第9話 ただいま その2

「これはっ…!」

「すごいね…。」

屋敷に入った二人がクロークで屋敷の素晴らしさに息をのむ。

広いクロークに高い天井、そこに吊られた巨大なシャンデリア。

正面の大階段にはクロークから立派な赤絨毯が続き、

その正面大階段の踊り場には色鮮やかなステンドグラスが輝く。

玄関の両脇には大きく綺麗に磨かれた重厚なドアが。

その奥へ長い廊下が続き、多くのドアが見える。

その先は多くの部屋を有する左右の棟へと続く。


「ちょっとしたホテルのフロントね…。」

「さっきも言ったが、王城ほどじゃないけど、不自由はないと思うよ。」

「おまえ、もう、こんなん、大金持ちじゃないか…。」

神前、オマエなんだその感想は、アホの子じゃないんだから…。


「リッツァ、カーニャ。」

「「はいっ!」」

返事をしながら二人の少女が駆け寄ってくる。


[リッツァ]は狐人族の女の子。

マイヤーと同じメイド服の少女で、メイドカチューシャの脇に尖った耳が生えている。

細いキツネ目をさらに細くしてニコニコ。俺との再会を喜んでくれているようだ。

太くフサフサの尻尾もフリフリ揺れ、喜びを表している。


もう一人の少女は犬人族の[カーニャ]。

こちらは警備部門と兼任のため、軍服とメイド服を足したような服を着ている。

頭にはカチューシャではなく制帽が乗り、

両脇の半立ちコックドイヤーがピクピクしている。

無表情を装っているが口の端がプルプル、笑うのを我慢しているようだ。

尻尾もピクピクして、振るのを必死で止めている。


「「おかえりなさいませ、ご主人様。」」

リッツァが最敬礼、カーニャが挙手式敬礼で挨拶してくる。

「二人とも大きくなったな!最後に会ったのが9歳だったから…。」

「12になりましたっ!」

「お約束通り、これでお手付きにしー…。」

「ふっ二人にはっ!客人の世話係を頼むっ!!」

我ながら怪しかったか?

カーニャが言い終わる前に二人に指示を出す。

道祖たちの方をちらりと見ると、二人はまだ屋敷の内装に夢中で、

こちらの会話は耳に届いてないようだった。

危うく大惨事になる所だった…。


「「………?」」

しかし、俺の狼狽ぶりをカーニャ達は理解出来ず固まっている。

「あー、えっとだな!」

「リッツァ、カーニャ、ご主人様はお客様のお世話係をお命じです。」

取り乱した俺にマイヤーが助け舟を出してくれる。


「「畏まりましたっ!」」

二人は各々の礼で拝命を表し、


「お客様。」

「お部屋をご用意しております。」

「「どうぞこちらへ。」」

「あ、あぁ、ありがとう。」

「ありがとうございます。高御座くん…?」

「疲れただろう?少し部屋で休んで、それから食事にしよう。」

屋敷の立派さと、異世界で初めて俺から離れる事に、少し緊張気味の二人に笑いかける。


左の棟の客室に向かう道祖たちの背中を見送り、

俺がカーニャたちにしようとしている事を誤魔化せた事に安堵する。

「ふーっ」

胸を撫で下ろしていると、

「いつまで誤魔化されるおつもりですか?」

「えっ?」

背後からのマイヤーの問いに振返る。

マイヤーが厳しい目で俺を見つめる。

うぅ、マイヤーさんマジクールビューティー。


問いの意味をはかりかねていると、

「いえ、出過ぎた事を申しました。」

マイヤーが頭を下げる。

「いや、気にするな?」

会話は終わらされ、問いの真意はわからずじまいになった。


「俺も一旦自室へ行こう。」

「では、私が御供いたします。」

挙手式敬礼をしながら供を申し出たのは、

カーニャと同じく軍服風のメイド服の[ルヴォーク]。

狼人族で警備部の長で、先程門から玄関まで先導してくれたのは彼女だ。

政務はマイヤーに任せて地球に帰ったのだが、このルヴォークには軍務を任せていた。

狼人族特有の引き締まった身体が軍服風メイド服によく似合う。

カーニャのフレアスカートとは違い、こちらは膝丈のタイトスカートだ。

鍛えられたふくらはぎと締まった足首に、黒いピンヒールが映える。

全体的に筋肉質ではあるが、小玉スイカ程のバストと引き締まったウエストが、

女性らしさを感じさせる。

キツめの印象を与える整った顔立ちと、制帽の脇のピン!と立った大きな耳が、

服の上からでもわかる肉体美鍛と相まって、精悍さを際立たせる。


「では頼もうかな。」

「はっ!」

ルヴォークの後ろを歩き、自室へ向かった。


つづく

『転封貴族と9人の嫁〜辺境に封じられた伯爵子息は、辺境から王都を狙う〜』という作品も投稿しておりますので、そちらもお読みいただけると幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る