第3話 霧崎の正体

霧崎は担架で医務室に運ばれる中、周りから肯定と称賛の拍手が鳴り止まない。

そこへ1人の男が一際豪華な観客席から闘技場のシールドを突き破り闘技場に飛び降りる。


「静まれ!」


魔力の圧をかけて放たれた言葉によってシールド越しの観客席の生徒だけでなく、教師までもが狼狽える。闘技場に残っていた木村と南は膝をついて頭を抑える程だ。


「なぜ学年主任ごときが校内の人事を好き勝手にできるのだ?」

「じ、実は決闘の原因は霧崎先生の遅刻や授業放棄が原因でして…」

「校長、落ち着いてください。遅刻や授業放棄の上、生徒に負けるような弱い教師はこの関東第一の教師失格でしょう。」


新たに降りてきて2人の間に入るのは反校長派の副校長だ。


「貴様は俺のメンツを潰すつもりか?」

「どういう事ですかな?」

「彼は国魔連の元研究員で俺が何度も頭を下げて来て貰った天才研究者なんだぞ。」


国際魔導連盟、通称〝国魔連〟。その名の通り〝魔導師〟以上の国際ライセイ保持者が全員加入する国際組織の一つで世界三大魔法組織にカウントされる。その権力は絶大で加盟国の日本、UNEC、Unionの政府にも圧力をかけるのは容易だ。

通常、魔導師以上しかなれない国魔連の職員だが、研究員だけは賢さと優秀さが重視され、例え魔法が使えなくてもなれる。

つまり、国魔連の研究員は世界的な超天才頭脳集団なのだ。そこの研究員だったというだけでどんな企業や大学からも声がかかる程だ。もちろん、待遇も良くて好きな研究ができる国魔連の研究員を引っ張って来るのはそう簡単ではない。



副校長は驚きを隠せなかった。まさか、あの教師が国魔連の研究員だったとは思いもしなかった。東堂のコネによる人事を理由に校長辞任に追い込むつもりだった副校長は苦虫を噛み潰したような表情で言った。


「そうでした。それならもちろん、Sクラスの担任を安心して任せられます」


副校長はそう言って去っていった。

そんな副校長を無視して東堂は続ける。


「彼はこの学校に来る条件として素行に関して咎めない事と、授業形態は自由にすることを提示して俺が了承している。霧崎より担任に相応しい人がいるなら今のうちに手を上げろ」


誰も手を上げようとはしない。いくらエリート校の教師でも国魔連の研究員より優秀なはずがない。


「誰もいないな。では引き続き、霧崎にSクラスの担任をやって貰う。」


決闘が終わった後、生徒だけでなく職員達の話題も霧崎のことで持ち切りだった。霧崎の事を批判していた者も忘れたかのように語っている。



クラス内では表立って批判していた南や飯島は気まずそうにしていた。


「明日からどうしよう。そんなすごい先生だとは知らなかったから生意気な事ばかり言っちゃった。絶対に嫌われてる。」

「大丈夫だよ、沙羅。私も一緒に謝ってあげるから。」

「僕もたぶん嫌われてしまったでしょう。」

「気にすんなよ。あんなの誰だって文句言うだろ」

落ち込む南と飯島を真柴と岡本が励ます。



「最初から絶対にただ者じゃないと思ってたんだよねー」

「絶対気付いてなかったじゃん」

「本当だって。雰囲気というかさ、滲み出るオーラが違ったんだよねー。」


そんな4人を気にせず、他のSクラスのクラスメイトは松井、三井、夏目を中心に話が盛り上がっている。







生徒が帰宅した後、霧崎と東堂は完全防音の校長室で話し合っていた。


「なんで俺が国魔連の元研究員って事になってるんですか」

「仕方ないだろ。お前が辞めさせられる流れになったんだから。ていうか、術式に関してならお前は研究員なんかより詳しいじゃねぇか。問題ねーだろ。」

「じゃあ、研究以外興味ない、頑固学者に設定を変えないといけませんね」

「お前って変なこだわりがあるよな」

「それより俺の演技はなかなかだったでしょう?ちゃんと4級魔法師になりきりましたよ」

「お前は役者にでもなるのか?それより100家の実力はどうだった?」

「まぁ、他の新入生よりは実力はあるでしょうがそれでもやはり高校生ですね。」

「そんな事言うなよ。今年の新入生のエースだぞ?」

「やはり少なくとも10大貴族レベルでないと話になりませんね」

「確かに、天野崎家は没落してきているがそれ以外の10大貴族は100家と比べ物にならないからな。」

「まぁ、その10大貴族も賢者級の魔法使いがいるのはたった3家だけですけどね」

「確かにな。それより、来週に新入生オリエンテーションがあるのは知ってるか?」

「いや、知りませんよ。まさか、そこで事を?」

「あぁ。今回は一年生に3人、100家の生徒がいるからな。ちょうどいい感じだろう?。俺は行けないから頼んだ。」


「分かりました。こちらも手配を済ませときます。」







その日の夜、霧崎は自宅から離れた薄暗いバーに来ていた。しばらくすると黒の革ジャンにハットを被り、金色のサングラスをした男がそっと霧崎の隣に座る。その男に霧崎は声をかける。


「相変わらずの格好だな。」

「なかなかイケてるだろ?お前も真似していいんだぞ?」

「バカを言うな。」

「ふっ、分かったよ。それで先生ごっこは楽しいか?」

「生徒とわざわざ決闘して上手く負けてやったぞ。お前にも見せてやりたいぐらいの名演技だったな。」

「かの〝刀皇〟が世間知らずの高校生のお坊ちゃん相手に負けたなんて滑稽だな」

「それより、1週間後、奥多摩で新入生オリエンテーションがある。一応、人手の準備をしておいてくれ。」

「怪しい匂いがプンプンするぜ。炎のオッサンは来るのか?」

「東堂さんは来ないそうだ。俺たちだけでも十分だろう。」

「だろうな。じゃあ次はオリエンテーション初日の日没に会おう。」



そう言って革ジャンの男は五千円札を置いて出ていった。2件の密会を済ませた霧崎は追加のカクテルを頼み店内で1人静かに飲み続けた。




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