第2話 霧崎、クビになる?

午後の授業が始まった。霧崎は壇上に上がり、午前中とは違い引き締まった顔で教卓を強く叩く。生徒はこれからやっとまともな授業が始まるのかと気を引き締める。午前中、散々文句を言っていた南や飯島でさえ期待している。


「よく聞け。今日から授業は基本、自習にする。分からなかったら清宮先生に聞け。」


すかさず南が立ち上がり非難の声を上げる。


「ふざけないで下さい。ちゃんと授業をするのが教師でしょう。」


クラス中が南の意見に同意する。


「授業って言ってもそんなん教科書読んでれば分かるじゃん。」

「そういう問題ではありません!」


すると、そこに第三者の声が響き渡る。


「これは何事ですか、霧崎先生!」


近くを通った学年主任の木村の怒鳴り声だ。すると飯島が立ち上がり喋り始める。


「木村先生聞いて下さい。霧崎先生が授業をせずに全て自習すると言うのです。遅刻の上、こんなふざけた事をする担任は今すぐ変えて下さい!」

「何?貴様はふざけているのか!そもそも

4級魔法師の分際で関東第一高校の教師は務まらん!無能はとっと担任を辞めろ!」


クラス中にどよめきが広がる。彼らは霧崎が

4級魔法師だという事に驚きを隠さなかった。


4級魔法師。それは魔法師の能力を表す国際ライセンスの1つの等級である。国際ライセンスは上から順に大きく


大賢者

賢者

魔導師 

魔法師


 

に分かれている。魔導師以下は一等から五等の上級魔導師、六等から十等の下級魔導師、1級から5級の上級魔法師、6級から10級の下級魔法師に細かく別れている。一般的な魔法高校の生徒は卒業時に6級魔法師のレベルの人が多いが、関東第一のようなエリート校では一年生で既に6、7級魔法師のレベルに達している生徒も多い。つまり、霧崎はこの学校の2年と同じレベルだという事だ。


関東第一は関東最高峰の魔法高校で日本の魔法高校で5本の指に入り、将来、国を背負う魔法師を多く輩出する学校である。だから教師はほとんどは下級魔導師で中には上級魔導師のライセンスの教師もいる。霧崎を怒鳴りつけている学年主任の木村も五等魔導師のライセンスを持つ。


クラス中から騒がしい声が聞こえる中、南が立ち上がり白い手袋を取って霧崎に投げつける。魔法師が手袋を投げつけるのは決闘を挑む時の合図だ。


「木村先生、私は既に4級魔法師です。こんな無能な4級魔法師は余裕で倒せます。だから決闘させて下さい。」


南は20歳を超えてもなお自分と同じライセンスの霧崎に対して自分の方が才能があると感じたのだろうか、その目は勝てると確信したような目だった。


「いいでしょう。みなさん、闘技場に移動してください。私が審判を引き受けます」

「おいおい、俺はまだ手袋を拾ってないから決闘を受けるとは決まってないぜ?」

「貴様は生徒からの決闘すらもにげるのか!この臆病者め!」

「まぁ、いいだろう。放課後、全校生徒の前での公開決闘なら受けてやる」

「それで構いません。霧崎先生、先生が負けた時にはそのクビを覚悟していてください。」


この騒ぎは全校の生徒から職員まで全員に知れ渡り、全員が放課後を楽しみに午後を過ごした。




決闘が全校に知れ渡った後、霧崎は校長室に呼ばれていた。


「初日から随分目立っているけど仕事の方は大丈夫なのか、霧崎」


そう尋ねるのは関東第一魔法高校の校長にして、数少ない〝賢者〟のライセンスを持つ

東堂日向である。東堂は日本一の火属性の使い手との呼び声たかく、二つ名は〝炎帝〟である。


「大丈夫ですよ。俺は前から仕事はきちんとやる方だったでしょう?」

「まぁ、お前の同僚は基本的に変人しかいないから」

「明日、派手に負ければ俺はただのコネで入った無能としてさほど警戒もされないでしょう?」


2人がコソコソ話しているうちについに決闘の時間になり霧崎は闘技場へと向かった。


闘技場には既に全校生徒と職員が集まっていた。決闘相手の南はもうスタンバイしている。霧崎は自分の位置につく。


「今回は遅刻せずにちゃんと来たのですね。木村先生、早く始めてください。」


「これより、南沙羅と桐崎零二による決闘を始める。両者、始め!」


圧倒的に南を応援する声援が多い中、決闘は始まった。

霧崎は一般的な腕輪型の魔法補助装置、通称デバイスを起動して術式を展開する。それよりも早く南の魔法が発動した。


「〝火弾〟《ファイアバレット》!」


南の声と共に火の弾が飛び出す。


「〝水盾〟《ウォーターシールド》!」


霧崎の前方に現れた水の盾が火弾を防ぐ。その隙に南は既に次の魔法の準備を始めている。

霧崎もすぐに次の魔法の準備に取り掛かる。


「〝火弾〟《ファイアバレット》!」

「〝炎弾〟《フレイムバレット》!」


僅かに霧崎の火弾の方が発動が早かったが、霧崎の火弾はワンランク上の魔法の炎弾とぶつかり消滅する。霧崎は回避が間に合わず炎弾をもろに受け、そのまま前に倒れる。審判の木村は一歩前に出て大きな声で宣言した。


「霧崎零二の戦闘不能により、南沙羅の勝利とする。」


観客が大いに盛り上がる。その大半は新入生に負けた霧崎を侮辱するような発言ばかりだ。木村は続けて観客に向けて言った。


「よって霧崎零二をSクラスの担任から外し、私が学年主任と兼任します。」

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