第9話 弟子入り

事件の捜査は予想以上に長引いた。長引いた理由は、捜査の指揮権が警察から国魔連の日本支部に移ったからだ。今回のテロリストの襲撃を重くみた日本支部の上層部は新たに組織犯罪対策部を設立した。人員は警察に所属する魔法使いの刑事と日本支部の軍部の軍人だ。2つの組織が合体していきなりスムーズに捜査できるわけもなく、予想の倍以上時間がかかってしまった。






そして一ヶ月の休校を経て、ようやく学校が再開した。



「南さん、怪我はもう大丈夫?」

「うん、もう完治したよ。」

「もう、クラス全員心配してたんだよ。」

「ありがとう」

「岡本も大丈夫か?」

「あぁ、もうピンピンだぜ!」


事件に巻き込まれた4人は怪我についての質問の嵐だった。流石に、クラスメイトも直接、襲撃事件について聞くような事はしないがみんな気になっている事は明らかだった。


そこに始業のチャイムが鳴ると副担任の清宮と珍しく時間通りの霧崎が入って来た。清宮はそのまま教壇に、霧崎は教室の隅にある自分の机に座った。教壇に立った清宮は全員の顔を見渡して口を開いた。


「皆さん、お久しぶりです。まずは全員がこうやって一緒に顔をそろえられた事を嬉しく思います。そして飯島君、南さん、岡本君、真柴さん退院おめでとうございます。皆さんが気になっているであろう事件の事ですが、事件については明日に国魔連の日本支部から正式な発表があるのでそちらを見てください。では、今日の連絡を始めます。」


学校から少なくとも何かしら事件に関しての情報が得られると思っていた生徒たちはがっかりした気持ちを顔に出さないようにその後の連絡を聞いた。






放課後、霧崎は誰もいなくなった教室で最近発表された論文を読んでいた。担任としての雑務は清宮に任せているので暇なのだ。かと言って職員室に戻っても他の教師の目があって居心地が悪いので放課後は教室で論文を読むのが日課となっている。

そこに二人分の足音が聞こえてきた。霧崎は読んでいた論文から目を離して顔を上げる。


「霧崎先生」

「なんだ、真柴と岡本か。どうした?」

「先生、あの時助けてくれてありがとう。」

「先生がいなかったら私達命は無かったと思います。」

「気にすんな。あれが俺の仕事だ。」

「でも先生がいなかったと考えると…」

「じゃあ、有難く感謝の気持ちはもらっとくは」


つかみようのない霧崎に対して真柴は啞然としている。


「バンッ!」


それまで下を向いていた岡本がいきなり土下座をした。

隣にいた真柴も目を大きく開いて驚いている。


「岡本、お前何やってんの?」


岡本の謎の行動に霧崎もナチュラルに尋ねる。


「先生、俺に魔法を教えてくれ」

「一体どういう風の吹き回しだい?」

「俺はテロリストに襲われて手も足も出なかった。それが悔しんだ。」

「テロリストのリーダーは上級魔導師レベルだったんだから今回は仕方ないだろ。それにまだお前たちは学生だ。上級魔導師に勝てなくても別に恥ずかしがることは無いぞ。」

「分かってる。それでも俺はもうあんな悔しい思いはしたくないんだ!」

「先生、私もお願いします!私も自分の身を守れるようになりたいです!」


霧崎は少しの間考える。そして結論を出した。


「分かった。いいだろう。明日の放課後、第三訓練場に来い。」

「はい!」



霧崎は今、自分の魔法の成長が停滞していることに気づいていた。復讐を果たして燃え尽き症候群になってしまったからではない。確かに、生きる意味を失った状態だが、霧崎はそもそも魔法が好きなので向上心も人一倍ある。霧崎が伸び悩んでいるのは単に霧崎の固有属性の重力が対多数に向かないのだ。現に霧崎は接近戦ならば賢者クラスと互角に渡り合える実力を持つが対多数の戦闘が弱いため未だに二等魔導師である。

だからここ最近は色々な論文を読み漁り解決の糸口を探している。


そんな霧崎にとって気晴らし感覚の軽い気持ちで2人の指導を引き受けた。








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魔法高校の最強新任教師 @tree-cats

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