第157話 帝国への道 その3

「…同じお部屋でよろしいので?」

「ああ、そうらしい。」

「部屋は余っておりますが?」

「わかってるよ。それも伝えたんだが、同じ部屋でいいって。」

「そうですか、ではそのように。」

マイヤーが頭を下げ、部下のメイドに指示を出す。


アークストルフ父娘を俺の屋敷に泊めることになった。

年頃の娘が父親と同室はイヤだろうと、気を利かせて部屋を分けようと思ったのだが、

アークストルフは頑なに、娘のアルフリーヌと同室にするよう訴えて来た。

来客用の部屋はいくつも空いていると言ったのだが…。

部屋は余ってる、別々の部屋が用意出来る、とこちらが言えば言うほど、

同室を強く訴える意固地な姿は、今までの彼の人物評を大きく変えた。


『カストラールと比べて柔和で柔軟な男だと思っていたが…昨日今日で違う側面を見過ぎたな。』

俺は他人の屋敷だと言うのに、娘から片時も離れようとしないアークストルフに目をやる。

『親馬鹿ってヤツなのか?確かにアルフリーヌは可愛らしいが…。』

可愛い我が子を守る子煩悩な騎士、さしずめそんな所だろうか?

『子供の俺にはわからないな。』


「随分と警戒されてるようですね。」

背後からの声に俺は振り返る。

そこには哨戒任務から帰ってきたルヴォークが立っていた。


「おおルヴォーク、ご苦労さん。」

「ありがたいお言葉、痛み入りますっ。」

ルヴォークガ最敬礼で返す。ビシッとしたその姿は凛として美しい。

「また綺麗になったか?」

「はっ?!ぉあっ、へぅっ///」

俺の言葉に顔を真っ赤にして狼狽えるルヴォーク、マジ可愛い。


「あの、ハヤト様、そちらの方は?」

アルフリーヌが少し、顔を引きつらせて尋ねてくる。

『女の奴隷に不快感を示しているのか?

だとしたら、この屋敷は女奴隷だらけだぞ、マズイな…。』


俺が少し戸惑っていると、

「私、当家で軍事面を任されております、ルヴォークと申します!」

ルヴォークが最敬礼と共に自己紹介する。

ぴん、と背筋を伸ばすと、その大きな果実が激しく上下する。

その動きにアルフリーヌの目が点になる。


「ル、ルヴォークさん、今夜はお、お世話になりますっ。」

「はっ!屋敷の敬語は完璧です、安心してお寛ぎください。」

「ほうほう、では今夜はこちらの美女が我らの世話を?」

アークストルフが少しニヤけた顔で聞いてくる。

ふふ、ルヴォークの魅力にヤられたようだが、隣に娘がいるのを忘れてやしないか?

メチャクチャ軽蔑した目で見てるぞ?すんっ!てなってるぞ?


「いえ、お二人にはこの者達を世話係としてお付けいたします。」

どこから来たのか、いつから居たのか?マイヤーがチェーレを連れて現れた。

「チェーレと申します。何かございましたら、何なりとお申し付けください。」

恭しく頭を下げるチェーレ。彼女の果実もまた上下に怪しく揺れる。

「おお、こちらはこちらで…。ご、ごほんっ。」

アルフリーヌの冷めた視線にようやく気付いたのか、アークストルフが大仰に咳払いして誤魔化すと、俺の耳元で、

『ハヤト殿はああいった女性がお好みか?』

『ああいった、とは?』

『いや、こう、肉感的というか…。』


「アルフリーヌ様は年も近いでしょうし、この者をお使いください。」

マイヤーに御挨拶なさいと促され、彼女の背後から、

「リッツァと申します、何でもお申し付けください!」

「んなっ?!」

リッツァを見た瞬間、アークストルフが俺の耳元で大声を上げる。


「痛っ!な、なんです突然?」

「あ、す、すまない、ハヤト殿っ。いやしかし、貴殿はこの様な幼いメイドを?!」

「お言葉ですが閣下、リッツァは年若とは言え私がしっかり教育いたしました。

もしこれに粗相があれば、当家家令の私の粗相と思っていただいて構いません。」

「あ、いや、そういう話ではなく…っ。」

自分の部下を未熟者と思われた感じたマイヤー。

その剣幕に圧されたのか、アークストルフはしどろもどろだ。


「お父様、ワタクシこちらのメイドさんがイイですわ。

だって可愛らしいんですもの!」

そう言うとアルフリーヌはリッツァの手を取り、

「今晩はヨロシクね、リッツァさん!」

「はい、誠心誠意御仕え致します!」

年齢の近い二人はすぐに打ち解けられそうだ。


「よろしいでしょうか、アークストルフ閣下?」

「あ、ああ…宜しく頼む。」

「では、お部屋へご案内致します。」

マイヤーが頭を下げると、チェーレとリッツァが二人を先導していく。


「考えたな~、マイヤー。」

アークストルフ父娘の背中を見送りながら、ロッテンが一人感心している。

「何がだよ?」

「ぅふふ~、にぶちんなハヤト様に問題ですっ。

マイヤー、ルヴォーク、チェーレにあって、リッツァちゃんに無いのはなぁ~んだ?」

「なんだ、クイズだと?…胸か?」

ロッテンの突然のクイズに俺は即答する。


「そうです、正解ですっ。アークストルフ卿はの3人を見て安心したんだよ。

アルフリーヌお嬢様がハヤト様の好みじゃないってね。」

「ああ、なるほど。だからハヤト様の好みの確認を…。

いや待て、じゃあリッツァはマズイんじゃないかっ?」

俺達の会話を聞いていたルヴォークが納得いかない、といった顔でロッテンに詰め寄る。


「そ、そうだねっ、だから卿は焦ってたろ?」

「そうだな。」

「でも、お嬢様は喜んでたろ?」

「そうだな。で?」

「…え?まだわからないの??」

「なっ?!貴様っ、ちょっと頭がイイからって…っ!」

「ひぃっ!?」

屋敷に来てスグに失言からルヴォークに殴り飛ばされたトラウマか、

ルヴォークの剣幕にロッテンが縮こまる。


「やめろ二人とも、ルヴォークは落ち着け、ロッテンも上役に言い過ぎだ!」

「はい…。」

「申し訳ありません…。」

見かねた俺は、2人を仲裁する。


「つまり、アークストルフには安心と少しの不安、アルフリーヌには自分が俺の守備範囲だと伝えられた、って事だな。」

「そうそう、その通りっ!さすがハヤト様!」

「なるほど…。さすがマイヤーだな。」

「アークストルフの警戒心はなるべく解き、

アルフリーヌの関心は出来るだけ買う、か。」

「そーゆーコト!」

「…なんか、魔族と戦うより難しいんだが?」

「考えなしにエイクお嬢様とヤっちゃうからでしょ。」

飛鳥の失踪で自暴自棄だったとは言え、あの時の自分をぶん殴りたくなったー。


つづく

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