第11話 食事が終わって日も暮れて

「お、オマエがこうしゃくっっ?!」

食事中、神前が噴き出す。

立ち上がった拍子にナイフを落とし、リッツァが拾う。

「あ、どうも、ありがとうございます。」

ペコペコしながら、新しいナイフを受け取る。

なぜそんなにオドオドしている??


「で、こうしゃくとはどれ位偉いんだ?」

「知らないで驚いてたのか。」

「爵位なのは知っている!順番がわからないんだ……。」

「凛ちゃん、爵位は男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵の順で、高御座くんは……。」

「ご主人様はきみ公爵でいらっしゃいます。」

マイヤーが口を挟む。まだ二人を、特に神前を無礼だと思っているのだろう、

「ハヤト・タカミクラ公爵閣下であらせられっ。」

ルヴォークがマイヤーに追随しようとしたが、舌を噛んだようだ。


「す、スゴイね、高御座くんっ!あ、くんは良くないね、高御座公爵閣下!」

「なんだっ飛鳥までっ?!コイツを高御座と呼んではだめなのかっ?!」

「不敬罪で捕まって、牢屋に入れられちゃうかも??」

「な、なんだとっ?!」

道祖が神妙な顔で神前を脅す。


「いいよ、二人とも。今まで通りで。」

マイヤーたちには悪いが、友人にそんな呼ばれ方したくない。

「二人にはそのままでいて欲しい、お願いだよ。」

「そ、そうかっ。頼まれては仕方ないっ。では!今まで通り、高御座と呼」

「オスル王国の北の要所、ここアルレンス地方の領主でもあらせられます。」

「そのため、アルレンス公爵閣下とも呼ばれておいでだ。」

「公の場ではハヤト・アルレンス・ド・タカミクラとお名乗りになられます。」

「もーーーーーっ!!!なんなんだ、オマエっっ!!!」

マイヤーとルヴォークが刺した釘で、神前が壊れる。


「勇者って呼ばれて、」

「キレイな女の知り合いがいっぱいでっ、」

「デッカイ高価そうな家に住んでっ!、」

「キレイなメイドもいっぱい雇ってっ!!、」

「地方領主でっ!!!、」

「爵位が一番上のお貴族様でっ!!!!、」

「筋肉もりもりでっ!!!!!」

神前が叫び、

「こんなん、チーターやん…。運営BANしろよっ」

最後は力なく呟いく。あと運営とか言うな。


「いや、だから気にしなくてイイって…」

「…ホントか?本当に今まで通り高御座でいいのか?」

「ああ。」

「逮捕とかされないか?」

「「します。」」

マイヤーとルヴォークがハモる。


「やっぱり逮捕して奴隷として売っぱらうんだぁっ!!」

「だから、そんな事しないって!マイヤーとルヴォークも、もうやめろっ!」

「「畏まりました。」」

ホントにわかってんだろうか?最敬礼で応える二人を疑いの目で見る。


ーーーーーーー


食事が終わり、食後のお茶も飲みながら、リビングで一息ついていると、

「ご主人様、お湯の御用意が出来ました。」

カーニャが報告に来る。

「ありがとう、カーニャ。」

「湯?もしかして、お風呂?」

「あぁ、二人も入るといい。」

「異世界に来てお風呂の入れるなんてっ!」

「さすが、お貴族様だな。」

トゲのある、神前の言い方……まだ怒ってるようだ。

そういう態度だから、マイヤーたちの当たりが強くなるのに。


「お客様用の浴室にも、湯を張らせております。

お二人にはそちらをお使いいただいては?」

「そうだな、そうしよう。」

同級生の男子と同じ浴槽は抵抗があるだろう。


「ではリッツァ、二人を客用の浴室へ案内してくれ。」

「畏まりましたっ!」

「タオルやお着替えなども、ご用意するのですよ?」

「畏まりましたっマイヤー様!

それではお客様、こちらへどうぞ。」

「ありがとうございます。」

「あ、ありがとうございますっ。」

リッツァの案内で、浴室へ行こうと二人が席を立つ。


「それでは、俺もひとっ風呂……。」

「では、今日は私がお背中お流しいたしましょう。」

「えっ?」

「なっ?!お、お前っ!」

二人が慌てて振り返る。


「い、いやいやっ!マイヤー冗談がキツいぞっ!!」

「左様ですか?」

慌ててマイヤーの言を否定する。

「な、なんだ、冗談か…。」

「ビックリしちゃったねっ…。」

なんとか二人を誤魔化せたようだ。

二人…特に道祖には、この世界での俺を見せるのに抵抗がある。

この世界で酒池肉林、好き放題生きている姿を元の世界の人間に見せて、

元の世界での俺のイメージが壊れてしまうのを、

俺は、怖がっている……。

だが、いつまで誤魔化せる?

いつまで俺は我慢できる?

一歩…『一歩』を踏み出したい………っ!


俺のそんな迷いに気づいてか、

マイヤーがピタリと俺の背後に寄り添い、

俺の背中に二つの膨らみを押し付けてくる。


「マイヤー……?」

「はい?」

「その……当たってるんだが……。」

「はい、当てております。」

「……。」

「もう一度、お伺い致します、ご主人様。」

「……なんだ?」

「…ご主人様、お背中お流しいたしましょうか?」


マイヤーが二つの膨らみで、俺の『一歩』を促す。

今はまだ二人がいるから我慢できているが、

二人とはこれから、元の世界へ帰るまでずっと一緒だ。

この誘いを断れば、恐らくマイヤーは二度と俺に風呂へ入ろうとは言うまい。

もちろん、ルヴォーク始め他のメイドたちもだ。

俺は、俺は…………っ。


長い逡巡の後、

「……頼む。」

俺は二人に背を向け、マイヤーに告げる。

「畏まりました。」

マイヤーが最敬礼で応える。


「え?高御座くん??」

「お、お前、おい、ちょっと?!」

俺は二人に視線をやる事なく、

マイヤーを従え、湯殿へ歩いて行った……。



つづく

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