第5話 勇者の帰還 その2
「あのハゲ王、元気にしてたのか?」
俺が元の世界に帰ってから3日、こちらでは3年経っていたそうだ。
ハゲ王はさらにハゲたんだろうか。
謁見の間に続く長い廊下を歩きながら、
案内役の兵士に聞いてみた。
「はは…。」
兵士が愛想笑いを返す。
王に対して不遜かと思うだろう。
だが、ハゲ王がハゲなのは仕方ない。
というより、俺はこのハゲ王が嫌いだった。
召喚されてスグに謁見した時、ひ弱そうな俺を一瞥するなり、
鼻で笑って処刑しようとしやがった。
役ただずに見えたのだろう。
今思うと仕方ないとも思う。
あの頃の俺はまさに貧弱な男の見本だったからな。
かと言って、初対面で殺そうとしてくる奴を許せるハズもなく。
師匠達が鍛え直すから、と処刑を止めてくれなかったら、どうなっていたことか。
結局、処刑の代わりに修行で殺されそうになったが。
まぁ、二人のお陰で国内でも指折りの戦士になり、勇者とまで呼ばれる様になった。
二人には感謝感激雨あられだ。
それに、徐々に強くなり、手柄を立てて叙勲を重ねるたびに、
ハゲの俺への態度が変わっていくのも楽しかった。
心労からか、どんどん薄くなる頭を見るのも楽しかった。
「最後に会った時は青白い顔で胃を押さえてたか。
中々に笑える姿だったなぁ。」
俺が最後の謁見を懐かしんでいると、
「そりゃ、アンタほどの戦士の殺気を浴びて、
普通でいられる胆力のある奴はそうはいないさね。」
ツバのデカい魔法使いの帽子、エナンが曲がり角から現れる。
帽子からトンガリ靴まで全身黒コーデの魔女、俺の魔法の師匠、[光球のツェーカ]。
凹凸は少ないがウエストの引き締まった、長身でしなやかな肢体をキツめのローブに包んでいる。
「師匠、相変わらずピチピチのロングローブがクソエロいですね。」
「コッチにとっては3年ぶりの再会だってのに、
挨拶の前にセクハラとはさすがエロドワーフの弟子だねぇ。」
「バーカ、その変態は紛れもなくスケベエルフのテメェの弟子だよ。」
ツェーカの後ろから、小柄な見た目に不釣り合いな巨大な剣を背負い、
胸を強調した鎧に身を包んだもう一人の師匠、[傾国のノイラー]が続く。
ツェーカと区別するため、姐(アネ)さんと呼んでいる。
豊満な胸部とうっすら割れた腹筋の対比が美しい。
ツェーカとは真逆、小柄ながら凸凹のハッキリした、
メリハリボディをプレートアーマーに隠しきれてない。
「姐さん、相変わらず上乳丸出しのビッチ鎧なんですね。あ、ヘソまで出してビッチアップしたんですね。」
「レベルアップみたいに言うなっ!チ○ポすりつぶすゾ、あぁ??」
俺たちが再会を懐かしんでいると、
「あの、高御座くん?」
すっかり忘れていた。
二人の美少女、道祖が恐る恐る声をかけてくる。
「今回は女連れとは。余裕だな、オイ。」
「この娘達がウィルの言ってた異世界人かい?」
師匠達が二人に興味津々で近づく。
「た、高御座っ!このクネクネとキレッキレの女性は誰だっ?!」
「おや、異世界のお嬢さんは口の聞き方も知らないのかい?
普通はまず、自己紹介じゃないのかね?」
さすが長命のエルフ族、若く見えても姑みたいだ。
切れ長の目に睨まれた二人は『うっ』とたじろぐ。
「いい歳してクネクネしてるエロババアに礼儀を説かれてもなぁ。」
「エロ師匠、二人はまだ混乱してるんです。いじめないでください。」
「ちょいと、エロババアとはなんだい?」
話が進まねぇ。
「私は、道祖 飛鳥、高御座くんのクラスメートですっ!」
「わ、私は神前 凛。同じく高御座のクラスメートだっ」
二人が自己紹介する。
「若い娘に気ぃ使わすんじゃねぇよ。
悪りぃな、ババアがうるさくて。
アタシの名前はノイラー。ドワーフ族だ。」
「私のツェーカ、エルフ族さね。
あと、ババアじゃないよ。あんたらの歳に換算すると、28くらいさね。」
「ババアじゃねぇか」
「やんのかコノちんちくりんっ。」
二人が殺気立っていると、
「お、お二人は高御座くんと、どんな関係なんですかっ?!」
普段の道祖からは想像できない様な大きな声で師匠'sに質問する。
「「関係…。」」
二人が意味深な顔でこちらを見る。
俺は慌てて、
「ふ、二人は俺の師匠なんだっ!
こっちに召喚されて右も左もわからなかった俺を鍛え上げてくれた、恩人でもあるっ!」
「なにさね、隠す様なことかねぇ?」
「ま、いいじゃねぇか。ハヤトにも色々あんだろ?」
「そっか、恩人かぁ。
すごく親しそうで、ちょっとビックリしちゃったよ。」
不自然だったが、誤魔化せたか。
安堵の表情を浮かべる道祖に対して、
含みのある二人の言葉に神前は怪訝な顔をする。
筋肉バカのクセに洞察力はあって困る。
ん?
なぜ、俺は二人の師匠との関係を二人に誤魔化したんだ?
自問自答しようとしたその時、
「謁見の間で女王がお待ちです。
…そろそろ宜しいでしょうか?」
待ちかねた案内役の兵士が顔を引きつらせて尋ねてくる。
これ以上女王を待たせては、この兵士の査定に影響が出たりするのだろうか?
それは申し訳ない。
「道祖、神前。
まだ混乱しているだろうが謁見の間へ急ごう。
これ以上女王を待たせるワケにはいかない。」
二人に告げ、謁見の間に向かいかけて足が止まる。
「え?女王?女王ってどーゆーことだ?」
案内役の兵士の問いかける。
「それはアタシが説明してやるよ。」
ノイラーが深刻そうな顔で近づいてくる。
「オマエ、謁見の度に陛下に殺気をぶつけてただろ?」
「あぁ、処刑されそうになった仕返しにね。」
「オマエの気持ちもわからんでもないが…。
あんな殺気をぶつけられて、普通の人間が耐えられるワケがねぇ。
それをオマエ、謁見の度に何度も何度も…。」
「ま、まさか、ハゲお、陛下は…。」
さっきまでの軽口を叩きあったノイラーはそこにはいない。
伏し目がちに話す小柄な女性は、結論を言い淀む。
「姐さんっ!はっきり言ってくれっ!
へ、陛下はっ!陛下はどうしたんだっ?!」
ノイラーの肩を掴みかかる。
「陛下は…ハゲ散らかしたショックで退位した。」
「.......は?」
「だから、ハゲ王はハゲ散らかしショックでご息女のエタールシア王女に譲位され、
エタールシア女王が即位されたんだ。」
「なんじゃそりゃっ?!」
「今は王都から離れたとある地で地方領主だ。」
「どこだよっ?!」
「オマエにだけは絶対教えるな!、とよ。」
「あのヘタレハゲがぁっ!!!」
あんな奴でも、一瞬でも殺してしまったかと思っていた俺は、訳のわからない怒りに叫んでいた。
つづく
『転封貴族と9人の嫁〜辺境に封じられた伯爵子息は、辺境から王都を狙う〜』という作品も投稿しておりますので、そちらもお読みいただけると幸いです。
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