第8話 ただいま その1
「さ、着いたよ。」
目を開けると、目の前には立派な門が。
広めの庭には木々や池も見える。
その更に奥、左右対象な大きく瀟洒な邸宅が見える。
さっきのギルドなんて比べものにならない、
立派な“俺の”屋敷。
「すご…。」
「これが…?」
「そう、ここが俺の家さっ。」
誇らし気に答えると、
「おかえりなさいませ、ハヤト様。」
門扉が開き、メイド姿の女性達が現れ、俺へ頭を下げる。
「ただいま。皆元気そうで何よりだ。」
俺はメイド達を見回し、皆が揃っている事を確認し頷く。
「マイヤー。」
「はい。」
一人のメイドが一歩前に出る。
「変わりないか?」
「はい、ハヤト様の居られない3年、特にご報告する様な事はございません。」
「家令としてしっかり勤めてくれた様だな、ありがとう。」
「勿体ないお言葉。」
「またダンジョン攻略を行う。
いつまでになるかわからんが、また世話になる。」
「世話だなど。ここはハヤト様のご領地。ご自由にお過ごしください。」
マイヤーと呼ばれたメイドが頭を下げる。
頭とは反対に、彼女の腰の辺りから生えている尻尾はピンと直立している。
「なっ?!シッポだとっ?!」
「えっ?獣人っ?!」
神前達が驚くが、道祖の専門用語に俺はもう驚かない。
「彼女は…。」
俺がマイヤーを二人に紹介しようとすると、
「私は猫人族の[マイヤー]、当家の家令を申し付かっております。」
俺の手を煩わせない様、自己紹介を始めた。
家令の[マイヤー]、猫人族のメイドだ。
細くしなやかな腰回りのせいでウエストが締め付けられたメイド服は、
小玉スイカほどの乳房を余計に強調してします。
メイドカチューシャの脇から、可愛らしい猫耳が覗く。
あまり感情が表情に出る方ではなく、切れ長の瞳にモノクルの容貌は冷たい印象を与えるが、
『尻尾は口ほどにモノを言う』、感情は尻尾に現れる事が多い。
「わ、私の名前は道祖 飛鳥、高御座君のクラスメートです。」
「私は神前 凛。同じく高御座のクラスメートだ。」
慌てて二人も自己紹介を。
「また女の人…。」
「お前、あっちの世界ではもやしの針金の鶏ガラ野郎で陰キャだったのに。」
神前がヒジで突きながら、呆れた様に絡んでくる。
「陰キャは余計だ。」
「お二人は獣人族が苦手でいらっしゃる?」
俺たちのやりとりを不満気に見ていたマイヤーが、少し目をキツくして尋ねる。
二人が獣人に驚いたのが引っかかったのか?
この世界では獣人への差別偏見が少なからず存在する。
このオスル王国内でも地域によっては差別のキツイ地域もある。
「い、いえっごめんなさい!そうじゃないんですっ!」
道祖が慌てて否定する。
「悪いなマイヤー、俺達の世界には獣人がいないだろ?
だから、少し驚いただけだ。他意はない。」
俺が助け舟を出す。
「ハヤト様の世界には獣人はいないのに、獣人をご存知で?」
マイヤーが怪訝そうに尋ねる。追求の手を緩めない。
本当に怒っているのか、それとも、、、。
「マイヤー、それ以上は俺の客人への不敬だ。不快だぞ。」
少し語気を強めてマイヤーを諌める。
俺はマイヤーの小芝居に乗ることにした。
「申し訳ございません、言葉が過ぎました。」
マイヤーが最敬礼で謝罪する。
これで小芝居は終わった様だ。
マイヤーの忠誠心の高さは時に面倒だ。
「門前で立ち話もなんだろう、そろそろ家に入ろう。」
「そうですね、申し訳ございません。
お客様もこちらへ。」
マイヤーが俺たちを邸内へ案内しようと先導する。
「あ、あのっ、マイヤーさんっ!」
道祖が呼びかける。
肩口で切り揃えた髪を翻し、マイヤーが振り返る。
「私の好きな物語に、貴方の様なネコ耳の人達が出てくるの。
それは想像の世界の話なんだけど、その世界の登場人物が目の前にっ!って思ったらびっくりしちゃって。
だから決して苦手なんかじゃなくて、むしろ興味でいっぱいってゆーかっ!
でも、気を悪くさせちゃったんなら、ごめんなさい。」
平身低頭、道祖が頭を下げ謝る。
小芝居のせいで面倒なことになった。
「頭をお上げください。気を悪くなどとんでもございません。
こちらこそお客様に対し言いがかりの様な事を…失礼いたしました。
申し訳ございません」
マイヤーも最敬礼で応える。
そうだ、お前の小芝居が悪い。
「わ、私も苦手じゃないぞっ!むしろ猫は大好きだっ!」
神前も慌てて謝る。
いや、ちょっとズレてる。
「ありがとうございます。
ただ、私は[猫人族]で、[猫]ではありません。」
「あうぅっ」
マイヤーがピシャリ。小芝居の原因にまだお怒りの様だ。
うーん、この二人は見た目は似てるのにソリが合わないんだろうか?
困ったなぁ。
「マイヤー、二人共々宜しく頼む。」
面倒になった俺が無理やりまとめ、先に立って門をくぐる。
道祖たち二人も慌てて俺に続く。
「かしこまりました。」
マイヤーが最敬礼で応える。
結果マイヤーが最後尾になって進むと、
門扉の横で一連のやり取りを見ていた他のメイドたちの中から、
一番背の高いメイドが邸内へ案内してくれる。
疲れた…。やっと我が家へ入れる…。
つづく
『転封貴族と9人の嫁〜辺境に封じられた伯爵子息は、辺境から王都を狙う〜』という作品も投稿しておりますので、そちらもお読みいただけると幸いです。
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