第3話 子育て
子供達は小学校に入学するまでは順調に育っていたが、小学校に入る頃から拓実と里奈の間で教育方針の違いで大きな隔たりが起きてきた。海外で20代を過ごした拓実は米国の「親の考えを押し付けないで、子供達に考えさせる教育」に大きな共感を持っており、厳しい母親で育った里奈は自分が子供の時に経験したように「お母さんの言う通りにしていたら間違いない」と親のやり方を押し付ける教育をしていた。その為に拓実と里奈の間には夫婦喧嘩が絶えなくなった。拓実はどうにか自分が経験したアメリカの素晴らしさを家族全員に感じてもらいたいと思い、米国研修を小学生の子供達の夏休みに合わせてもらい、シアトルとロスアンゼルスで一ヶ月滞在して家族皆でアメリカ生活を経験して色々なことを話し合った。米国でのとても楽しい経験をしてポジティブなイメージを持ち日本に帰国したが、帰国したら里奈の教育方針はまた元に戻っていった。拓実はあきらめずに米国生まれで米国市民権を持つ良太に「この子は米国の大統領でさえなれる可能性がある。」と過大な期待を膨らませ、小学生の時から拓実自ら英語を教えて英語が得意な子供に育てようとしたが、中学生になった良太は英語の授業が余りにも簡単すぎて馬鹿にしていたところ、中学1年生の後半には既に英語が苦手な子供になってしまっていた。その後、中学生になった子供達が「携帯電話が欲しい」と言い出した。里奈からも「子供達に携帯を買ってあげて欲しい」と言われたが、拓実は無条件に高価なものを買い与えることに反対し、子供達に努力をさせて、設定した目標をクリアしたらその対価として携帯を購入してあげることを里奈と子供達に約束した。長男で真面目な良太は携帯欲しさに努力をして目標をクリアした。楽観的で我慢や努力が嫌いな晋介はほとんど勉強することはなく目標をクリアできなかった。晋介には次回に頑張れば携帯を購入してあげることを約束し、晋介はそれを理解していた。拓実は約束通り、良太にだけ携帯を購入したが、しばらくすると晋介も携帯を持っていることに気付き、「その携帯はどうしたんだ!」と問い詰めたところ、晋介は無言だったが。里奈が「兄弟で一人だけ携帯を買ってあげるのは可哀想だったので、晋介にも買ってあげた。私の個人のお金から買ったので問題ないでしょう。」と言った。これまで子供の教育方針でストレスが溜まっていた拓実と里奈は今までの鬱憤を爆発させて大きな夫婦喧嘩になった。拓実は仕事で家にいる時間が少なく、甘い母親の影響をどんどん受けてきた育った子供達の行末は、良太は聞いたこともない三流大学に入学し、ぬるま湯のような大学生活を送り、晋介は地元の県立高校にギリギリ入学できたものの、夜中にネットゲームばかりをしていて、授業中にずっと居眠りをしていたところ、生活指導の先生に「他の生徒に悪い影響を与えるので、退学してくれないか」と言われ、喜んで退学をして中卒になってしまった。高校退学後の晋介は近所の本屋でマンガ本を万引するようになり、消費者金融に借金をしてパチンコに明け暮れ借金も150万円まで膨らんだところで返済ができずブラックリストに載ってしまった。「どうして自分の子供達がこんなできの悪い子供になってしまったのだろう。」と拓実は落胆し、今まで家族とのより良い生活を送るために一生懸命仕事をしてきたことは何だったのだろうと虚無感で一杯になりながらも、「里奈や子供達ばかり悪いのではない、自分がもっと子供達に寄り添うことができたはずだ。里奈とも諦めずにもっと話し合うことができたはずだ」と自分のことを責めるようになっていき、家族への期待がなくなっていった。
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