第4話 杠葉はエッチ?
「それでいろいろあって君が会社の株持ってること知って。私、杠葉くんにはすっごく感謝してることがあるから恩返しに来たの。それをお茶目に優待って言ったの」
「俺、何かしたっけ? 今日まで藤本さんとまともに会話したことすら無いはずだけど」
藤本さんとは高校から一緒になった人だ。別に藤本さんとビッグイベントがあった記憶はない。つまり感謝されるようなことはしていないのだ。
俺の答えに対して藤本さんは少し寂しそうに、でもすぐに笑顔に戻って言った。
「これは私だけが知っていればいいから、杠葉くんには内緒。ごめんね。とにかく杠葉くんは気にせず私を迎えて欲しいな」
「そ、そっか。まだよく分からないこと多いけど今はこれ以上言わないことにしておく。一旦一人にしてもらって良い? 制服から着替えたいしね」
「はーい。なら旦那さんの着替えは私がお手伝いかな?」
「そ、そんなことしなくていいから! それに旦那さんじゃないからね」
「むぅっ!」
藤本さんのありがたいようなありがたくない申し出を断る。とにかく一度出て行ってもらって心を落ち着かせよう。
クローゼットから適当に服を選ぶ。今日は気温も高いけれど、それ以上に藤本さんとのやり取りで身体が火照ってしまったので薄手のTシャツと半ズボンにする。
そして制服のシャツのボタンを三つほど外したところで……
「藤本さん。着替えたいから少しの間、外に出ていて貰ってもいい?」
全裸になるわけではないけれど、女性の前でズボンを履き替えるような精神力を俺は持ち合わせていない。
これまで散々に非日常の出来事が起きてきたので一度落ち着かせて欲しい。そんな意味も込めて藤本さんに言ったのだが、彼女は全く動く気配がない。
これは俺の声が聞こえてなかったのか? 横にいるのに聞こえないわけないだろう。しかし俺は、聞こえなかったその可能性に賭けてもう一度言ってみる。
「別に私は気にしないよ? だってこれからそんな機会たくさんあるだろうし……」
何ということでしょう。そもそも動く気がないと藤本さんは言っているではありませんか。
「いや……流石に恥ずかしいというか。それより藤本さんも着替えなくていいの?」
「エッチ……」
「いや急に!? 自分で言うのもなんだけど気を遣ったんだけど!?」
エッチなのはどちらかと言うと着替えを手伝いたいとか言っていた藤本さんの方では?
「だって私の服そこの段ボールの中に入ってるんだもん。下着類もその中に入ってるし……」
指差す方向にあるのは俺の部屋の風景にだいぶ溶け込んできた段ボール群。なるほど……確かに着替えが段ボールの中にあるのは納得だ。
これは俺が悪かったかな?
「なら俺が別の部屋で着替えた方が良さそうだね。藤本さん着替え終わったら呼んで欲しい。横の親の部屋でサッと着替えるから。それじゃっ」
逃げるように自分の部屋から出る。そして急いで両親の部屋に入った。
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