第152話 弔問団 その2

「ただ?」

言い淀んだツェ―カに代わり、マイヤーが後を引き継ぐ。

「これが帝国の策略ではない、とは断言出来ません。」

「策略?」

「はい。ハヤト様を帝国内へ誘き寄せ危害を加える、

もしくは、ハヤト様ご不在の折りにこのアルレンス領へ侵攻する…そんな算段やもしれません。」

「まだココを諦めてない…か。」

「それも考慮し、同行者として警備部からは二番隊隊長シンムを。シンムの腕はご存知でしょう?」

「ああ、カシネとほぼ互角、それ以上って言ってるヤツもいたな。」

「はい、ハヤト様をお守りするには十分かと。

本当であればルヴォークを同行させたいのですが、もし帝国がココを攻めた場合…。」

「ココの守りを手薄には出来ないからな、当然だ。

ココは俺にとっても大切な場所だからな。」

「ハヤト様にそう言っていただけ、幸甚に存じます。

それともう一人…真に不本意ながらロッテンをお連れください。

アレは身の回りのお世話も一通り出来ますから。」

「ロッテンか…。」


本当に不本意だ、と言わんばかりのマイヤーの顔に、俺も少し嫌な気持ちになる。

彼女は騎士団を退団後ウチにやってくる予定のエイクの付き人だが、

どういうワケか前乗りでウチへ来ている。

マルクタス伯爵家から引き抜いたような形になっていて、

今後何か騒動のタネになりそうでマイヤーの悩みの種でもある。

それに彼女は主を軽んじる傾向があるようだ。

先のミュールでも飛鳥が帝国兵を殲滅しなければ、ミュールは被害を受け、

主で領主であるマルクタス伯爵はその責で罰せられ、処刑の可能性もあった。

失策とも言えるその全ては、エイクと俺を契らせるためだったようだが、

余りにも手段を選ばなすぎる。

今の所、問題なく働いているようだが…とんだ劇薬が転がり込んできたものだ。


「本当は私が同行出来れば良いのですが、アレが当家に何か仕掛けていた場合…チェーレでは対処しきれないでしょう。」

「ちょいと、そんな危なっかしいのをハヤトの側に置いて大丈夫かい?」

「…アレはハヤト様に手を出すコトはあっても、危害を加える事はないでしょう。

昔馴染みとして、それは保障いたします。」

「手は出されるのか…。」

俺はロッテンの華奢でスリムな肢体を思い浮かべる。

マルクタス卿を骨抜きにしたという艶技に、興味が無いワケではない。


「…どうなさるかは、ハヤト様次第かと。」

「そ、そうか。」

この、マイヤーの少し冷たい口調、俺の思考は読まれたようだ。


「け、警備部から、今回はカシネじゃないのか?」

「さすがに三回も続けて同行させたとあっては、他の者も納得いたしません。

まぁ、、お情けをいただける、と言うのであれば、やぶさかではございませんが?」

「うっ…。」

“絶対に”を強調するマイヤーにジロリと睨まれ、俺は言葉に詰まる。藪蛇だったようだ。


「じ、人選に異存はない。その二人で調整してくれ。」

「はい、畏まりました。」

マイヤーはうやうやしく頭を下げる。


「すまないね、アンタには危ない事ばかり命令して…。」

ツェ―カも俺にすまなそうに頭を下げる。

ああ、さっきツェ―カが言い淀んでたのはこれか、俺は合点がいった。

王国として安全だと確信しているワケじゃない事を、俺に命じた事を気に病んでいるのか。


「頭を上げてください、師匠。

俺の命がまだあるのは、師匠の修行のおかげです。

それに陛下も俺の働きに十分過ぎるほど、過分に応えてくださってます。

勝手に召喚された世界ですけど…俺はこの世界、この王国が好きですから。」

俺はこの世界に来て初めての相手(いや、日本を含めてもだけど)のマイヤーにチラリと視線を向ける。

マイヤーは俺の真意に気付いてか、微笑み返してくれる。

うん、この世界に来て良かった!


「だから、ちゃんとやってやりますよ、勇者ってやつを。」

そして俺は帝国へ向かう事になった。

もしかしたら帝国で飛鳥に会えるかもしれない、そんな淡い希望を抱いてー。


つづく

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