第156話 帝国への道 その2
「そう言う事でしたら、護衛にもう一人…そうですね、警備部のケーラを同行させましょう。」
「ああ、助かるよ。ありがとう、マイヤー。」
マイヤーは黙って頷き、後ろに侍ったメイドに目配せすると、
目配せされたメイドがケーラを呼びに向かう。
「大丈夫なのか、ハヤト殿。ここの守りが薄くなるのでは…。」
「ご心配には及びません。たしかに私の領地は広さの割に兵は少なく寡兵ですが、練度のレベルが違いますから。」
「確かにそうだろうが…。」
「ははは、二心を疑われる程の我が家臣団を信用してください。」
「あ、ああ。ザンジバルに言われたコトをまだ気にしてたのか…。」
「はい、先王と一緒に私を処分されようとしたコトも、忘れてはおりません。」
「そ、そうか…。」
俺の執念深さに、アークストルフの顔が少し引きつっている。
そうなのだ。
王都から帝国へ行くのなら、俺の領地[アルレンス]へ転移魔方陣で転移して、そこからダール平原を越えて行く。
なら、自分の屋敷に寄って、同行者を補充すればいいのだ。
これでアークストルフ父娘の護衛をシンム一人に任せなくてすむ。
ロッテンも自分の身は自分で守れる、なんて言っていたが、あの華奢な体で戦闘はムリだろう、
なので護衛をもう一人は欲しかったのだ。
「ハヤト様、すぐに屋敷を発たれますか?」
マイヤーが俺に尋ねる。
確かに、せっかく屋敷に寄ったのだから一晩休み、明日帝国へ発ってもいいだろう。
アルフリーヌのコトもある、アークストルフとの距離も縮めたいし、ここは屋敷で歓待すべきだろう。
ただ、アークストルフがどう出るか…。
「アークストルフ卿、いかがでしょう、
せっかく当家へ立ち寄られたのです、一晩逗留なさっては?」
「う~む、お気持ちはありがたいが…まだ王都を発って1時間も経っておらんし、
何より陽もまだ高い。お気持ちだけいただいて、帝国へ発つべきだろう。」
俺の提案はアークストルフに拒否される。
まあ、彼の言う事ももっともだ。
確かに陛下に別れを告げて、その舌の根も乾かぬうちに本日はココまで、というのも怠惰に見え外聞が悪いか…?
「あら、良いではありませんか、お父様。
ハヤト様のせっかくのお誘い、無下になさるのも、いかがかと思いますわ。
それにワタクシ、ハヤト様の御屋敷にとても興味がありますのっ。」
「そうなのか、アルフリーヌ?」
「はいっ、異世界からいらした方の御屋敷ですもの、面白そうですわっ。」
おお、アルフリーヌから思わぬ援護射撃がっ。
これはイケるか?
「ねぇ、いいでしょ、お父様?」
「う~む、まあ日程に余裕が無い訳ではないし、お前がそう言うなら…。」
上目使いのアルフリーヌのダメ押しの一撃に、生真面目なアークストルフが陥落した。
「おお、ではお泊りいただけますか?」
「ああ、一晩やっかいになろう、よろしく頼む。」
「お父様っ!」
「お、おいおい、やめないか人前でっ。」
アルフリーヌに抱き付かれたアークストルフがよろける。
久々に抱き付かれたのだろう、口では止めるように言ってはいるが、
アークストルフの顔はにやけっぱなしだ。
「ではマイヤー…。」
「はい、屋敷にお立ち寄りになるならと予想し、準備は出来ております。」
「はは、さすが…。」
俺はマイヤーが少し怖くなる、彼女の洞察力、想像力が。
『このマイヤーに加えて王国随一の頭脳ロッテン、そしてルヴォークやカシネの武力…。
ザンジバルが疑うのも無理はないか…。その上貴族の娘達を娶り始めたら…。』
エイク以外の貴族の娘とも関係を結ぶ、そう決めたつもりだったが、
『思ったより、バランスが難しい気がしてきたな…。』
俺はいつの間にか俺の隣に寄り添っている、アルフリーヌに視線を落とす。
長く綺麗なまつ毛がキラキラ、とても美しい。
『この娘も、攻略対象なワケだが…。』
恐らく彼女も、俺のコトを最初ほど悪くは思っていないだろう。
そう、一緒にダンジョン攻略をした時、最初はひどかった…。
『最初は近づく事すら拒絶されてたからなぁ。それがどうだ、この距離感!
まあ、兄を慕う妹、と言った感じだろうが…。』
久々の再会でいきなり飛び付いてくるような、
まだあどけなさの残るアルフリーヌでは仕方ないか。
『この娘が異性を意識するようになって、
俺のコトを男として見てくれるまであと数年、気長に待つとするか。』
俺は自分に寄り添うアルフリーヌの成長を願っていると、
そんな俺の視線に気付いたのか、こちらを見上げる彼女と目が合った。
「どうされましたの、ハヤト様?」
「ん?あ、いや、期待している所申し訳ないんだが、俺の屋敷には別に珍しいモノがあるワケじゃないからな、
お前の期待を裏切ってしまうんじゃないかと、不安になってたんだ。」
視線が合った気まずさを隠すために言い繕ったが、これは事実でもある。
本当に、珍しいモノなんかないのだ。
異世界モノの小説にあるような、チートな知識を俺が持ってるワケがない。
なにせ元の世界じゃ冴えない只の高校生なんだから。
スマホをいじってたからって、作れるワケじゃない。タッチパネルの原理さえ怪しい。
ディーゼル機関や蒸気機関も知っていはいるが、当然作れるワケじゃない。
仕組みがわかっていて、自分でも作れそうなモノと言えば、自転車くらい…いや、これもタイヤが作れないか?
ちなみに、この世界には水車と風車は元からあった。
小説のようには、うまくいかないものだ。
「あら、そんな事で浮かない顔をされてたんですの?」
アルフリーヌはクスリと笑う。どうやら俺は浮かない顔をしていたようだ。
「そんな事、ご心配にならないでくださいまし。
あれはお父様を誤魔化すための方便ですから。」
「方便?」
「はい。異世界の珍しいモノになんて、ワタクシそんなに興味ありませんの。」
「じゃあ、なんであんな方便、ウソを?」
俺が不思議そうに尋ねると、アルフリーヌはまたクスリと笑い、俺にしゃがむ様促す。
俺が膝を屈めると耳元で、
『いづれお迎えいただくとして…御屋敷には興味がありますわ。』
「なっ?!」
俺は思わず、間抜けな声を上げる。
「ん?どうした、ハヤト殿?」
「い、いえ、なんでもっ!」
俺はあたふたと取り乱しながらも、なんとか誤魔化す。
その仕草を見てか、アルフリーヌはクスクス笑っている。
『思ったより大人…なのか?』
俺はまだアルフリーヌの吐息の感覚が残る耳を押さえたー。
つづく
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