第4話 勇者の帰還 その1
この天井には見覚えがある。
5年前、学校帰りに突然光の粒に包まれて、
気がついた時にこの石造りの天井を見た。
背中のこのゴツゴツした、これまた石造りの床も懐かしい。
やはり、ここに帰ってきたのか。
オスル王国 王城地下室 召喚の間
甘い香りが鼻腔をくすぐる。
SWEET臭、ラクトンC10とかC11とかいう、若い女性が発する香り。
程よい重みを感じる両腕に目をやる。
左に道祖。
右に神前。
そう、前回の惨めでぼっちな異世界召喚とは違う。
今回は両手に花の異世界召喚だ。
そっと指先を二人の魅惑的な膨らみへと伸ばす、、、。
[[[この変態がっ!!!]]]
頭の中ではない、直接頭頂部に衝撃が走る。
頭の方を見ると、約40cm程の5人の小人が浮いていた。
そうだ。元の世界では俺の脳内に精神体として存在していた5体の精霊たち。
こちらの世界では実体を持って存在できる。
どうもその内の3体、[火のヴルカ][土のグノー][風のシルヴィ]に蹴られたようだ。
[ああっ、お3人とも!ハヤト様はちょっとイタズラしようとしただけですよ?そんなに叱らなくても…。]
[水のアクア]は俺を甘やかしてくれる。バブ味のアクア。
[ふふふ、お主はどちらの世界でも助平じゃのう]
闇の精霊、シェイディが笑う。5体の中でも一番小さい、30cm程の体長。ロリババアのシェンディ。
[オマエらが甘やかすから、こんな変態になったんだろっ!!]
火のヴルカが怒鳴る。すぐ怒鳴る。いっつも怒ってる。代わりにすぐデレる。ツンデレのヴルカ。
[この世界に召喚した以上、我々は隼人の親代わり。しっかりしつけねばいかん。]
土のグノーが腕を組んで頷く。真面目か。土ってゆーか岩。堅物のグノー。
[エッチなのはダメだっ!]
顔を真っ赤にして怒ってる、風のシルヴィは委員長タイプ。
頭の上で5体の精霊がわちゃわちゃ鬱陶しい。
[お帰りなさい、ハヤト]
足元で声がする。
声の主は分かっている。
召喚魔法を使える光の精霊、ウィル。
俺に付いてあっちの世界に来なかった精霊だ。
「…ただいま。」
心底面倒臭そうに答える。
[帰って来れて嬉しいだろ?]
かなりトゲトゲしく答えたつもりだが、
彼女には通じなかったようだ。
金髪ロン毛に金色の瞳。
成金の権化みたいな見た目の精霊が、俺たちをこの世界に召喚した犯人だ。
両脇の二人を起こさない様ゆっくり起き上がる俺に、
「謁見の間へお越しください。」
ウィルの後ろに並んだ兵士が頭を下げる。
「俺だけで良いだろう?
二人は起きるまで休ませてくれ。
出来ればベッドに運んで…。」
「高御座くんっ!!」
「大胸筋っ!!」
大声を上げ、突然二人が跳ね起きる。
「なんだよ、大胸筋って。」
俺がツッコむと、
「「誰っ!!??」」
二人が同時にツッコみ返す。
そうか、俺がわからないのか。
鍛えられた筋肉に高校の制服がきつい。
そう、再度召喚された今、俺の姿は元の世界に帰る前の姿、
5年間ダンジョン攻略のため、2人の師匠に鍛え上げられた姿に戻ったのだ。
………。
戻ったでいいのか??
「ここ何処っ?!」
道祖が辺りを見回しながら。
当たり前の疑問だね。
5年前の俺を思い出すね。
「確か、凛ちゃんと高御座くんの3人で図書館の帰りに…?」
そうそう、直前の状況をね、
「私たちの周りを光の粒がまとわりついてきて…。」
少しづつ思い出すのよ。いいねいいね、この初々しい反応。
俺もこうだったよ。
「中々の上腕二頭筋を触ったような?」
…神前、お前こんなにダメっ娘だったんか。
「あー、お前たち。
少し落ち着いて、説明させてくれないか?」
「「誰っ!!??」」
二人が同時にツッコみ返す。
そうか、俺がわからないのか。
再度召喚されたされた今、俺の姿は元の(略)
「俺だ、高御座、隼人だ。」
「なんでカタコトなのっ?!」
「なんで制服パンパンマンなんだっ?!」
なんだ、制服パンパンマンって。まぁ、反応としては正しいが…。
「カタコトなのは落ち着かせようと思ったからだ。
筋肉マンなのは、こっちの世界にいる間鍛えてたからだ。」
「こっちの世界?」
道祖が神前にしがみつきながら、恐る恐る聞いてくる。
「そうだ。ここは地球じゃない。俺たち3人は異世界、オスル王国へ召喚されたんだ。」
「異世界…召喚?」
道祖は理解が早くて助かる。
教室でもよく本を読んでいたからな。
そういう本でも読んでたんだろうか?
「そうだ、そこのキンキラキンが俺たちを召喚した犯人だ。」
ウィルが笑いながら、二人にヒラヒラと手を振る。
「もしかして、精霊?」
道祖が興味深げに見入っている。
40cm程の体長の精霊の存在が『異世界召喚』という非現実的な単語に現実味を与える。
「おい、キンニクラ」
タカミクラとキンニクが混ざってるぞ。
「俺はそんな名前じゃないが、なんだ神前。」
「そ、そのっ、そのけしから素晴らしい筋肉はなんだっ?!
失踪前は、もやしの針金の鶏ガラ野郎だったじゃないかっ?!」
頬を上気させ、鼻息も荒く人の元の体型をディスってくる。
「その失踪中に鍛えたんだよ。
地球では3週間だったが、こっちの世界では5年だったんだ。」
「つまり、5年鍛えた結果ということか。
あのハリガネムシがなぁ…なるほど、継続は力なり、だな。」
「…二人とも飲み込みが早くて助かるよ。」
神前は妙に納得しているが、人をカマキリの寄生虫に例えるのはやめろ。
神前にしがみ付いていた道祖の指の力が抜けたように見える。
少し落ち着いたようだ。
どこまで理解しているかは不明だが、とりあえずは納得してくれたか?
「あの、皆様そろそろ、、、。」
兵士が気まずそうに声をかけてくる。
しまった、謁見の間で王様がお待ちだ。
つづく
『転封貴族と9人の嫁〜辺境に封じられた伯爵子息は、辺境から王都を狙う〜』という作品も投稿しておりますので、そちらもお読みいただけると幸いです。
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