第10話 忠臣物語

「3年間ご苦労だったな。」

長い廊下を自室に向かいながら、ルヴォークに話しかけ、

俺不在の3年の労をねぎらう。

「勿体ないお言葉、ありがとうございます。」

ルヴォークが太い尻尾をピクリとさせ、喜びを表しかけて押し止めた。


「しかし、マイヤーの忠節にも困ったもんだな。

あんな小芝居まで打って俺を持ち上げなくても…。」

「マイヤーの三文芝居は当然ですっ!」

ルヴォークがマイヤーを擁護するが、ディスることも忘れない。

マイヤーとルヴォークはお互いを意識するあまり、衝突することがままある。

どちらも俺を想っての事なので注意もしにくいが。


「あの者達は不敬です。

私たちのハヤト様にあの様な態度、ハヤト様の客人とはいえ、私たちは許せません!」

ルヴォークの怒りは収まらない。廊下を歩く足音が大きくなる。


「そう言うな、彼女たちは俺の友人だ。

軽口も叩き合うさ。」

「とはいえ、こちらの世界ではハヤト様の庇護がなければ生きられぬ身、

立場をわきまえるべきではっ?」

「俺が連れて帰らなければ王城で不自由なく暮らしたさ。

だが、王城に居られては俺の弱味になりかねない。

優しさで保護したんじゃない、保身さ。」

「しかしっ!」

ルヴォークはまだ納得してくれない。


「とにかく、彼女たちが出来るだけ不自由しない様、俺に仕えるのと同じ様に接してくれ。」

ルヴォークを後ろから抱き寄せ、その長く美しい黒髪に口付けしてお願いする。


「し、仕方ないですねっ、わかりました!」

ルヴォークが顔を真っ赤にしながら俺の部屋へ足早に進む。

ご機嫌が治ったようでよかった。

太い尻尾がブンブン振られている後姿は、堪らなく愛らしい。

抱きつきたい衝動に駆られていると、


「どうぞ。」

自室の前に着き、屋敷の中でも一際大きく立派な扉を開けてくれる。

「あぁ、ありがとう。」


ルヴォークに促され自室に入ると、

地球に戻った時そのままの、綺麗に手入れされた部屋に驚く。

「キレイだな、まるであの日のままだ。」

意地悪く部屋の角に目をやってみてもホコリひとつ落ちていない。


「はっ、ハヤト様の居られない3年間、一日として掃除を欠かしたことはありません。」

「俺があっちに帰ってから毎日か?」

「はっ、こちらへお帰りになる日を想いながら、皆で交代で。」

「皆ってもしかして…。」

「勿論、私やマイヤーもですっ!」

「オマエやマイヤーは忙しいだろうに、そんな雑事を…。」

「お言葉ですが、ハヤト様のお部屋のお掃除は雑事などではございませんっ!

ハヤト様を一番感じられ、ハヤト様に可愛がっていただいた日々を強く想い出す、

この部屋へ入れる事は、皆の誉れなのですっ!!」

ルヴォークの言葉に熱がこもる。


そして、

「おかえりなさいませ、ご主人様っ!

メイド一同、ハヤト様のお帰りをお待ちしておりましたっっっ!!」

真っ赤にした目に涙を湛え、直立不動で敬礼するルヴォークの姿に俺まで目頭が熱くなる。

「良いメイドを持って、俺は幸せ者だよ。」

ルヴォークに返礼し、呟く。


帰ってきた。

俺は帰ってきたんだ。

異世界にじゃない。

俺のもう一つの家、HOMEに。

俺も涙をこぼさぬよう上を向き、忠義の士に答える。

「皆の忠義、嬉しく思うっ!俺は果報者だっ!!!」

少し芝居がかったセリフだが、かっこよく決まった!

心の中でガッツポーズをしていると、


「何やってんですか、二人とも。」

呆れ顔のマイヤーが扉の前に立っている。

他のメイドたちも何人か覗いている。

皆、感動の面持ちというより、臭い時代劇を見るような顔をしている。

「いや、これは、その…。」

俺はしどろもどろに、

「わ、私はメイド一同を代表して、感謝の気持ちをだなっ!!」

ルヴォークは顔を真っ赤にして、

二人で必死に説明しようする。


「夕餉の支度、出来ましてございます。どうぞ斎堂へ。」

マイヤーも少し芝居がかった言い方で夕食を告げる。


ルヴォークが羞恥で真っ赤になった顔で、マイヤーに掴み掛る。

俺は慌てて止めに入り、

「いつだっ!いつから見てたんだっ?!

ルヴォークが敬礼で叫んだところかっ?!」

「ハヤト様っ?!恥ずかしいんですけどっ?!」

「もっと前からでございます。」

「前っ?!」

「前?ルヴォークが掃除を熱弁してた時か?!」

「ハヤト様っホントもう止めてくださいっ!!」

ルヴォークが涙目で訴えてくる。


「廊下でルヴォークの髪にキスなさったトコロからです。」

「「げっ」」

「ルヴォークの忠義はお受け取りになるのに、私の忠義はお気に召されなかったようですね。」

メイヤーがソッポを向く。


俺を想って演じてくれた芝居に文句言ってたのは怒って当然だけど、

これはアレだな、ヤキモチもあるんだろうな。

ライバルは髪にとはいえキスされて、自分は陰口じゃ納得いかんよな。

ハヤト、動きます。


「あー、マイヤー?」

俺は可愛らしくソッポ向いているマイヤーに声をかける…。


が、

「お前、なんでそんな前から付いて来てるんだ?」

「!」

ルヴォークの問いにマイヤーがビクッとする。


「お前さては…。」

あ、ルヴォーク、それ言っちゃダメなヤツじゃね??


「夕食までの間に可愛がってもらおうとしてただろっ?」

「っっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!」

あぁーあ、言っちゃった。

図星だったようで、マイヤーが真っ赤になる。


「当たりかよっ!このエロメス猫っwww」

やめてルヴォーク、マイヤーのHPは、、、。

あ、キレた。


・・・・・・・・・・・・・・・・。

その後、ネコとオオカミのケンカの仲裁で、夕食が少し冷めた。



つづく

『転封貴族と9人の嫁〜辺境に封じられた伯爵子息は、辺境から王都を狙う〜』という作品も投稿しておりますので、そちらもお読みいただけると幸いです。

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