第5話 新入生オリエンテーション①
霧崎は出発の10分前にはちゃんと集合場所
に辿り着いていた。これには生徒だけでなく、教師陣も驚いていた。
バスに揺られること3時間、バスは目的手前の奥多摩の山の麓で止まった。生徒達が何事かと騒ぐ中、清宮が立ち上がる。
「ここからはみんなで歩いて行くのでバスから降りてください」
オリエンテーションの3日間は基本的にクラスメイトとの親睦を深めるために行われる。そして、具体的に何を行うかは生徒達は知らされていない。
Sクラスを先頭にAからEが順についてくる。
先頭には面倒な木村がいるので霧崎は清宮を先頭に送り、霧崎自身はSクラスの1番後ろについた。すると30歳くらいの優男っぽい男が話し掛けてくる。
「霧崎先生ですよね?私はAクラス担任の水野です。」
「初めまして。Sクラス担任の霧崎です。」
霧崎は基本職員室ではなく教室にいる事が多い上、職員会議の時も端で大人しく座っているだけで誰とも話さないので初めましてで当たり前だ。
「霧崎先生は国魔連の元研究員なんですよね?なんの研究なさっていたんですか?」
「主に魔法の汎用術式です。」
汎用術式とは基本的に属性などに関係なく使用される術式である。例えば、魔法の持続時間や範囲、拡散型か収束型かを決定する術式がこれにあたる。
「実は私のが教えている3年生の指導分野も術式改変の授業でして…」
霧崎は珍しく会話を楽しんだ。水野先生の知識は豊富で魔法大学の教授としてやっていけるレベルだ。久しぶりに同じレベルで会話ができる人を見つけた2人は目的の合宿地に着くまでひたすらハイレベルな議論を交わしていた。
合宿施設に着いてからは運動場にてクラス対抗でスポーツ大会が行われた。霧崎はスポーツ大会を抜け出して施設の下見に来ていた。施設本体だけでなく、周囲の森の中まで念入りにチェックした。
下見が終わった頃には夕食の時間が迫っていた。夕食は生徒達自身でカレーを作る。
霧崎は女子=料理が上手いという固定観念を長年持っていたが、女子は上手い人より下手な人が圧倒的に多かった。上手い人は美味しそうなカレーを作っているが、下手な人は乱暴そうな男子より酷い。そして意外にも男子のでも料理ができる生徒が多かった。
教師になって初めて新しいことを学んだ霧崎であった。
もちろん、霧崎は料理が上手い女子の班のカレーを食べた。以外にその班はギャルっぽい松田、三井がいる班で人は見かけによらないと改めて実感するのであった。
そして霧崎は3人に前から感じていた疑問をぶつける。
「夏目は清楚でお嬢様って感じなのになんでそこのバカっぽいギャル達といるんだ?」
「わ、私がお嬢様なんて」
「少なくともどっかの赤髪貴族女よりお嬢様だぞ」
夏目が顔を赤くして慌てる。
「なっちゃんは古い小さな神社の一人娘なんだよ。で、ウチらがそこの近所でよく神社で遊んでたら仲良くなった幼馴染ってわけ。」
「マツなんて神社に落書きしてなっちゃんのお爺ちゃんにいつも怒られてたんだよ。」
「えー。そんなの昔のことじゃん」
霧崎は3人に目には見えない繋がりを感じる。だが、それが何かは分からない。霧崎はその疑問をそのまま胸の奥にしまった。
霧崎は日が暮れると薪置き場に向かった。そこでしばらく待つ。すると暗闇の中、男が柵を飛び越えてやってくる。
「遅かったな」
「ごめん、ごめん。大便してたら時間かかっちゃった。」
「初日はこちらは何もなかった。そっちは何人連れてきたんだ?」
「本部から2人と支部の連中を10人」
「十分だ。何か見つかったか?」
「いや、ここら辺には何も異常はなかった」
「分かった。一応、対象には俺の魔力を付けておいた。」
「そうか。了解。それより、昨日の夜どうだった。何回戦やったんだ?」
「お前には関係ないだろ。口を縫って塞ぐぞ」
「あー、怖い怖い。桜が気づいたら置いて行かれて寂しかったって言ってたぞ。」
「体だけの関係なんだから問題ないだろ」
「相変わらず冷たいねー」
「何もないなら俺はもう行くぞ」
「じゃあこっちも帰って寝るとするか」
2人は各々来た道を戻った。
霧崎は夜の巡回を清宮に任せてさっさとベットに入った。
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