第4話 授業中でも自由

次の日、南と飯島は2人で霧崎に謝るために朝早くから職員室で霧崎が来るのを待っていた。しかし、霧崎が来る気配が全くない。

そしてついにホームルームの時間になっても霧崎は現れなかった。


「なんなのアイツ。2日連続遅刻とかありえない」

「でも、校長先生が許可しているからいいんじゃないですか?」

「それでもあの態度はムカつくのよ。元研究員なら決闘なんて受けなければよかったのに。研究員に勝って喜んでる私がバカみたいじゃない!」


文句を言う南を飯島が宥めながら2人は教室へ戻った。


そして教室では昨日同様、清宮のホームルームが行われそのまま1時間目の授業となった。もちろん、霧崎はまだ来ていないので清宮が代わりに授業を行った。

一年生の一学期は担任による魔法基礎学の座学が基本で魔法について基本的な事を幅広く学ぶ。二学期になると実技が加わり、さらに2年生以降はより専門的な科目を学ぶ。


授業が半分くらい過ぎた頃、生徒の教科書として使っていた電子端末に一斉メールが届いた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

力持ちの生徒5人は至急、職員玄関まで来るように。    

   

                霧崎

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





授業をしていた清宮は突然のメールに戸惑いながらも、力持ちそうな男子5人を向かわせた。


10分ほどして霧崎と男子生徒が戻ってきた。


「いや〜、助かったよ。俺だけでこんなに大量の本は持てないから困ってたんだよ。」

「先生も少しは持ってくださいよ」

「俺ってか弱いじゃん?そんなに持ったら潰れちゃうよ」

「先生、重いんで速くどいてください」

「もー、そんなに怒らないで。後でジュース奢ってあげるから。」


清宮が唖然としているのなんかお構い無しにどんどん本が運び込まれる。そして霧崎が昨日の決闘の後に用意させた窓際にある霧崎専用の机と椅子に本が積まれる。そして男子生徒達も各自席へ戻っていった。霧崎は椅子に座って本を広げながら口を開く。



「清宮先生、続けていいですよ」

「やっぱり私が授業するのですね…」

「もちろん!」


清宮は授業を再開し、そのまま何事もなく授業が終わった。休み時間、南と飯島が霧崎に近づいてきて頭を下げる。


「昨日はすみませんでした。」

「気にしなくていいよー。誰にだって若気の至りはある物だからね。」


飯島はホッとした顔をする。しかし、南の顔は険しいままだ。南が苛立っている様子はその顔から一目瞭然だ。


「なんで昨日の決闘を受けたんですか?」

「だって君たちが受けろって雰囲気を作り出す上、何となく俺でも勝てそうだったから」

「私を侮辱してるのですか!」

「いや、別そんなつもりはないよ。言ったじゃん、何となくだって。実際、君の方が強かったからいいじゃん。はい、これでこの話はお終い」


荒ぶる南を飯島が押さえつけながら席に帰らせようとする。南は霧崎を睨みながら自分の席へと帰って行った。


そこに、松田、三井、夏目のいつもの3人組がやって来る。松田がいつものように友達感覚で話しかけて来る


「先生〜、なんで今どき紙の本なんて呼んでるの?」

「古式魔法の本だから電子化されてないんだ。だからわざわざ紙で読まないといけないんだ。」

「え、先生は古式魔法の研究をしてるんですか?もしよかったら家に古式魔法の本があるので持ってきましょうか?」


驚い声で天からの救いのような提案をしてくれたのは夏目だ。古式魔法は大昔の妖術や忍法などの超能力に近い力を魔素で代用して発動する魔法だ。日本で正式な継承者が少なく、伝承する本も少ないため霧崎もかなり行き詰まっていたところだった。


「本当か!よろしく頼む。マジで神様だわ。何か困った事があったらなんでも言えよ」






それから平穏な日々が過ぎて新入生オリエンテーション前日になった。霧崎は安定の遅刻に生徒達も慣れてきたところだ。

休み時間はよく松田、三井、夏目が霧崎に話しかけて来るが、それ以外は本を読んだり自分の事に集中できているので割と霧崎は快適に過ごせた。




「明日はいよいよ新入生オリエンテーションです。みんなでバスで奥多摩まで行くので決して遅れないようにしてください。特に霧崎先生、気をつけてください。」

「もちのろん。明日はちゃんと時間通りに行くよ」





10時頃、霧崎はまたあの寂れたバーにやって来ていた。中には1人の綺麗な女性が座っている。黒髪のロングにお洒落なサングラスをかけいて、大きく開いた胸元で男を魅惑するようなスタイルの女性だ。


「お待たせ。待たせたかい?」

「今来た所よ。貴方のお友達から聞いたわよ、元エリート研究員さん。」

「余計なことを。どこまで広めたのやら」

「違う部署の私まで知ってるんだからかなり広まってると思うわよ。いいじゃない、私はそういう一面も好きよ。」

「そりゃどうも。」

「それより例の物は?」

「はいどうぞ。ちゃんと調整済みだから。」


そう言って女性は最新式のアタッシュケースを机に置く。霧崎が鍵の認証画面に触れて魔力を流すとロックが解除される。

魔力は人によって魔力紋が違うのでちゃんとしたセキュリティには魔力紋が用いられている。

中を開けると二丁の拳銃がしまってある。黒の本体にオレンジ色の線が入っていて、レボルバーや弾倉のないスリムな銃だ。

この銃は〝ハーデスHEDCモデル〟という魔法銃で複雑な術式の扱いに長けたハーデスシリーズの魔法銃の霧崎専用モデルで速射性が通常よりかなり高い。


「相変わらずいいデザインだ。」

「そうね。それよりこれからどう?」

「ご無沙汰だからいいぞ。俺の家でいいか?」

「ええ」



アタッシュケースを持った霧崎と色っぽい女性はバー出て霧崎のアパートに向かった。


そして霧崎は激しい激しい夜を過ごした。

翌日、霧崎にしては珍しくキチンと起きた。そして急いで支度をして集合時間に十分間に合う余裕を持って家を出発した。家に裸の女が寝ている状況だが霧崎は一切気にしなかった。

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