第7話 小説の最後は

 たしか、ラーメンやで彼女との話題に上がった遠い向こうの花火大会が、今。僕の目の前まで押し寄せた。

 そこに来ている誰もが、カップルやら親子やらできている、近所のよく花火が見えると有名な遊園地に僕は一人で来ている。

 すれ違う周りの視線があからさまにおひとり様の僕に向いているのを、いやという程全身で浴びた。

 そんなことを気にすることなく、遊園地に隣接する海岸に座り込む。ズボンが砂まみれになるのなんて、どうでもよかった。

 ポケットからスマホを取り出す。ロック画面の奥にある、こちらに大きなピースを向ける彼女に別れを惜しみながら写真機能を使う。


 まわりからの歓声に、気持ちよくなっている花火が何発も夜に花をさかせる。その一つ一つを逃すまいと、写真を撮っていた。

 と、誰かから電話がかかってくる。ちっと思いながら、名前も見ずに電話を取る。


 ――もしもし。千景君。病室の窓からもきれいに見えるから、こっちで一緒に見ようよ。

「なんだ、せっかく全部撮っていこうと思ってたのに」

 ――じゃあ、私がそっちに行くよ。

「ダメ。せっかく手術が成功したんだからもう少し安静にしててよ。里穂」

 ――はーい。というか、千景君、画面通話なのしってる。

 スマホを耳から放して、画面を見る。そこには、愛おしいなんて前まで言うことができなかった言葉を受け止めてくれる彼女がそこにいた。

 ――やっほー。あ、じゃあたこ焼き買ってきて。

「ダメなんじゃないの」

 ――ダメだけど、夏祭りに何も食べないなんて、ないよ。それとも、私のこと嫌いになった。

 あからさまに、目元を拭って見せる。でも、口角が上がってるのを彼女は隠しきれていなかった。

「はあ。じゃあ、僕が目の前で食べてあげるよ」


 ええという声が聞こえたが、そんなものを無視して、電話を切る。

 病院まで来てって言われても、ここからどれくらい距離があるかも知らないくせに。


 まわりのカップルや親子ずれの間を逆流しながら走り出す。

 ここにいる誰よりも僕が幸せだと思った。

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小説の中で生きる君へ。 仮名 @zlgl

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