第158話 帝国への道 その4
「おいしいですわっ!」
食卓にアルフリーヌの声が響く。
「はは、気に入ってもらえたようで嬉しいよ。」
料理を満面の笑みで頬張るアルフリーヌから、最高の賛辞をもらう。
ちなみに、彼女が頬張っているのはハンバーグだ。
王国ではひき肉が一般的ではないようで、ソーセージの作り方と一緒に調理担当のヴァロカに教えた料理の一つだ。
「こらアルフリーヌ、はしたないぞ。」
「で、でもお父様!このお肉っ!」
アルフリーヌに勧められ、アークストルフもハンバーグを口に運ぶ。
「うむ、これは…ステーキより柔らかく食べやすいな。」
アルフリーヌの様に頬張る、という事は流石に無いが、せわしなく口へ運ぶ様は公爵様とは思えない。
見慣れない料理に抵抗があったのだろう、食卓に運ばれて来たハンバーグを見た時は眉をひそめていたが、それがウソのような食べっぷりだ。
「ハヤト様の世界には、こんなおいしい料理がありますのねっ。」
「うむ、この白いスープ、ホワイトシチューだったか?コレも素晴らしい味だ。」
アークストルフはホワイトシチューに舌鼓を打つ。
「これらの料理、王国にはないのですか?」
「そうだなぁ…私も王国内の評判の店などはよく利用しているつもりだが…。」
アークストルフが首を捻る。どうやらハンバーグもホワイトシチューも無いようだ、王国には。
「それがどうかしたかね?まさか、これらの料理がないから、王国がハヤト殿の世界より劣っているとでも?」
アークストルフが俺を睨み付ける。彼の怒りももっともだ。自国を侮辱されたと思ったのだろう。
「滅相もございません、只の確認です。
お気を悪くされたのであれば謝罪いたします。申し訳ございませんでした。」
俺はアークストルフに深々と頭を下げる。
「いや、ハヤト殿に他意がないのであれば良いのだ、こちらこそ失礼した。
狭量な所を見せてしまい恥ずかしい。今のは忘れてくれ。」
「狭量などと滅相もございません。
自国が侮辱されて笑える者などおりません、閣下のお怒りは当然です。」
「そう言ってもらえると、こちらも助かるよ。」
アークストルフの顔が元の柔和な紳士の顔に戻る。良かった良かった…。
「お父様、ハヤト様はその様な方ではございませんわ。」
「ああ、そのようだね。
しかしアルフリーヌ、お前はハヤト殿をその…随分と慕っているようだね?」
「お、お慕い申し上げるだなんてっ///
これはその、弟子が師匠を慕う、その様なモノですわっ!」
「なるほど師弟愛か、そうかそうか、なるほどな…。」
アークストルフは何度も頷くが、あまり納得しているようには見えない。
ってか、こんな会話は俺の居ない所でやってくれ、とてもじゃないが居たたまれない。
俺が食事会の空気を気まずく感じていると、
「皆様、湯殿の用意が出来ましたので、宜しければ。」
マイヤーが風呂を勧めてくる。これは渡りに船だ!
「どうでしょう閣下、当家の風呂は私の嗜好で大きめに作っております。
ゆったりとお過ごしいただけると思いますが?」
「おお、風呂まで用意してもらえるとは有り難い。
料理が美味しくて食べ過ぎてしまった所だ、腹ごなしに浴びさせていただこう。
ちなみに、風呂は男女別かね?」
アークストルフの目つきがまた鋭くなる。
俺がアルフリーヌと一緒に入るとでも思っているのか?
「ご安心ください、湯殿は男女別で作っております。」
俺はしれっと答えたが、これはウソだ。
たしかに風呂は複数あるが、どれが男湯、女湯というワケではない。
俺が#誰か__・__#と入浴していても、他の者も入浴出来るようにしているだけだ。
「では、早速ー。」
とにかくこれで、この気まずい食事会から抜け出せる、そう思っていた時期がボクにもありましたー。
ーかぽーん…ー
「なんでこうなった…。」
俺の背中に天井から雫が垂れる。
アークストルフ1人で入ると思っていたのに、せっかくだから一緒に入ろうと、
半ば強引に連れて来られてしまった。
「二人きりとか、余計に気まずいじゃないか…。」
「何か言ったかね?」
「いえ、御湯加減がいかがかと。」
「ああ、とても良いよ。ハヤト殿も早く入りたまえ。」
先に湯船に浸かったアークストルフが手招きしている。
もう覚悟を決めるしかないようだ。
「では失礼して…。」
俺は一言断って、湯船を跨いで浸かろうとすると、
「こ、これは…っ?!」
アークストルフが驚きの声を上げるー。
つづく
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