第153話 弔問団 その3

「お久しぶりですわ、ハヤト様っ!」

金色のデカい縦ロールをなびかせ、アルフリーヌが俺に飛び付く。


帝国への弔問に出る前に王城に立ち寄れ、との事だったので、俺は王城へとやって来た。

そこで通された部屋で待機していたのだが、

ノックと共にアルフリーヌが飛び込んできたのだ。


「おお、アルフリーヌ。相変わらず元気だな。」

俺は腰に飛び付いたアルフリーヌを抱え上げ、頭上で一回転させてから降ろしてやる。

「もぉっ!ハヤト様はワタクシを子供扱いなさって!」

高い高いが気に入らなかったのか、アルフリーヌが頬を膨らませる。


ーアルフリーヌー

オスル王国の五大臣の一人、内務大臣アークストルフ公爵の御令嬢だ。

エイクと同じく近衛騎士団に所属していて、以前ダンジョン攻略を指導して以来、

俺の事を師匠と慕ってくれている。


「なんだ?レディとして扱って欲しいのか?」

「モチロンですわっ!

ワタクシ先日13歳になりましたの、もう立派なレディですわっ!」

ふふん、と胸を張るアルフリーヌ。まあ、張ってもナニもないけどな。


「そうか、それでは…。」

俺は恭しく彼女の前に傅くと、そっとその白魚の様な指を取り、

「お久しぶりです、アルフリーヌ嬢。

少し見ぬ間に、とてもお美しくなられて。」

俺はどこかで聞いたような、歯の浮きそうなセリフを吐くと、

アルフリーヌの手の甲に軽く口づけする。


「~~~~~////」

俺が傅いたまま見上げると、そこには顔を真っ赤になった可愛らしいアルフリーヌと、

同じくらい真っ赤になったアークストルフ公爵の笑顔があった。


あれぇ?この人は軍務大臣のカストラールとは違って、

理知的で温和な人だったハズだが、笑いながら人殺しそうな笑顔で俺を見ている…。

「こ、これはアークストルフ様…。」

「やあ、ハヤト殿。今回も無理を言ってすまないねぇ。」

「い、いえっ!陛下の命とあらば!あ、挨拶が遅れましたっ!」

俺は慌てて立ち上がり、彼の前で頭を下げる。


「はは、いいんだよ、挨拶なんて。私と君の仲じゃないかっ。」

「は、はあ…。ありがとうございます?」

なんだ、この人?

俺達の仲って、そんなに話した事もないハズだけど?

しかもずっと怖い顔で笑ってるし??


「あら、ハヤト様とお父様は仲が良ろしかったのですか?」

「ああ、彼とは彼が召喚された時からの付き合いだからねぇ!

なぁ、ハヤト殿っ!」

「は、はい!その節はお世話になりましたっ。」

いや、世話になんてなってないしっ!

でもこの人、メッチャ強い力で肩組んでくるっ!


「お前達こそ、随分仲が良いようだねぇ。抱き付いたり?抱え上げたり?」

「ひっ!」

アークストルフの爛々と光る双眸に睨まれ、俺は思わず短い悲鳴を上げる。


「そ、そんなお似合いだなんてっ///」

「え?誰もそんな事一言も言ってないよっ?!」

アルフリーヌは久々の再会に幻聴でも聞こえているのか?

「ふふふ、私が娘に最後に抱き付かれたのなんて随分昔、懐かしいねぇ。

抱き上げるなんて本当に、子供の頃…いや、今も子供なんだけどね?」

「はぁ、そうですか…。」

なんだコノ人、何が言いたいんだ?

あまり娘に馴れ馴れしくするな、って事か?

でも、いきなり抱き付かれたのは不可抗力だろ?!


「と、ところでアークストルフ卿はなぜココにっ?」

「なんだ、私が来てはお邪魔かね?」

アークストルフが不穏な笑顔で俺を凝視する。

「いえ、邪魔だなんてっ!」

「残念だったねぇ、私がいるせいでアルフリーヌにナニも出来なくて。」

「そんな、何もしませんよっ。」

「そうか、そうだよねぇ。この子はまだ子供だからねぇ。

それに私はね、君を信じてるからね?」

「は、はい、ありがとうございます!

あ、あの、それで、どういったご用向きで?」

「あら、御存じないのですか?」

アルフリーヌが小首を傾げる。


「今回の帝国への弔問団に、ワタクシ達アークストルフ家も入っておりますの。」

「えぇ?そうなのか?」

ナニも聞いてなかった俺は、間抜けな返事を返してしまう。


「ああ。最初は陛下御自らお出ましになる、と仰るので慌ててお止めしたのだ。

で、代わりに私が参加する事になってな。」

「なるほど。でも、ご息女は?」

「…それを私に言わせるのか?君が参加すると聞いたからだよっ。」

アークストルフは苦々しい口調で吐き捨てた。

えぇ~こんな人だっけ??


「本来なら外務大臣を行かせる所なのだが、病気だとかで最近は会議にも出ないで代役に子供を寄越す始末だ。

まったく、体が悪いならさっさと家督を譲ればよいものを…。」

アークストルフはまだブツブツ言っている。

どうも弔問団に参加したくはなかったようだ。


俺は隣にいたアルフリーヌの耳元で、

「アークストルフ卿は帝国に行かれるのを嫌がっておられるようだが?」

「ひゃぅっ///」

どうも驚かせたようで、アルフリーヌは変な声を出して飛びずさる。


「も、もぉっ!そんな突然、ビックリしますでしょっ?!」

「ああ、すまん、そんなにビックリするとは。」

顔を真っ赤にして怒るアルフリーヌに俺は平謝りだ。

お年頃のレディに突然の耳打ちは不躾だったか?


「お、お父様は内務大臣ですから、あまり国を離れたくないのですわ。」

「そうか、なるほど。」

「でも…。」

「ん?」

「ワ、ワタクシはハヤト様と御一緒出来て、とっても嬉しいですわっ!」

「!っ」

ペットに子犬でも飼っていたら、こんな感じなのだろうか?

俺はアルフリーヌの可愛らしい一言に胸がキュンとなった。


「どうされました、ハヤト様?」

「いや、そりゃ…どうも…ありがとう。」

屈託なく笑うアルフリーヌの笑顔に暫し見惚れてた、とは言えず、

俺は頭照れ笑いしながら頭を掻く。


『俺もだよ』位言える、気の利いた男になりたいなー。

と思ったが、こちらを睨むアークストルフの険しい顔を見ると、言わなくて正解だったようだー。


つづく

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