幼馴染 @okachann
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