第155話 帝国への道 その1

「すまないな、シンム。仕事が増えてしまって。」

俺は向こうを向いて刀の手入れをしている、シンムの背中に声を掛ける。

本来は俺の護衛として今回同行する彼女だが、

急遽カストラール父娘の護衛もするハメになってしまったのだ。

極力兵力を残すためとは言え、大臣に護衛ナシとか…逆に誘ってんのか??


「あ、これはハヤト様!申し訳ござらん、気づきませんで…。」

俺に声をかけられたシンムは手を止めて振り向き、恭しく頭を下げる。

肩口より少し長めの銀髪が揺れてキラキラ光る。

彼女は警備部から選ばれたメイドで二番隊の隊長、犬族のメイドだ。

しかし、“ござらん”って…相変わらず時代がかった喋り方だ。


「我ら家臣はハヤト様のご命令であれば、

如何様なご命令も苦ではございませぬ、お気になさらず。

それより、もしハヤト様とカストラール様お二人が同時に敵の手に落ちた時は、

ハヤト様をお助けいたします事、お許しくだされ。」

「縁起でもないこと言うなよ。

う~ん、ホントはカストラールを助けて欲しいけどなぁ。」

「それは出来ませぬ。」

シンムはきっぱりと言い切る。そこまで言われるとなぁ。


「まあ、ハヤト様が敵の手に落ちる、なんて考えられませぬが。」

「はは、だが、油断大敵だぞ?」

「そうでござるな、例えば、伽の最中などはハヤト様も油断されておるでしょうし…。」

「その時はお前も一緒だから大丈夫だろう?」

「そ、それはっ、そうでござるなっ///」

シンムは顔を真っ赤にして刀の手入れに戻る。伽の相手が自分だと思い出したのだろう。

ふふ、かわいいなぁ。


「イチャイチャすんのも結構だけどね、もう一人いるの忘れてんじゃないの?」

不満そうな声がする。もう一人の随行者ロッテンだ。


「貴様、口の利き方に気を付けろと言われたハズだが、まだわかってないないようだな?」

ロッテンの話し方が不遜に聞こえたのだろう、シンムが殺気立つ。

彼女の話し方は、俺は正直もう諦めた。

他の者に示しが付かないってのはあるが、

あのルヴォークの鉄拳にもめげない、その胆力は認めざるを得ない。


「隊長に代わって拙者が今一度御教授しようか?」

「おお怖っ。ねぇハヤト様、伽はそこのおっかない犬女だけじゃないですよね?」

「貴様ごときが、ハヤト様のお情けをいただけると思っておるのかっ?!」

「えー、あのち○ぽを独り占めはないよ、シンムちゃ~ん。」

「なっ、ちゃ、ちゃんっ?!ハヤト様、やはりコイツは連れては行けませぬっ!

身の周りのお世話は拙者がいたしますゆえっ!」

「はいはい、二人ともちょっと落ち着け、な?」

俺は睨みあっている二人を引き離す。


「シンム、お前がコイツに不信感と嫌悪感を持つのはわかる。」

「ではっ!」

シンムが腰の刀に手を伸ばす。

「落ち着けって。だがな、コイツを推薦したのはマイヤーだ。

あのマイヤーが渋々とはいえ同行させたんだ、俺はマイヤーの判断を信じるよ。」

「マイヤー様がですか…。」

俺は主であるハズなのに、部下の説得にマイヤーの名前を使わざるを得ない不甲斐無さに少し恥ずかしくなる。

だが、彼女の名前を出すのが一番手っ取り早いのも事実。うぅ、情けない。


「ロッテン。」

「はい?」

「マイヤーの顔を立てて今回はお前の同行を許したが、俺はお前を完全に信じたワケじゃない。

この一ヶ月よく働いてくれているのも事実だが、お前はその…ち○ぽの話ばかりすぎる。

俺よりデカいヤツが現れたらスグに乗り換えそうで、信用しにくい。」

俺はロッテンに対してずっと思っていた事を言ってみた。


「えーっ、ヒドいなハヤト様、人をそんな色情狂みたいに。」

「いや、お前の言動からはそうとしか思えないんだよっ。」

「じゃあ尚の事さっさと抱いて、アタシをハヤト様のモノにしちゃえばイイでしょ?」

そう言うと、ロッテンは俺にしな垂れかかり、股間に手を伸ばす。


が、ロッテンのその手はシンムによって防がれる。

「拙者の目が黒いうちは、ハヤト様に手出しはさせんぞ?」

「あら、ハヤト様から出される分には構わないってコト?」

「くそっ、何故貴様の様な者まで守らねばならぬのかっ!」

「お生憎様、自分の身くらい自分で守れますぅっ。」

ひらりと一回転したロッテンの袖口にキラリと光るモノが?


「お前ら、いい加減にしろよ?

これからしばらくは一緒に行動するんだ、仲良くしてくれよっ。」

二人の言い争いに辟易した俺は、悲壮な声を上げる。


「ハヤト様のお言葉とあれば…。」

「仕方ないね、はら、仲直りっ。」

そう言ってロッテンは手を差し出す。仲直りの握手だろう。

「ふん…。」

シンムは渋々と言った表情でその手を取り…。


ーすっ!ー

「残ね…っ!」

ロッテンは差し出した手をヒラリと翻し、シンムの手を空かそうとしたが、

シンムの動体視力はそれを許さない。


ーガシッ!ー

「!~~~~~っ!!!」

ロッテンが声にならない悲鳴を上げる。

ロッテンが空かした手を、シンムは目にも止まらない速さで掴むと、力一杯握り締めた。

ーぎゅ~~~~~ッ!ー

「よろしくな、ロッテン。」

「は、離っ!こちらこそ、痛っ!よろしくぅっ!?」

ロッテンは手を握られたまま、痛みに身をよじらせまるで踊っているようだ。


「…頼むよホント、勘弁してくれよ…。」

その様子を見て、俺は明日からの旅を想像して暗澹たる気持ちになるー。


つづく

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