第5話 別居
仕事でこれまでメンタルを保ってきた拓実にとってこのビジネスの失敗はとても大きなショックであった。借金返済の目処もつかず、拓実は家族に迷惑をかけたくない気持と何もかも捨てて自由になりたい気持の中で夢中で仕事を探していた。その内にヘッドハンティングの会社から「東証で上場しているパチンコ・スロットの機械メーカーの創業者が業界のレベルを上げるために業界外からの人財を探している。役員のポジションで役員報酬はとても高いが興味はないか?」との話があった。拓実は大学時代ににパチンコに夢中になりすぎて苦しい借金生活をしたことがあり、業界のイメージも好きではなかったが、とても高額なオファーでこれだけあればすぐに借金が返せると思い、借金を返すためにマグロ船に乗る男の気持で入社した。業界の空気は想像通りで、社内も統制が厳しく自由がまったくないので「あまり長居をする場ではないな」と思ったが、借金の返済が済むまではここで頑張るしかないと自分に言い聞かせた。他方、家庭では今までの冷たい夫婦関係に仕事のストレスが加わり、更に関係は悪化した。孤軍奮闘で借金の返済の目処がついた時に拓実は里奈に「持っていた貯金も全て失ってしまった。借金もまだ残っており、自分の気持としてもこれ以上一緒に居たくないので離婚して欲しい。」と告げたところ、里奈はあっさりと離婚を承諾してくれた。余りの躊躇の無さに拓実は「金の切れ目が縁の切れ目か」と自虐的に思ったがそのまま離婚届を受け取った。それから3日経過した後に離婚届を役所に提出しようとしたところ、里奈から「やったり離婚を取りやめたいから、離婚届を返して欲しい。」という要求があった。拓実は「もう離婚は同意したのだから返さない」と拒否ををしたが、里奈は「もし、私の同意がないまま離婚届を提出したら、家庭裁判所に協議離婚無効確認調停を申し立てするから」と言ってきた。里奈に「どうして気持が変わったのか?」と確認したところ「友達に相談したら、今、離婚したら損だと言われたから」とのことだった。拓実は人任せの里奈の離婚拒否理由にあきれると共に、法律に弱い里奈が「協議離婚無効確認調停」などという言葉を使ったのも恐らくその友人とやらの入れ知恵なのだろうと悟った。この議論が長引いている内に借金の返済も終了して、遊技機メーカーの会社を退職して経営コンサルタントの会社を設立した。経営コンサルタントの仕事が少しづつ軌道に乗ってきた時に拓実はこのまま里奈とストレスが溜まる生活を続けているよりも、別居生活を開始して「法定離婚事由の5年以上の別居生活」に持ち込んだほうが良いことを知った。拓実は他の女性と結婚をしたいわけではないし、二度と結婚という「契約」には全く興味がなくなっていたので、里奈に「一度別居をしてみないか?そこでお互いが必要に感じたらまた戻れば良いし、そうでないことがわかれば離婚すれば良いと思う。」と提案した。拓実は家事を全くしない昭和の夫であった為に、里奈は「掃除も洗濯も料理もできない拓実が一人暮らしをしたら、すぐに謝罪して戻ってくることになると思うけどお互いを知るために別居をしてみましょう。」と同意をした。
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