第2話 転職
ロスアンゼルスで長男の良太が生まれた一年後には次男の晋介が吉祥寺で誕生した。二人の男の子は天使のようにかわいく、里奈も二人の子供達をとても愛し、この幸せは一生続くものだと何の疑いもなく感じていた。吉祥寺は家族にとって生活がしやすく、4人で井の頭公園をよく散歩をし、公園の奥にある動物園に度々訪れた。子供たちは戦後初めて日本にやってきた象の「はなこ」が大のお気に入りで、晋介が小学生の時には「象のエルマー」という題で絵を書いて学校から入選の表彰をされたりもして、拓実は「この子はアートの才能があるかもしれない。将来は美大か芸大に行かせてみてもよいかもしれない。」などと妄想したものだった。そんな時に拓実に知り合いのヘッドハンティングの会社から連絡があり、「シアトルに本拠があるコーヒーチェーンが日本に進出を考えており、店舗開発部の本部長を探してます。英語が話せて日本の不動産を熟知している方が日本ではとても希少なのですが拓実さんはご興味はありますか?」とのことだった。拓実は子供たちにもっと質の高い教育を受けさせてあげたい。子供達が希望するなら海外留学もさせてあげたい。「子供が何かに挑戦をしたい時にお金がないから経験させてあげられない。」という環境だけは作りたくなかった。拓実は初めての転職のリスクとリターンをよく考えて「リスクは当然あるがチャンスでもある。やらないで後悔するならやって後悔した方が自分の人生において納得がいく。」という考えに落ち着き、勇気を出してチャレンジをする決意をした。外資系企業だったために将来の保障は日本企業よりは期待できないが、給料は大幅に上昇をした。他方、予想をしていたことではあるが本部長とは名ばかりで不動産業務をするスタッフは拓実しかおらず、狭い部屋にいろいろな部門の4人が押し込められた。拓実が不動産屋に「どんどん店を出すので良い案件は全て持ってきて欲しい。」と大声で叫んでいる隣で、営繕担当の男性が配管を金槌でトンカン叩いて直しており、広報担当の女性はうるさい二人から避けるように机の下に潜り込み、小さな声で「ブランドを大切にしながらゆっくりと成長していきます。」とメディアに話をしているような地獄絵図のような状態であった。幸運なことにこの事業は順調に成長していき、150店舗まで増えた時に米国の創業者から成果を出した拓実に対し「会社の一番の中心である店舗運営本部長になって日本中のお店のリーダーになってみないか?」というオファーを受けた。会社では当初から導入を検討していたストックオプション制度がいよいよ現実になりつつあるタイミングで拓実がこの役職を受けることは、代表者に次ぐストックオプションの権利が付与されることを意味する。拓実は経験のない店舗運営の仕事に少し躊躇したものの、前回と同じように「やらないで後悔するならやって後悔した方が自分の人生において納得がいく。」ことを信じ、流れに任せこのオファーを受けることにした。
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