第5話 結論
「はぁはぁ……ドキドキした……」
未だ大きく拍動する心臓を一度大きく深呼吸して落ち着かせる。
脇と手は汗びっしょりだ。俺が陰キャで女子と話すことを慣れていないからそうなったって? いやいや。流石にそれはない。うん。一割くらいしかね。
それにしても藤本さんがまさかの藤本イートの社長令嬢だった。なんか豪邸に住んでるとかそんな噂を聞いた覚えもあるけどあながち間違ってなかったのか?
いや今考えるべきはそこではない。優待だか、お嫁さんだかその訳わからないことを考えるべきなのだ。
「よく考えろ。藤本イートの優待は会社のお菓子詰だったはず。と言うことはやっぱり藤本さんが優待な訳ない」
人間が送られてくると言うことはまずないことだが、ちょっと非日常な出来事のせいで忘れかけてた。
服を着て頭が冷えると物事を落ち着いて考えることができるようになる。やはりパニックになった時こそこうして落ち着くことが大切だ。
そしてしばらく考えると一つの結論に至る。結局それはさっきと同じような意見であった。つまり……
「二、三日茶番に付き合ったら飽きて帰るだろ」
と、いうか一日ももたないのでは? だって母さんたちがいるとはいえ、同級生の男の家に泊まるなんて。
そう思うとなんかちょっと気が楽になって来た。でも、あと数時間したらこの夢の時間も終わりなのか。あんまり女の子と話すことなかったから少し寂しいと感じてしまう。
ピンポーン
いろいろな感情が芽生えていたところで不意にチャイムの鳴った音が聞こえる。母さんが料理で忙しく対応できないとのことなので俺が出ることに。
流石にまた藤本さんみたいな人間だったり私物だったりを送ってくることはないだろう。念のためにモニターで確認してみる。そこに写っていたのは安心安全の黒いネコヤマト。
「黒いネコヤマトです! 杠葉さんのお宅でお間違いないですか?」
「はい。間違いないです」
「ありがとうございます。ではこちらお届け物です。こちらにサインお願いします」
ボールペンを受け取ってサインをすると配達員さんはまた別の人の元へと荷物を運んで行くのであった。
「これ誰宛なんだって俺宛じゃないか。送り主はえーと送り主は藤本イート!?」
ちょっと待てちょっと待て。え? 藤本イート? なんでまた送り物が届くんだ?
なるほど。これが本来届くはずだった優待の商品だな。そう考えて開封するとそこにあったのは全くの別物だった。
入っていたのはなぜか漫画本数冊と「良いところ」と書かれた二枚の紙。ますます意味が分からない。
「えっ? 次は何? もしかしていたずら?」
某検索エンジンのワードが浮かんで来る。俺が長年応援している藤本イートに何があった? 呆然と立っていると後ろから可愛らしい声が聞こえてきた。
「あ、やっと届いたんだ。ふふーん。それは私が用意した優待だよ!」
振り返ると得意げに俺が手に持つ物に対して説明する藤本さんがいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます