第6話 謁見の間にて
「よくぞ戻ってくれましたね、勇者ハヤト。」
「ははぁっ。」
謁見の間で片膝を着き、女王に敬意を示す。
玉座に座するのはエタールシア女王。
歳はまだ18位だったか。
この世界でも有数の大国、オスル王国の女王。
俺からのプレッシャーに耐えかねた前王から譲位されたそうだ。
前回召喚された時は俺の周りをチョロチョロする可愛い姫君だったが…。
若くして戴冠させられた遠因が俺にもあると思うと胸が痛む。
「ハゲの前王を見つけたらまた殺気をぶつけまくってやろう。」
「不穏な事を考えるな、声が漏れてるぞ。」
隣のノイラーに肘で小突かれる。
「勇者ハヤト、短い期間での再召喚、心苦しく思います。」
「もったいないお言葉。」
「貴方の迷惑も考えず、再度召喚したのには訳があります。」
「わかっております。今回も近隣のダンジョンを攻略…。」
「だけではありません。」
茶番みたいなやりとりはさっさと終わらせようとした俺の言葉を女王が遮る。
おいおい、どういう事だってばよ?
「貴方には今回、王国内のダンジョンだけではなく、近隣諸国のダンジョンも攻略してもらいたいのです。」
話がデカくなってきたよ、ちょっと!
「他の国には他の国が召喚した戦士や勇者がいるハズではっ?」
驚いた俺が確認する。
前回の召喚時、オスル王国近隣のダンジョン攻略だけで済んだのは、
それぞれの国には俺同様に異世界から召喚された者がおり、オスル王国以外の国はそいつ等がダンジョンを攻略していた。
なのに今回は他の国のダンジョンも俺に攻略しろと??
そんなの、国を救うじゃなく、世界を救うって事じゃないかっ?!
「それは私が説明するわ」
光の妖精、ウィルが目の前に飛んできた。
「ハヤト、貴方が元の世界に帰る時、私と水以外の精霊帝を連れて帰ってしまったでしょ?」
「連れて帰ったも何も、コイツ等が勝手に付いてきたんだぞ?」
こちらの世界に帰ってきたため実体を得た5体の精霊たちを指差す。
ちなみに、精霊帝とは精霊の中でも最上位の精霊のことだ。
「それは知ってるわ。
でも、ハヤトが連れて帰ってしまったせいで、
この世界の魔力のバランスが崩れてしまったの。」
「は?」
「私たち精霊は善の魔力をこの世界に供給しているの。」
「お、おう。」
「そして、ダンジョン奥の魔界の穴からは魔界から悪の魔力が漏れ出ているわ。
通常は善と悪の魔力はほぼ同じ量が世界には満ちているの。」
「と、いうことは、もしかして?」
「そう、今この世界には悪の魔力の方が多いの。」
「なんで付いてきたんだよっ!!!」
ヴルカ達に突っ込む。
「5年もお前と一緒に居て、離れるの嫌だったんだよ。言わせんなよ、恥ずかしい。」
「恥ずかしいじゃねぇよっ!世界の均衡崩してんじゃねぇかっ!!」
「とにかく、ハヤト。貴方がヴルカ達を連れて帰ったせいで、
この世界は今や悪の魔力に満たされようとしているわ。
急いで魔界の穴を塞ぎ、魔力のバランスを取り戻さないといけないの。」
「お前もしたり顔で解説してるけど、なんでヴルカ達が地球に行くの止めなかったんだよっ!!??」
俺はウィルに詰め寄った。
こんな大事な事、俺は聞いてない。精霊の無体はちゃんと精霊が止めてもらいたい!
「可愛い子には旅をさせよ、よ。」
ドヤ顔でウィルが答える。
「お前バカじゃないのっ?!いや、バカだろ、バカだねっ!バーカバーカっ!!」
もう、バカしか出てこない。
精霊ってもっと高尚なモンじゃないのっ?!
「しかもさっきから、全部俺の責任みたいに責めてくるのも納得いかないだけどっ?!」
さらにウィルを責めると、
「私たちはなんで召喚されたんですかっ?!」
「そ、そうだ!なんでだっ?!」
急に道祖と神前が声を上げる。
今は俺のターンで君達のターンじゃないっ!ちょっと黙ってて!
と思ったが、俺より不満なのは彼女達だろう。
「貴方達二人にも、この世界への適性がありました。
具体的には、道祖さん、貴方には魔法の適性が。」
「魔法っ??!」
「そして、神前さんには剣技の適性が。」
「剣技っ!!」
二人が食いついたっ!
なんでそんなに飲み込みが早いんだ、お前等っ!!
この飲み込みの早さも含めて[適性]だとでも言うのかっ?!
「貴方達3人が協力すれば、前回の召喚時よりも多くの悪魔の穴を塞ぐことができるでしょう!
征くのですっ!3人の勇者よっ!!」
「できるでしょう!じゃねぇよっ!!
何が3人の勇者だっ!
コイツ等にそんな危険なこと、絶対させねぇ!
そんな事させる位なら、俺がやってやる!
俺が全部の穴塞いでやるよっ!
お前等の好きにはさせねぇぞ!!」
............。
.......。
....。
やっちまったぁぁぁっっっっ!!
なんか熱くなってまくし立ててしまった!
ヤバい、本当に世界を救うことになっちゃう!!
師匠達を見る。
なんだ、そのやっちゃったね?って顔は。
ツェーカは魔法使いなんだから、絶対精霊連れて帰っちゃダメなの知ってたろっ?!
精霊達を見る。
なんで君達、目を合わさないの?
一番悪いの君達だよね??
道祖達を見る。
ダメだ、神前はやる気満々マンだ。なんか素振りしとる。
道祖は…顔が赤いな。お前は俺が守る!みたいな事言っちゃったから、照れてるのか。
そんなん、その場のノリで言っちゃっただけなのになぁ。あ、目ぇ逸らした。ますます赤くなっちゃって。
女王を見る。
あ、ちょっと申し訳なさそうな顔してくれてる。
もう、その顔だけでいいよ、十分だよ。
お互い、どうしようもない運命に翻弄されてる仲だしね。
君は譲位を受け入れたんだよね、俺も受け入れますよ。
「やぁってやるよぉーーーーーーーーーっっっっっ!!!!!!!!!!」
流されやすい俺は、謁見の間の中心でヤケクソに叫んだ。
つづく
『転封貴族と9人の嫁〜辺境に封じられた伯爵子息は、辺境から王都を狙う〜』という作品も投稿しておりますので、そちらもお読みいただけると幸いです。
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