第7話 新入生オリエンテーション③
「あーぁ、呆れた感動物語だね」
「テメェ!」
バゴォォン!
岡本がキレて立ち上がるよりも車がぶつかった様な鈍い音が響く。全員が音の方は振り向く。そこには壁を突き破り、中に入ってきたのは黒に金の刺繍の入った軍服を着た男だ。
さっきの2人と違うのはマントを羽織っている事だろう。
「ヒーローは遅れてやって来るって言葉知ってるか?」
「なんだ、テメェ。ふざっ」
取り巻きがイキって襲い掛かろうとするのををリーダー格の男が手で制した。
「黙れ。あれは国魔連の奴らだ。そしてマントを着ているって事は幹部クラスだ。」
全員が魔導師以上の国魔連の幹部ともなると
少なくとも実力は三等魔導師以上だ。
「ご名答。俺は国魔連執行局第二執行部管理官の守都英二だ。」
「ちっ、〝金剛〟の野郎か」
「なんだ、怖気付いたか?」
「いくら〝金剛〟でもこの戦力差はどうにもならないだろう?」
リーダー格の男が手を挙げると小屋の壁が魔法で全方位壊される。周りは敵に囲まれている。
「魔導師級も5人に魔術師級が40人。なかなかの過剰戦力だろ?」
「確かに、これはちょっとキツいかもな」
リーダー格の男が勝ち誇った様な笑みをこぼす。
「おい、そろそろ起きて仕事しやがれ」
守都の声に反応して1人の男がムクムクと起き上がる。
「え、霧崎先生死んだじゃぁ…」
真柴と岡本は幽霊を見たかの様な顔で霧崎を見つめる。
「勝手に殺すな。」
「なぁ零二、血糊まで用意するとか遊び過ぎにも程があるだろ」
「なかなか迫真の演技だっただろ?」
「あぁ、俳優デビューでもしとけ」
「あと英二、俺の仕事は潜入捜査であってこれは完全に執行局の仕事だろ」
「まぁ、いいじゃねぇか。」
2人の会話にリーダー格の男が割って入る。
「おい研究者。テメェ、もしかして外査部の人間か?」
「もしかしなくても大正解。俺は生粋の外査部の人間でーす。」
外査部。国際魔導連盟の監査局外部監査部の略で連盟外の組織、今回の魔法高校の様に連盟直属では無いものの実質的な下部組織を監査するのを仕事にしている。国魔連の中にある部署で人数や活動が超極秘の部署だ。
リーダー格の男はさっきとは比べ物にならない程真剣な顔で口を開く。
「テメェら、やれ」
周りにいた敵が一斉に魔法の構築に入る。それよりも速く霧崎は両腰から二丁の拳銃、ハーデスを取り出し魔法を撃つ。目にも止まらぬ早技で敵を制圧していく。撃たれた敵は地面に体を押し付けられて倒れる。これは霧崎の固有属性、〝重力〟によるものだ。その名も重力魔法〝
そして気づいた時には残すのは咄嗟に魔法障壁を張った8人だけとなった。
そして残った8人は魔法障壁を張ったままこちらに近づきながら魔法の準備をする。
霧崎は〝重力拘束弾〟を撃ち続けるが全て魔法障壁に阻まれる。守都が敵の1人に障壁に越しに殴りかかる。
「これでもくらえ!〝
守都の黒くなった拳は敵の障壁をあっさり破り敵を吹き飛ばす。そう、これが彼の固有属性、〝硬化〟による硬化魔法〝超硬化拳〟《ハードパンチ》だ。
そんな守都を余所に霧崎は自分に〝自己軽重〟《スピードアップ》をかける。そして敵が障壁を張っていない位置まで猛スピードで回り込み、重力拘束弾を撃ち込む。最初の2人には奇襲で成功したが、3人目以降は全方位に障壁を張られてしまい効果がない。
霧崎は効果がないと見るやすぐに立ち止まった。そこにリーダー格の男は挑発をかける。
「テメェの魔法はもう当たらねぇんだよ」
「いやぁ、これを使うつもりは無かったんだが…。まぁ、仕方がないよね」
そう言って霧崎は左手の人差し指に嵌めた指輪に魔力を込める。
「召喚、雷切」
すると左手には漆黒の鞘に包まれた一本の日本刀が握られていた。
「おいまさかその刀、あの〝刀皇〟か?」
「よく知ってるね」
「チッ、この一年何の噂も聞かなかったがそういう事か」
「お喋りはその辺にして君たちには黙って貰おうか」
そう言って左腰に鞘を構えて刀に手をかける。そして霧崎にとって最速の技を繰り出す。
「居合・瞬」
気づいた時には霧崎が右手に刀を抜いた状態で持ちながら敵の後ろにいた。敵はようやく腹を斬られた事に気づき倒れる。
霧崎は単に〝自己超軽重〟《スピードアップ・ハイ》をかけて超高速で相手を斬っただけだ。この速度にまず並大抵の人間は着いてこれない。
隣では守都が敵を拘束し終わっていた。
その後、しばらくすると30人程の軍服を着た国魔連の執行官がやって来た。
「お前ら、こいつら連れて行って情報吐かせとけ。俺は学生の方を担当する」
指示通り倒れた奴らを拘束して連行して行く。霧崎は既に刀をしまっていた。
すると真柴が泣きながら霧崎に抱きつく。
「もう先生!私のせいで先生が死んじゃったと思ったじゃん!」
「ごめんごめん。ついね」
真柴の優しく頭を撫でる霧崎。
そんな霧崎にさっきまで唖然としていた岡本が話しかける。
「先生は何者なんだよ」
「俺はただの研究員だけど?」
「本当の事教えてくれよ」
「流石にバレるか。俺は国際魔導連盟監査局外部監査部上級管理官の霧崎零二。君たち国魔連に憧れてて入りたいんでしょ?さ、俺のこと尊敬していいよ。」
2人とも驚く。まさか生徒に負ける様な先生が自分達が憧れる超エリートの国魔連の職員だったとは。そして真柴はキラキラした目で霧崎に問いかける。
「じゃあ、敵の言っていた〝刀皇〟ってのは?」
「えっ、俺の異名知らない?結構有名になったと思ったんだけどなぁ〜。」
「戦闘や裏の世界とは無縁の高校生が知ってる訳ないだろ。連盟だって俺たちの二つ名は馬鹿みたいに広めてないし。よし、お前ら教えてやる。〝刀皇〟は他国の部隊やテロリストなら誰もが知っている名だ。近接戦なら賢者級と渡り合える魔導師だ。」
守都が横から説明をする。
「じゃあ先生のライセンスは…」
「4等魔法師じゃなくて本当は2等魔導師だ。」
もう2人は思考を諦めた様だ。それほどまでに驚きが大きかった。頼りない新人教師がこんなに凄い人だという現実を受け入れられないようだ。
「じゃあ英二、後はこの2人の事よろしく頼んだ。俺は戻ってまた名俳優のお時間だ」
そう言って急いで来た道を戻って行った。
岡本と真柴は憧れの眼差しで2人を見つめる。
「じゃあお前ら、一つだけ注意点を教える。今日ここで霧崎が来た事や身分については誰にも口外するな。例え親でもな。」
「なんでですか!先生に救われたのに!」
真柴が守都に噛み付く。
「まぁ落ち着け。あいつは監査としてこの学校に潜入している。そしてその任務はまだ終わってない。校内の裏切り者を炙り出すまではあいつは潜入を続ける。」
「な、校内に裏切り者がいるんですか!」
「考えてもみろ。あいつらはお前らをピンポイントで誘拐し教師達の情報まで持っていた。これが何よりの証拠だろう」
「確かに…」
2人共、自分の学校に裏切り者がいるなんて思いもしなかったんだろう。
「ちなみにもしこの事をバラしたりしたらお前ら連盟法違反で即処刑だから覚悟しろよ?」
2人は改めて自分が知った秘密の重さを実感する。
「難しい話は終わりにして。なぁ、お前達はあいつの事をどう思う?」
真柴と岡本は顔を見合わせる。岡本は守都に尋ねる。
「どういう事ですか?」
「そのまんまの意味だよ。学校での様子とかどうなんだって事だ。」
「学校ではいつも本を読んでますよ」
「その他は?」
「それ以外は普通ですかね」
「そっか、分かった。じゃあお前たちもそろそろ戻っていいぞ」
守都は話を切り上げて2人を返した。
そして誰もいなくなった小屋で1人呟いた。
「何か少しでも変わると思ったんだがまだ早過ぎたか」
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